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初めての景色たちが、走馬灯のように流れていく




その夜、夢を見た

それとなく職員室に寄った。彼を一目見たくて、見ていないふりをして学校を出た。

校舎の窓際の帰り道、わざとゆっくり歩いて、まだ校舎が続いている頃、友人に、

「あ、そういえばシロクマ(私)ってさ、先生と付き合ってるん?」
「え、あ、、うん、えっと、かn……」
「望月先生でしょ?」
「え、うん。そうそう。」

彼の本当の苗字を言いかけて遮られた、

望月先生、

先生は偽名を使ってた。私だけが、先生の本当の名前を知っているんだ。

先生の横顔を校舎の窓から遠く見ながら、頬を桃色にして、校舎にもたれかかる。

ジリジリと足を帰路に返すフリをして。

先生は忙しそうでこっちには気づかないんだ

それでいい。下校時間を過ぎたら先生はきっと私の瞳を見て、笑顔で、頷いてくれるから。

よく晴れた小春日和の16時、夕暮れと一緒に先生を待った


そういう夢だった。


起き上がって、寒い朝

冷える肌に毛布をかけ直す

もうとっくに明るくなった空が明日になったよと呟いた

もう少女漫画のヒーローも、あの先生も居ない朝

今起き上がったら、ぜんぶ夢になってしまう

そう思ってぎゅっと目を閉じた

ぎゅっと

毛布をかぶって

だけど

毛布にまで入り込むカーテンの明かりは

それを許さなかった


私の体温だけじゃ

毛布は直ぐに冷めていく


それが悲しくて


眠い目を擦って布団を出る

昨日残したお酒の缶が転がっていた

いつもの部屋で

いつもの私が居ない


暖かい胸の中でどれだけの安心を貰ったのか
私はその重さに耐えきれなくて、涙を滲ませた


思い出すのはまたあの日たちのこと


全てがきらきらしていた

おそろいの私たち

お似合いの私たち

右手に残ったのは拭った涙だけだった




初めての景色たちが、走馬灯のように流れていく


喜びも楽しさも苦しさもぜんぶ拭い去ってしまうように

手で掴もうとしてもそれは砂のように零れ落ちてって、

これじゃ拭こうにも拭けないじゃん


泣きながらまた考える

あの日、あの時、私が、


………………。


タラレバなんて意味無いのに



抱きしめられた温もりを思い出せなくなるのが苦しくて拭いては涙が出てきてしまう

こんな日々も「普通」になってしまうんだね


そんなの想像すらできてなかったよ


私がずっと特等席にいると思っていた


全てが嘘になったあの日
手紙なんてもう書けなくなった

私の気持ちなんて、紙飛行機にでもしてどこかへ飛ばしてしまえばいい


冷たいフローリングに落ちた涙は
冬の空気に冷えてしみになった

あの日くっつけた頬は
クレンジングで排水溝に流れてしまった


あたたかかった

愛しい寝顔と
握っていた大きな手が

今、ぜんぶ過去になったんだって。

2人よりも1人の方が幸せだって。

私は立ち尽くすしか無かった。
何も出来なくてごめんなさい。

泣いてばかりで転んでばかりで
情けない

私は結局こうなんだって
いつもみたいに蓋をしようとしても

思い出が溢れてきて止まないんだ

涙を拭いながら
鼻水を拭いて

もうこの部屋には誰も来ない


誰かが、
そんなの嘘だって
そんな奴だったんだろって
そんなの捨てちまえよって

言ってたとしても

私だけは絶対に、私の中で嘘にしたくない

ただそれだけが私を生きる最低限に
あたためてくれる

強く握った拳が解けていく感覚が
全身を伝って力が抜けても


私だけは

私だけは


私だけは


ずっと忘れない

初めて見た桜も
初めて触れ合った水の中も
初めて口にした家族みたいなご飯も
初めて潜った夜の海岸も
初めて人を愛したことも
初めて人に愛されたことも
初めて秘密を話したことも

初めて
この人のために生きたいと思ったことも


果たせなかった約束も


私だけは私の中で絶対に嘘にしたくない

夢見たいな初めてだった


たくさんの初めてが

冬風に溶けて私の頬を撫でていく




初めての景色たちが、走馬灯のように流れていく



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