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名古屋マリオットアソシアホテルのラウンジと年収1千万の女

本日の主人公
Age:34
Job:内科医

「離婚して欲しいと思ううちは、愛してないのよ」。名古屋マリオットアソシアホテルのラウンジでひとり、ふと友人が発した言葉を思い出す。

2019年の4月にリニューアルしたこのラウンジは、滞在中ずっとアルコールを楽しめるのが醍醐味。

おまけに私の好きなキスチョコまで常備してあり、午後にはラウンジ定番の焼き菓子ではなく、アフタヌーンティーを無料で楽しめる。

休日は本を紙で読むのがお決まり。紙の質感が好きだし、電子版では味わえない期待感と一定スピードで手を動かすのもまたいい。なにより本があれば、ラウンジも寂しくない。

手元の文庫本に出てきた陳腐な不倫劇が、友人の言葉を思い出させ、2杯目のワインと、ビルと空に目をやり、ぼんやりその意味を考える。

そこそこ稼ぎ、そこそこの年齢になると、既婚者と関係を持つ女性が増えるように思う。

連日のように不倫報道でバッシングを受ける有名人たち。スポーツ選手や芸能人はイメージ商売だから当然NGだし、政治家は支持者への体裁がある。

けど個人的に思う。不倫より、不倫したことをバラされるような相手と不倫することに問題なのではないのかと。

もちろん、誰も傷つけない恋愛に越したことはないし、不倫を肯定したい気持ちはさらさらない。

けど、同世代の独身男性からは上から目線だと煙たがられているように感じるし、大抵いいなと思う男には、5歳以上年下の可愛い彼女か奥さんがいるのが常。

そんなところに、気持ちとお金に余裕のある年上男性が現れようものなら、我々微妙に稼ぐ、微妙な年齢の女たちは、ネギを背負った鴨のようなものだ。

「既婚者だと都合がいいから」なんてカッコいい言葉はただの建前。

実際好きになる過程なんて女子高生のそれと大差なく、気づいたときにはもう、彼がいないと生きていけないようなとこまで来ている。

パリッとしたシャツに、タリアトーレのジャケットエトロのネクタイ、センタープレスのパンツからチラっと見える足首。

どんな話しでも笑顔で頷き、仕事の悩みには的確なアドバイス。それでいて、女性らしさをさりげなく褒め、プチ自虐ネタで笑わせてくれる。

終いには、トイレから戻る頃に会計終わっているのだから、好きにならない理由を探すほうが難しい。

正しくは、(奥さんがアイロンをかけたか、クリーニング店まで取りに行った)パリッとしたシャツに、(奥さんにユニクロを着せてるくせに自身は)タリアトーレのジャケット

(前の彼女かキャバ嬢にもらった)エトロのネクタイ、(シャツ同様に奥さん頼みの)センタープレスのパンツからチラっと見える足首(に、奥さんが洗濯し畳んだ靴下を履く)。

どんな話しでも(ヤレるまで)笑顔で頷き、仕事の悩みには(年齢的に当たり前の知識で)的確なアドバイス。

それでいて、女性らしさをさりげなく褒め(45歳以上の男性を、35歳の男性と比べるから当たり前)、(害のない男アピールを兼ねた)プチ自虐ネタで笑わせてくれる。

終いには、トイレから戻る頃に会計終わっているのだから、(10も下の女子とのデートであれば当たり前……ってわかっているのに、自分を求めている人がいるという事実のほうが勝って)好きにならない理由を探すほうが難しい。

と、過程まで理解しているのに、私はみんなとは違うと自身に言い訳までつけて、女たちはそれに溺れていく。

それでも「離婚して」と泣き喚いているうちはまだいい。そのうち無駄に相手の幸せを願い始め、「愛しているから、今のままでいい」なんて言い出すのだから。

いや、そんなでいい訳ない。でも、太るとわかりながら食べてしまう甘いものと同じように、やめられない。

ラウンジの奥には、パチパチと音を立て、炎を上げる暖炉がいくつか設置してあり、より雰囲気のある空間に見せる。

品の良いケープコートを羽織った40代女性と、3歳くらいの女の子が手を繋ぎ、暖炉の横からに座る。「パパ、こっち!」と女性が呼ぶと、ワイングラスとジュースをトレイに乗せた男性が席に向かった。

彼もあんな風に笑うのだろうか。

よく見るとその暖炉は、暖炉ではなく、今流行りの模擬炎の暖炉型ヒーターで、パチパチとなる音はスピーカーから流れている擬音だった。

偽物。にせもの。ニセモノ。

ぼーっとしていると「アフタヌーンティーのお時間ですが、お持ちさせていただいてよろしいですか?」と声を掛けられた。

今はここで、美味しいアフタヌーンティーに集中しようと自身に言い聞かせ、雪だるまのチョコレートを口に運ぶ。

滑らかに口の中で解けるはずのそれは、一向に溶け出さず、嫌な甘さが口の中にまとわりついた。

チョコレートだと思っていたそれは、ケーキを飾る砂糖菓子。本物と偽物の区別がつかない自身を恨み、3杯目のワインで流し込んだ。

それでもずっと、私への気持ちは本物だと期待し続けている。本物であれ偽物であれ、いまある事実は変わらないのに。

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