設計職の話2
前回の続きです。
設計の多面性
設計には6つの設計要因があります。
「大きさ・形状・機能・材料・加工法・強度」
設計ではこれら個々の要因を多面的に捉え、相互に関連させることで最適化を図っていきます。さらにその最適化は決められた順序に沿って単調に進めるものではなく、検討や修正を繰り返しながら総合的に収斂させていきます。
このように設計は、統合的な側面がある一方で、統合したパラメータを評価・吟味する「分析的な側面」も併せ持っています。
設計の一般性
設計は主に次の理由から一般化が困難です。
・設計対象により分野にバラツキがあること
・設計は経験則の色が強いこと
【設計対象により分野にバラツキがある】
例えば力学現象、電気現象、流体現象、熱現象、化学反応など、それぞれ異なる分野の現象を考慮しなければなりません。
そのため設計は、各分野ごと個別に習熟すべきものであり、1つの方法論が全てを網羅することはありません。
【設計は経験則の色が強い】
微分方程式は一度習得すると様々な問題に対処できます。微分方程式は抽象的なものですが同時に一般的でもあります。
一方で設計の習得は従来から経験的、体験習得的に行われています。勿論、設計にも設計方法論や工学的設計という分野があり、設計者に対し効率的な設計方法の指針を与えるものがあります。その意味では有用です。
しかしそこで提起された方法は、豊富な設計経験者の体験物語としての主張であって、正か誤かという決定的な判定が下されたものではありません。それが検証ないし反証を受けるような整合的形態を始めから持ち合わせていません。微分方程式の一般性とは質的に異なります。
設計のポイント
「設計環境も重要」
設計作業は設計者の個人的経験に負うところが多く、ノウハウの蓄積や設計組織の編成、設計要素や手法の標準化など、設計周りの整備も重要となります。
「設計は経験主義的」
既に述べたように設計教育は、他の分析的学問の教育に比べると極めて経験主義的です。システマティックな学習法があれば、設計者として早く上達します。
「設計の自動化は遅れている」
他の部門と比べ設計は自動化が遅れています。量的のみならず質的にも遅れています。例えば過度の自動化により、設計者の創意を拒否したり、単に設計者の作業をプログラマの作業に移行させるだけであったり、また単純な定型作業を優れた設計者が行い時間を労費したりする例があります。自動化の際は人と計算機の役割配分を合理的に決定できるものでなければなりません。
【設計にはある程度の社会的な知識が必要】
設計には必ずお金の問題が関係します。ものを作るプロセスで、そのものの値段を無視するわけにはいかず、材料費、製作費など費用の問題を切り離すことはできません。製作費にしても、できるだけ手持ちの工作機械を用いて製作するよう企画しなければならず、切削や組立の工程数を一つでも減らして、できるだけ安く作ることも考慮しなければなりません。
新規設計者と改良設計者
【新規設計者】
機械を新規設計する者の出発点は「動かない機械であり壊れる機械」です。
つまりどうすれば正しく動く機械になるか、どうすれば壊れないか、ということから設計を始めます。新規設計者はいろいろ考えて機械を何とか動かそうとし、また壊れないように試行錯誤します。この過程を繰返すため、設計中の機械の形状や構成を変えると、機能や性能にどう影響するか完全に理解します。
【改良設計者】
一方、改良設計者の出発点は「完成された動く機械であり壊れない機械」です。表面的な機能や性能を理解することはできますが、その形状や構成に至った経緯について詳しく知ることは難しく、新しく改良したときの影響を完全に把握するこおは困難です。そのために誤った判断を下し機械を改悪することが起こり得ます。
新規設計者と改良設計者は、俗にいう一代目と二代目のように異なります。
【両者のズレ】
上記の問題を避けるために、新規設計者の意図や知識を伝える努力はなされています。しかしなかなか思うようにはいきません。新規設計者が重要だと思い残した情報が、改良設計者が必要とする情報であるとは限りません。新規設計者は改良設計者が何をするか予測することが難しいためミスマッチは避けられません。
また常識に対するズレも相互の理解を妨げます。一般に、設計ミスに繋がりやすい恐ろしい常識のミスマッチは、技術環境の急速な変化によって、あるときは重要であったことが、後には無視できるようになるような場合で起こります。
設計の標準化
最近の設計は、巨大化・複雑化しとても一人の設計者の手に負えるものではありません。また関連する技術分野の広がりに伴って求められる技術情報も広い分野にまたがり、一人の設計者の能力を超えます。
そのため設計の分業化が不可欠になり、分業化しても設計の一貫性を失わないようにするために、設計作業の標準化などが必要になっています。
設計のジョブローテーション
一般に、企業内の技術者は5〜10年ごとのジョブローテーションを通じて新しい知識を吸収しリフレッシュを図ります。同時に組織内の人間関係の輪を広げ、組織の活動の仕組みを理解していきます。このようなローテーション制の教育によって、企業の技術力と活力が維持されていきます。
設計の脱人化
設計ミスを失くすには設計技術の脱入化が必要です。例えば企業では、技術資料マニュアル、設計事例集、設計チェックリストなどを用意しています。これらはいずれも個々の設計者が設計行為を通じて獲得した設計の知識を、客観化して脱人化することによって、設計全体の共通知識とすることを意図したものです。
また図面の標準化、技術計算方法の標準化や統合化も進められています。このような標準化も技術の脱人化を目指したものと言えます。
参考文献
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小野里雅彦、ものづくり形態の変化とこれからの設計研究 (キーノートスピーチ) 多様化・流動化する人工物環境での設計とは、精密工学会学術講演会講演論文集 2017 年度精密工学会秋季大会、573-574、2017
大富浩一、設計工学の目指すところ: 設計からデザインへ、日本機械学会論文集 C 編 75 (751)、516-523、2009
吉川弘之、設計学研究、精密機械43号1巻
武田英明、冨山哲男、吉川弘之、設計過程の計算可能モデルと設計シミュレーション、人工知能 7 (5)、877-887、1992
吉岡真治、中村雅彦、冨山哲男、吉川弘之、複数の設計対象モデルを扱う設計過程モデル、日本機械学会論文集 C 編 61 (581)、330-337、1995
中島尚正、設計技術の継承について、計測と制御 29 (6)、557-560、1990
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