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【随筆】堕ちていく夫婦                   第一回 洗脳された者の行きつく場所

〈はじめに〉
※ここを必ず最初にお読みください。

ご訪問頂きありがとうございます。これは共依存関係だった元夫と私のお話です。今思うと当時私は元夫に洗脳されており、精神的に支配されていました。同じような境遇や経験をされた方にとっては苦しくなってしまう表現などがあるかもしれませんのでご注意ください。

世の中には私たちのような共依存夫婦やカップルがたくさん存在すると思います。夫婦や恋愛関係では、愛ゆえに二人の人間を密接に結び付けますが、洗脳や支配といったような危険な関係性を生み出すことがあります。お互いに傷つけようとしていないにも関わらず、それは時に簡単に起こってしまいます。

恐ろしいのは、共依存に陥っていた人はそこから抜け出した後もその時の経験に長く苦しめられるという事です。

私は自分自身を客観視し、前を向く為の一歩としてこのエッセイを書きます。同時にこれが弱い立場に置かれ、苦しんでいる方への気づきや救いになってほしいと切に願います。



〈本編〉

彼は理路整然と、親が子供を𠮟りつける時のような口調で私を諭す。鬼の首を取り、それを大衆に見せつけるヒーローのような口ぶりで話す彼を、私は静かに聞き入れる。黙々と単純作業をこなすかのように。私は自分の意識を頭のてっぺんから真っ直ぐ上に40㎝ほど伸ばした地点に浮かせ、このつまらない彼の演説をどう切り抜けようかとだけ、ふわふわと考えあぐねいていた。しかしどんなに考えたところで、この局面をうまくかわす方法など見つからない。ひとしきり私がいかに愚かで、間違った行いをしたかを述べている彼に、私は一言だけ言った。

気持ち悪い。

夫はわざとらしい大きなため息を吐き、ただ一言気持ち悪いと言い放った私の幼稚さを再び懇々と説いていた。私がまたぼんやりとしていると、気が付いたら演説は終わっており電話は切られていた。1年ほど前から別居している夫と離婚協議を進める為に電話で連絡を取り合っており、その度に彼からの説教を聞かなければならなかった。ただひたすらぼうっと、無心で聞いているつもりだった。それでも脳内には、やつからの罵倒の言葉がしっかりと刻まれているのがわかる。


結婚生活中、この男は頻繁に私を説き伏せていた。私の為、私を愛しているからこそ言うのだ。なぜわかってくれないのか、と。意見の衝突が起こる度に言いくるめようとする夫に、最初の方は私も引き下がらなかった。あなたはそう言うけど、私の考えはこうだ。解決できないならどこかで折り合いをつけよう、と訴えかけていた。何度も何度も訴えた。しかし、この男が自分の意見を曲げることは、天地がひっくり返ることがあり得ない事と同じくらい、絶対にない。そのことを悟ってから私は、彼の意見を呑んだように見せかけその場を収めるという方法を取るようになった。自分の精神治安を守るための苦肉の策だった。

かつて私はこの男を心から愛していた。そして誰よりも何よりも信頼していた。夫であり親友で、生涯の恋人だった。不安障害と、それによる抑うつ症状に苦しんでいた私を救ってくれたただ一人のひと。唯一の理解者だと信じて疑わなかった。
しかしそのことが、未来の私を地獄に突き落とすことになる。

続く

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