可愛い顔して本格SFホラーな『惑星クローゼット』
『惑星クローゼット』が完結した。もう一度、最初から読み返して考察したくなる怒涛の展開で、読み終えて深く深く溜息が出た。
僕が『惑星クローゼット』を読み始めたのは3巻が出た頃だった。前から作品自体は見かけたことあったのだが、謳い文句が“百合×SFホラー”というなんとも「盛り盛り」なものだったのと1巻の表紙を見て貰えば分かると思うが「え? この絵柄でSFホラー??? どうせまた中途半端な百合マンガなんじゃないか?」と懐疑的になってしまいスルーしていた。
こういうことよくある。そして、こういう先入観が本当によくない。
まず「百合要素」は薄っすらと香るくらいしかない。ストレートに表現としてはほぼ無い。無いが、根っこの部分に複雑な感情としてあるものが表面化する瞬間、仄かな匂いがする。
あんまり言うとネタバレに踏み込んでしまう要素でもあるから、これ以上は言及しない。だが、その微妙な要素が、また良かったりするのかもしれない。
「SFホラー」だが、これはもうゴリッゴリだ。1話の冒頭からゴリッゴリにSF的な展開から始まる。
気が付くと目の前に見知らぬ少女が立っている。
「いつからそこに居たの?」
「だめ!ここを離れなきゃ!」
慌てて走り出す少女と得体のしれない巨大な物体。
ハッと目を覚ます。夢だったようだ。
最近、同じ夢をみる。どこか知らない場所で、知らない少女と“何か”から逃げなきゃと怯えている夢。
そして、眠るたび夢の続きがはじまる。
翌朝、男子が用水路を見ながら騒いでいた。
「UMAだよ」
「ヘビじゃなかった!」
見ると本当に“何か”がいる。
ひとりの男子がフラフラっと用水路に入っていく。
「危ないぞ!」
そんな声も聞こえないのか用水路に跪く。そしてそのまま、ひぽぽぽ……と足首くらいの深さしかない用水路に男の子は目の前で消えていった。
「うそでしょ」
その晩、また夢で同じ場所にいく。
そこに用水路に消えた男の子が倒れている。
「はなれて!」
あの少女が遠くで叫ぶ。
「でも…」
躊躇していると男の子が立ち上がる。
虚ろな目の男の子は……。
第1話である。
ゴリッゴリの異世界転生モノの如きSF要素と触手系な異形のモノが出現というホラー要素が冒頭からノンストップで繰り広げられる。ゴリッゴリ、なんだが絵柄が可愛いほわほわした雰囲気だからサラサラっと流して読めて、異形の男の子が登場した瞬間に「ぎゃーーーーーー!」と戦慄する。
もう、そこからはローラーコースタームービーのような怒涛の展開。眠るたびに辿り着く不思議な惑星と現実の世界を行き来しながら、次第に両者の境目がなくなっていく。
まるで伊藤潤二の『うずまき』とか楳図かずおの『漂流教室』のような骨太な不条理SFホラーである。両先生の作品が好きで、諸星大二郎大先生の作品が好きな人、無条件で『惑星クローゼット』をオススメしたい。
実写映画だったら黒沢清作品みたいな「過度な説明なんてしない」ホラーとか好きな人。『回路』や『CURE』『叫び』などなど好きな人には是非ともオススメしたい。
空気感というか漂い続ける居心地の悪さが大好物だと思う。
最終の4巻は表紙だけ見るとゴリッゴリの百合マンガのようだ。1巻の表紙と比べてほしい。
「どうした?」というくらい耽美になっている。
だが、表紙に騙されちゃいけない。ただの百合なんかじゃないのだ。読み終わってから見ると、おそらく全く印象が変わる。表面的な印象に惑わされてはいけない。
あ、でも『まどマギ』好きな人には4巻の展開はドはまりしそう。そういう意味では「百合感」はあるのかもしれない。完全なるプラトニックな部分、スピリチュアルな部分で百合なのかもしれない。
ながながと抽象的な話ばかりしているが、全4巻という短い作品でもあるので、少し説明しだすと即ネタバレしてしまう。「気になった人は買って読んで下さい」としか言いようがない。さて、僕はもう一度1巻から読み返すとしよう。
Netflixとかでアニメ化しないかなぁ。
この記事が参加している募集
全て無料で読めますが、「面白かった!」「すき!」なんて思ってくれたら気持ちだけでもサポート貰えると喜びます。