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英語は直線型で日本語はcircular型? アウトラインを書く際に知っておきたいこと

 以前の「科研費振り返り(2020年度分)」にて、執筆に着手する際はアウトラインをきちんと書くことを推奨しました。

 アウトラインについて、興味深い図を見つけたのでここで紹介します。書く側でなく、読む側にどう解釈されるのかという観点に立った内容です。英語とスペイン語、日本語のライティングの構造についてイメージを用いて比較しています。当欄で以前にも触れた、木下(2017)言うところの「逆茂木型」の文章は場合によっては、読み手の言語のバックグラウンドが違うと、さらに複雑な形として認識されてしまうかもしれません。

 Cynthia A. Boardman(2008)は、英語ライティングのテキスト‘Writing to Communicate 1’ の中で、言語によって書き方も違うということを図を使って示しています(xy-xviページ)。英語は極めてシンプルで、初めから終わりまで直線だとしています。(以下、引用は筆者訳)

スライド1

 英語ほど直線的ではない言語の例として、スペイン語が挙げられています。あるトピックについて書いている点については英語同様であるものの、そこかしこでトピックに直接には関係していない事柄が顔を出します。こうすることで、スペイン語話者にとっては書いていることをよりおもしろくできるのだと、Boardmanは説明しています。

スライド2

 これに対し、日本語は「circular」であることが多いとしています。circularとは、ジーニアス英和辞典(第4版)によりますと、「円形の」「循環の」のほかに、「回りくどい」という意味もあります。「主題(topic)は文の最後に表れ、実際には、主題が何であるかを言わない筆者もいる。その代わりに、筆者は読み手に主題を考えるためのヒントを与えている」。この主張に対して全面的にとは言わないまでも、ある程度はうなずける部分もあるのではないでしょうか。(注・図の線がヨレヨレなのは筆者が手描きしたためで、実際の図はきれいな曲線になっています)

スライド3

 ここで読み取れることは、もう一つあります。主題(topic)という表現が日本語のイメージ図にしか出てこないのですが、英語やスペイン語の場合は、「私はこれこれについて書きます」と明言しているので、それ自体が主題であることが明白な構造になっているのです。

 なお、筆者であるのBoardmanの肩書きは、書籍によりますとSpring International Language Center, University of Arkansas at Fayettevilleとなっていますので、テキストは大学生、特に留学生向けに書かれたものでしょう。そのために、言語ごとの思考や書き方の違いを例示しているのだと推察されます。

 実際には、日本語でも実務的な文書においては上記のようなcircularではなく、英語的な書き方が多くなっていますが、日本人としては上記のようになる「癖」や傾向はあるかもしれません。私自身も正直なところ、英作文の構造について初めて学んだ時は、「何て退屈な構造なんだろう…」と思い、抵抗を感じたものです。
 
 本稿で申し上げたいのは、英語ライティングの構造が最も素晴らしいということではありません。言語にはそれぞれ、ふさわしい書き方があり、そのことが言語の美しさの一部を形成しています。ドストエフスキーがもっと理路整然と簡潔に書いていたら、彼の本はここまで広く読まれなかったでしょう。(それはもはや、ドストエフスキーではないかもしれません。)

 ただ、実務的な文書の性質として、不特定多数の人に理解してもらい、誤解されるリスクを極力減らし、また読む人の時間を無駄に費やさないことが求められている場合、シンプルな直線型である英語のスタイルは有用だと言えます。結果として、日本語でも実務的な文書では英語風の書き方になってきています。英語ライティングの構造については、稿を改めて書きます。

Cynthia A. Boardman (2008). 'Writing to Communicate'. New York:  Pearson Education
木下是雄(2017)「理科系の作文技術」中央公論新社。82版。

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