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小説『世界見学』② / 華乃(Geno)

“2章 宗教に侵された国”
次はどんな国だろう。
名前からすると、おそらく宗教にすごく熱中している。
そんな雰囲気をとれるが、変な人がいそうな国だな、どんな面白い異文化が見られるだろう。
なんて考えながら歩いていた。
この国にはとくに門や仕切りのようなものは全くなく入国も許可なども必要なくすんなりと入ることができた。
国に入る前から、遠くに塔のようなものが見えていた。
おそらくあの巨大な建物が国の中心地だとおもい、まずはそこを目指してみることにした。
国に入りすぐに気づいたことが1つあった。
この国の道はとても綺麗に整備され、さらにゴミがひとつも見られないほどに綺麗だったのだ。
靴の泥を落として入ろうと思わせるほどに綺麗だった。
この国の人たちは、綺麗好きで几帳面な人が多いのだろうか。などと考えながら歩き進めていくと、建物が並ぶ街が見えてきた。
とても変わった形の建物が多く見られた。
右と左が非対称な建物、細長い建物や、地面から生えてきたような斜め四角い建物だ。
とても面白い形でありながら、まともに建っていることに驚きを感じていた。
伝統ある文化が根付き、技術的にも優れている国なんだな。など考えているとすぐ目の前にとても大きな迫力がある塔が現れた。
遠くで見たときとは全く違う。
オーラのようなものを感じさせる塔だ。
塔の周りを小さな塔が4本、バランス良く4方向に建てられていた。
とても、綺麗でバランスがとれなにか神々しいものまで感じた。
よくよく考えてみると、ここまで人とまったくあっていない。
気配すら感じられないほどだ。
とても静かだった。
不思議に思いながらも、塔に入ってみることにした。
とても重そうな鉄の扉がありそれを押し進だ。
するとそこは宿の受付のような場所に1人のシスターが座っていた。
白い布を被り全身が白く神々しく、首から赤いネックレスを下げ、そこで分厚い本をよんでいた。
とても美しく、いかにも女神なんて言葉が似合うような人だ。
すると、こちらに気づいたのか一礼し、優しい口調で「どんなご用件でか?」と尋ねてきた。
旅をしながら写真を撮っているものなのですが、この塔を探検したいとおもいまして。と答えた。
すると笑顔で、では私が案内いたします。と言い本を閉じこちらに近寄ってきた。
「その本は?」と尋ねると。
「聖書です。常に持ち歩き常に読んでいるのです。」とかえってきた。
近くで顔をみるととても肌が白く、髪も白い色をしていた。
本当に美しいと思えた。
首から下げた赤いネックレスの中心には三角を3つ重ねたような模様がはいっていた。
聖書の表紙にも同じような形が見られた。
そして、案内されるがまま階段を登り2階にくると部屋の中心に向き大勢の人が土下座をしているような体勢で座っていた。
しかし、物音ひとつなく静かだ。
そのまま20分くらい経ったであろうときに皆が立ち上がり1礼し、無言のまま階段を降りてその塔を出て行った。
丁度最期の1人が出て行ったとき、上から人が降りてくる音が聞こえた。
また、大勢の人が無言で降りて塔から出て行った。
これが2回ほど続き、終わった頃、少女がこの国では5つの役割があるんです。
農業や建築や工業など生産するものをプロダー。
物の解体や狩猟など破壊するものをディスター。
商業など商いをするものをトラダー。
警察や政治を回すものをポリター。
そして私、聖職など神聖な事柄をするものをシスター。と5つに分類し、全ては神により産まれたときから与えてくれる天職だとし、分類分けされています。
そして礼拝は正午から行われ、時間を微妙にずらし各界で部類ごとに分けられ礼拝をおこなっているのです。
私たちシスターは朝と夜に礼拝をおこなっています。と説明してくれた。
なぜ階層をわけているのかが疑問に思いながらも、そのまま全ての階層を案内してもらい塔の様子をたくさん写真におさめた。
どの階層も同じようなつくりで、部屋の中心に描かれた模様が違う、以外に見分けがつかないほどだった。
そして、扉の前に戻り、少女に階層のことを尋ねてみた。
すると少女は優しい口調でこたえてくれた。
この国は、昔から5つの種類に生まれた時から分けられ、天職として決められていました。
しかし、今と異なる点が1つあります。
昔は4つの職があり、それぞれ3つの階級に別けられていました。
ここでは昔から神を信じる国ですので、聖書などシスターが一番、位が高く少数の女性が上に立ち、今で言うポリターの仕事のような政治や治安までもを行なっていました。
次にプロダー、ディスター最後にトラダー、この宗教の教えの1つに禁欲というモノがあり、昔、トラダーは商いでお金を稼いでいたため、お金を欲するもの、すなわち禁欲に背くものとされ、周りから見下されていました。
そして、階級に別けられこの順に礼拝堂の階をわけそれぞれの部屋で礼拝をおこなっていました。
しかし、時代は進みみんなで協力し合おうという風潮が高まり互いに自身の天職を敬い、尊敬し合うようになったのです。
そなため、今は階級でわけてみることは禁止されているのです。
この昔の名残で、今でも昔のように礼拝塔の階をわけておこなっているのです。と教えてくれた。
礼をいい、帰ろうと思ったときあることを思い出した。
この街に来るとき道がとても綺麗だったということだ。それを最後に尋ねてみることにした。
「この国に入ってから道でゴミひとつみなかったのですが…」と、
途中で遮るように、また笑顔で優しい口調で聖書を見ながら女性はこたえてくれた。
「天職を全うしないものには死を。神が絶対でありそれに逆らうものは死を…」
最後に宗教らしい少し怖い一面を見られたような気がする。
それとともに、この国が宗教に侵された国と呼ばれる理由も分かったような気がした。
国の人とのあり方は変われど、神への絶対は昔から続き今もなおこの国に根付いているのだ。
そんな中で、皆生まれた天職を死ぬまで全うし徹底している。
それが本当に幸せだと思っているのかはわからない。
だが、見方を変えれば、初めからやることが決められ、それを全うするだけということは幸せと取れるかもしれない。
この旅を始める前の僕だって、将来への不安があった。
少なくとも、この国の人は未来への不安はまったくないだろう。
それとまた、自由というものが何なのかを考えされられた。
この国に昔あった階級がなくなり、皆自由にはなったはずなのに、神への服従という形では縛られているようにも思えるからだ。
いくら考えても答えは出なかった。
そして、街に出るとさっきまでの静寂とは裏腹に、賑やかで普通の生活をみなおくっていた。
おそらく無言で礼拝をしていたのもそういうマナーなのだろうと思った。
変わった建物が並んでいるのに、生活自体は他の街と変わらない様子で少しおもしろかった。
そんな様子を写真に収めた。
今日は礼拝の写真もたくさんとれ、満足したため国を出ることにした。
帰りの道は国境辺りまではとても綺麗だったが、出た辺りからは普通の道にかわった。
帰りに気づいたが明らかな国境目印はないが見てわかるほどに綺麗さが違っている。
ここからもこの国の徹底の様子が見てとれた。
この国は神を信じ、天職を全うしお互いを敬い支えあいバランスがとれている。
全ては信じることを基においた国だからこそ、宗教に侵された国であるのだと改めて実感した。
そんな国を後にし、辺りが薄暗くなるまで歩き、野宿することにした。
幸いとても過ごしやすい気温だ。
そして夜になり辺りは真っ暗になり、空には一面の星空が広がっていた。
この旅を始めてまだ数日しか経っていないのにも関わらず長い時を旅した気分だ。
それは今までにない文化を目にし、その場で感じたその経験の多さ衝撃の多さを物語っているようにも思えた。
これから先、さらに濃密で長い旅が続き、その度に衝撃を受けるのだろう。
けれども、大学に落ちだときに感じた将来への不安とかそういったものはまったくない。
むしろ、ワクワクしていて次はどんな国だろうという興味や新しいものを経験していくことに楽しみを感じている。
この空に浮かぶ星の数ほどまだ知らない国がたくさんある。
それを見て感じることで何か変われるような気がした。
星の下でそんなことを考えながら、眠りに落ちた。



2章 あとがき

今回は、「宗教に侵された国」という題で書きました。これを書くきっかけとなった事を少し話したい。私たち日本人にとって宗教に入ることは、"自由を失う"ことだと考える人が多いと思う。私もその一人だ。しかし、決められた未来、聖書に従えば、神を信じれば報われる。といった考えがあるため、悩みや不安から"開放"される。悩みからの解放、すなわち"自由"とも言えるのではないか。そもそも信徒と私たちでは、生まれた環境が違う。そのため、考え方の根本が違うのではいか。だから、私たちの言う”自由”のあり方とは違う可能性がある。そんな、違和感を”自由”という比較物を用いて表現して見た。私たちの”当たり前”が、一歩外に出れば”当たり前ではない”という事を考えるきっかけとなっていれば幸いだ。

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