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中編小説『二人』

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2022年3月の記事一覧

中編小説『二人』(2-7)

中編小説『二人』(2-7)

 9月も末になり、半同棲を始めて二ヶ月経った。当初感じた新鮮さは、判で押したような日常の反復によって次第に色彩を失い、穏やかな単調さに変わる。ノゾミの生活に、私は部外者として邪魔している身分であったが、ノゾミは何も言わず、ただ彼女の作り出す静謐の中でじっとしていればよかった。
 ある日、私はこの生活をこのまま継続するには物質的な役割を担う必要があると思い、生活費の一部を出すと提案した。「こちらがお

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中編小説『二人』(2-6)

中編小説『二人』(2-6)

 私にはもう半分の日常がある。
 立ち並ぶ家々の陰に陽が隠れて、微かに耀う紅が間もなく消える時刻、私は、数日分の着替えの入ったボストンバッグを下げて、玄関のドアの前に立つ。ドアノブを掴んだ手は押せばふにゃりと折れてしまいそうなほど力ない。他人の家を前にしたときのように、耳を澄まして家の中の様子を窺う。父親は、帰宅して、居間のテーブルに夕刊を広げ、紙面の端から端をくまなく読んでるだろう。母親は、事前

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中編小説『二人』(2-5)

中編小説『二人』(2-5)

 夜勤と日勤を不規則にこなす生活を数年送り、眠りは融通のきかない他人のようなものになる。寝付きは悪く、それに連れて寝覚めも悪いので、いつまでも布団の中で愚図つくことになる。空腹を覚えれば、布団から手を伸ばし、床に放り出された食いかけの菓子を貪る。母親が退院してから、口に合わぬものを毎日食べさせられ、痩せるものと思っていたが、存外に体重が増えたのはこの悪習のせいだった。もっとも出されたものは残すわけ

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