見出し画像

シェラトングランドホテル広島で飲むTWG紅茶と年収1千万の女

本日の主人公
Age:33
Job:飲食店経営

性行為したい対象か否かは、出会って3秒で決まるらしい。

男女交際には「3」が付く時期がターニングポイントと聞いたことがある。

連絡先を交換し、3日以内に連絡があれば恋愛対象。
出会って3ヶ月以内は恋愛に発展しやすい。
交際後3ヶ月すると性行為の頻度が減る。
交際後3年結婚しないカップルは、結婚しない可能性が高い。

彼氏ができると3ヶ月くらいは、相手の仕草や言動が真新しい。元彼とは違う触れ方、反応、弱いところ。そのときはもちろん、翌日それを思い返すだけで幸せになれる。

美味しいものを食べるたび彼に報告したくなり、手土産を選ぶとなれば、何分も無駄に売り場をうろうろ。手料理なんて作ろうものなら、Googleの2.3ページ目まで漁ってベストを尽くす。

絶対、自分のためにはしないくせに。

でも、そんな無駄な時間さえ幸せで、自身の中に芽生える「好き」をどうしようもできず、友人に話しては煙たがられる。

でも、もう知っている。この気持ちが大して長続きしないことを。

結婚したら…いつか子どもが…と話した男性たちは気づけば私を通り過ぎて行ったし、別れた後には別れてよかったと心底思う。

仕事がある。好きなものが買える。

もう、ひとりでも大丈夫。

現に、ひとりで歩く厳島神社は前の彼と来たときより快適だったし、シェラトングランドホテル広島のラウンジで飲む紅茶は、ひとりでもこの上なく美味しい。

いくつか泊まったシェラトンのラウンジには、大抵TWGの紅茶が置いてあり、広島の場合は、2種の時間帯と6種の時間帯の全8種。百貨店のTWGで買って家で飲むそれとは比較できないくらい芳しい。

窓中央部にあるシェラトンのSマーク越しに、比較的新しいビルと山が重なる。駅前からこんなに近くに山が見えるのは広島ならでは。夕暮れ時の景色はまた格別だ。

しかし、特別な日としてここに来ているカップルと見ている景色が同じことに気付くと、たちまちここの居心地は一変した。

そんな日は、ラウンジのちょうど下あたりに位置するジムに非難する。夜なら9割以上の確率でひとりだし、贅沢に配置されたトレッドミルに乗れば、ラウンジと大差ない景色を独占できる。

クタクタになるまで筋トレして走って、大黒摩季の「夏が来る」を大音量で流し、ラスト5分「夏が来る、そして…」を聞けば、痛烈な歌詞に後押しされ、どんなに難ありであっても、ホテルで息抜きできるくらいの仕事に就けていることが誇らしく思えてくる。

「選ばれるのは、結局なんにも知らないお嬢さま」と歌った彼女は、10年後に「ここまで粘ったんだから、本当に来てくれなきゃ困る」と続編をリリース。その後30代で結婚した。

婚活中女性に夢と希望を与え、歌詞にもあったハッピーエンドを迎えたはずの彼女は、それから10年以上経って離婚したらしい。

人生、どこで何があるかわからない。

ワクワクは一瞬で、期待は大抵裏切られるとわかっているはずなのに。

それでも、シェラトンのラウンジでTWGの丁寧な説明書きを見ると、彼の好みを想像せずにはいられない。

どんな男性が相手でも、3の付く時期に変化があって、良くも悪くも、いまとは違う関係になると知っているのに。

いや、そんな諦めたフリは精一杯の強がりで、できることなら愛されたいし、誰かに大切にされたい。

「夢中になれる仕事があって羨ましい」と私に言う友人の愛されっぷりを心底妬み、結局ここにひとりで来ると誰かを思う。

たとえ思われていても、いなくても、誰かを思えることが幸せと言い聞かせ、ジムで消費したカロリーをラウンジの焼き菓子で無駄にする。

いや、人生に無駄なんてことなんて何もない。
大丈夫。きっと、私は幸せになれる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?