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摩擦の話

摩擦は無視されがちです。影響がそれほど顕著ではなかったり、あるいは運動方程式を簡単にして解きやすくするためです。しかし、接触がある限り摩擦は必ず発生します。それは原子レベルのミクロな世界においてもです。

摩擦現象は意外と身近に溢れています。例えば、釘が抜けない原理も摩擦力にあります。このようにスルーされがちな摩擦ですが、少し理解を深め見方を変えるだけで、普段何気なく見過ごしていた現象も新鮮な気持ちで味わえるかもしれません。摩擦の詳細な理論は他稿に譲り、本記事では入門としての摩擦の基礎をできるだけ平易に解説していきます。

摩擦の難しさ

摩擦現象は複雑で、いまだ解明されたとはいえず、各方面で究明が続けられています。多くの要因が絡む複雑な多体問題となっています。以下に摩擦を難しくする要因をまとめてみました。

・金属のように接触面で塑性変形が主に起こる物質と、ゴムのように弾性変形が起こる物質とでは摩擦の発生機構が大きく異なる

・負荷の大きさや滑り速度など機械的条件や摩擦環境などで摩擦特性が変化する

・摩擦条件だけでなく、摩擦表面に生じた損傷の進行度合いでも様相が変化する

・摩擦表面だけでなく、摩擦表面に介在する粒子(外部からの混入物や移着粒子など)や、周囲の雰囲気物質(気体や潤滑剤など)が互いに作用し合い発生する

・摩擦面はリアルタイムで直接観察しづらく、そのため何が起きていたか把握するには、摩擦面や摩耗粒子等の観察・分析に頼らざるを得ない

・試験後の摩耗面や排出された摩耗粒子を観察・分析することで、どのような摩耗形態であったかを判断する必要がある

・摩擦実験で得られる情報の多くは、それぞれ「点」 での情報であり、これら点と点の隙間を補完する事象は想像するしかない。


静止摩擦と動摩擦について

摩擦とは、接触している物体の運動を妨げる現象です。静止中と運動中で分けられ、前者を静止摩擦、後者を動摩擦と言います。一般に静止摩擦の方が大きな力となります。身近な例として、ボールペンの書き始めの方が筆記中よりも抵抗を強く感じます。


転がり摩擦と滑り摩擦

動摩擦はさらに、転がり摩擦と滑り摩擦に分類できます。転がり摩擦とは、摩擦面に球状の物体が介在し、その球が転がることで摩擦面が移動する現象です。
車のタイヤが一番わかりやすいです。タイヤが転がると摩擦面は常に動いています。タイヤのとある一点でずっと摩擦しているわけではありません。一方の滑り摩擦は、多くの方々が想像している通りで、摩擦面がそのまま滑るときの摩擦を指します。



乾燥摩擦⇄境界摩擦⇄潤滑摩擦

摩擦は流体の有無でも分類されます。摩擦面が流体を介して接している場合を潤滑摩擦、流体がない場合を乾燥摩擦、少しだけある場合を境界摩擦と言います。

まずは流体摩擦から説明します。流体摩擦とは、表面が流体によって完全に隔てられているときの摩擦です(完全と表現する理由は読み進めていくとわかります)。この場合、摩擦現象は流体の粘性に依存し、摩擦係数は0.001以下と著しく小さくなります。流体摩擦では、摩擦面間に形成される流体膜が高い圧力を発生させ、表面同士の接触を防止します。そのため摩耗や表面損傷を抑制する効果があります。

続いて、乾燥摩擦は摩擦面が完全に綺麗な場合の摩擦です。例えば真空中です。この場合、表面に不純物は付着しません。そのため接触点では、金属結合などの強力な凝着が生じます。このとき摩擦係数は1~10と非常に大きくなります。ただし真空は滅多にない特殊例です。通常よくある大気中では、固体表面に水分や汚れ、酸化膜が付着してしまいます。このように工学上完全に綺麗な表面はなかなかありません。

そのため真空に限らず、吸着膜や潤滑剤が介在さえしなければ、総じて乾燥摩擦と呼んでいます。このとき摩擦係数は0.5~1.5です。(数だけ見ると小さく感じますが、十分大きいです)いずれにしても乾燥摩擦は、流体摩擦と比べ大きいため、動力の損失や表面損傷が大きく何らかの潤滑対策が必要です。

最後は境界摩擦です。境界摩擦とは、摩擦面に潤滑作用を有する気体分子や液体が付着し、滑りやすくなったときの摩擦です。摩擦面に付着する不純物が潤滑作用を持っているという点において、先程の乾燥摩擦とは異なります。このときの摩擦係数は乾燥摩擦に比べ小さく0.1程度です。

摩擦の原因

摩擦の原因には複数の説があります。
①凝着説
二つの面の接触部分に凝着が生じ、この凝着を引き離したり、引き千切るときに発生する力を摩擦と考える説です。

②掘り起こし説
接触面間の微細な凹凸や硬質な粒子が、相手側の面に食い込み、掘り起こすことで発生していると考える説です。



摩擦力の数式化

上記の原因から次の数式が立てられます。
F = ΣF1+ΣF2+ΣF3+ΣF4

F  : 全体の巨視的な摩擦力
F1: 材料の弾性変形による抵抗,
F2: 材料の塑性変形による抵抗
F3: 凹凸や硬い材料が柔らかい材料表面を掘り起こすときに起こる抵抗,
F4: 材料同士の凝着部分のせん断による抵抗.


摩擦熱の原理

接触面の分子や原子がこすれ、熱運動のエネルギーが増えるからです。 これにより摩擦にで熱が発生します。


摩擦と摩耗の違い

摩耗とは、摩擦に伴って生じる物体表面上の微視的な破壊現象のことです。摩擦が先で摩耗が後です。摩耗は通常、損失体積や損失質量で表されますが、損傷の深さや面積で表される場合もあります。また摩耗には次の4種があります。

摩耗形態とメカニズム

摩耗はそのメカニズムから4つに大別されます。
1、凝着摩耗(AdhesiveWear),
2、アブレシブ摩耗(AbrasiveWear)
3、疲労摩耗(FatigueWear)
4、化学摩耗(ChemicalWear)


1、凝着摩耗
摩擦面上の微小な凸部同士が凝着したりせん断破壊することで発生します。凝着部の方が表面内部より強いと、せん断は内部の方で発生します。

そのせん断破壊により相手面へ移着した微粒子は 摩擦の繰り返しによって成長し、最終的には摩 耗粒子となって摩擦面から脱離して摩耗が進行します。



2、アブレシブ摩耗
アブレシブ摩耗とは、硬い固体表面の凸部が柔 らかい相手面を掘り起こし、削りとる摩耗形態のことです。



3、疲労摩耗
摩擦力が繰返し作用することで薄片状の摩耗粒子が発生し,表面にピッチングやフレーキングが生じる摩耗です。

ちなみにピッチングとは局部的または点状に生じた侵食または腐食のこと、フレーキングとは表面が魚のうろこ状にはがれる現象のことです。



4、化学摩耗
摩擦表面と潤滑剤が化学反応を起こし、その時の生成物が摩擦せん断によって表面から取り去られるよう摩耗を化学摩耗と言います。
物体が腐食環境下に置かれた場合でも発生します。特に金属の摩耗では注意が必要です。
 

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