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科研費はじめました。

 文章は、研究者であろうとうまく書けるとは限らない。しかし、専門外の人にも分かるように書かねば理解されない。この点を克服する「理系のための文系伴走者プロジェクト」を、株式会社ポッセ・ニッポンの新しいプロジェクトとして始めました。対象となる文書は、科学研究費(科研費)など競争資金への申請を想定しています。ポイントは、筆者(弊社代表の堀江、文系)でも大意を把握できるようにきちんと書かれた文書に仕上げることを目標にしています。誰が読んでも理解できる文書を仕上げるための伴走者であり、砦でもあります。砦、つまり私という砦を超えられれば、読んだたいていの人が理解できるということです。

 去る11月締め切りの令和2年度科研費の公募に際しては、当方の容赦ない朱入れにもめげず、先生方は辛抱強く書き上げていらっしゃいました。まずは、お疲れ様でした。

 科研費の対象となる研究はむろん理系に限りませんが、本プロジェクトでは主に、理系の研究者の方を対象に文章のコーチングをしております。きっかけとなった出来事は、理系の先生が書いた文書を読んで「もったいない。文章で損している」と強く感じたことでした。こうした、もったいない(はっきり言うと読まれそうにない)文書は、この筆者特有のことなのかどうかが気になって色々とリサーチしたところ、決して珍しいことではなく、むしろ文章で苦労されている理系研究者の方が少なくないことを知りました。

 正直に申しますと、一読して、上述の「もったいない」に至ったわけではありません。書かれていたことが理解できなかったので、評価のしようがありませんでした。筆者(弊社代表の堀江)は文系出身であるため、理解できなかったのかと少し(かなり)落ち込みました。新聞社の出身で文書のエディットは得意ですが、私立文系につき理系科目の受験勉強すら経験しておりません。当初の読後感は、ああ自分はやっぱり…と悲しかったのです。

 ちなみにこの文書は、知人の基礎研究系の大学教授から依頼されたもので、共同研究者が執筆したとのこと。詳しい事情は訊ねませんでしたが、おそらくは依頼者の先生の手に余ったものの、同僚として全面的に直すのは気が引けたのかもしれないと思われました。

 引き受けた以上、「内容が分かりませんでした」と安易に返すにはプライドが許さず、また、尊敬する研究者である先生のお役に立ちたいという思いもありましたので、まずは「何が」分からないのかを自分の中で明らかにしようと思いました。

 蛍光ペンでハイライトを引きながら繰り返し読んでみて見えてきたのは、構造の問題でした。「ここが最重要ポイント(筆者の言いたいこと)である」というサインが示されていなかったり、大事な要素だと思われることが一度しか述べられていなかったりして、他者が理解しづらい構造になっていたのでした。

 さらに前出の先生にも聞き取りを重ねて、やっとこの文書を書いた研究者が言わんとしていることが分かり、「あああもったいない!」と嘆息したのでした。

 しかし、我が身を振り返ってみると、自分は文系出身だから文章を書くのがさほど苦にならないかというとそうでもなく、新聞社で叩き込まれたに過ぎません。文系でこの程度ですから、実験などにかなりの時間を割く理系では、文章を磨く機会はさらに限られていたであろうことは容易に想像できました。にもかかわらず、研究者が研究資金を獲得したり、研究の成果を発表したりするには書いて、研究計画の意義や成果を明確に言語化し、かつその内容を理解してもらわねばならない。どんなに素晴らしいアイデアを温めていたとしても、うまく活字にしなければならないというハードルがあるのです。また、研究は競争でもありますから、同業者にみてもらって意見をもらうことに限度もがあることも知りました。こうした事情は、文章が苦手な方にとっては、大変な苦労であろうと思いました。そこから、新しいプロジェクトへの取り組みが始まりました。

 ここnoteでは、理系の方が文章を書いたり直したりする苦労を少しでも軽減できるように、エディットをしながら気づいたことなどを共有していきたいと思って始めました。また、サイエンス全般についても、折に触れて綴っていきます。

(当プロジェクトの詳細は、こちら

Photo by Janko Ferlič - @specialdaddy on Unsplash