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東日本大震災から11年 わすれないことで、未来につながると信じて選ぶ3冊

東日本大震災から11年が経ちました。
3月11日を迎えるたびに、思いだされることをお持ちのかたも多いのではないでしょうか。

被災したことをわすれろという人もいれば、わすれるなという人もいる。
でもぼくは、わすれないほうがいいとおもう。

『つなみてんでんこ はしれ、上へ!』より

この言葉は、当時の釜石東中学校の生徒の言葉です。わすれろといった人は、この生徒の心を心配していたのかもしれません。でも、この生徒はわすれないでいることを選びました。

東日本大震災をわすれないことで、つながる未来。
そんなことを考えながら3冊の本を選びました。
命について、自然について、考えるきっかけとなればうれしいです。



自然とともに生き、震災をのりこえる人々の姿を力強く描きだした写真絵本それでも、海へ 陸前高田に生きる
(安田菜津紀/写真・文)

岩手県陸前高田市の広田半島の先端に位置する港町、根岬(ねさき)。“じいちゃん”こと菅野修一さんは、ここで生まれ育ち、幼いころから海とともに生きてきた64歳(刊行当時)のベテラン漁師です。大切な家族とともに、豊かな海の恵みに感謝しながらつつましく幸せに暮らす日常がありました。

ところが、3.11の東日本大震災の津波によってその日常が一変します。港がばらばらに破壊され、多くの漁師仲間を失ってしまいました。じいちゃんは、震災直後、海に向かい合うことすらできなくなり、「もう海の仕事は辞めよう」と思っていました。

ある日、そんなじいちゃんに孫のしゅっぺが言いました。
「じいちゃんがとってきた白いお魚がもう一回食べたい」

その言葉をきいたじいちゃんは、自分が生まれてからずっと根岬の海の恵みを受けて生きてきたことに気づきます。それはしゅっぺも同じこと。背中をおされたじいちゃんは、再び海に戻ることを決意しました。

多くのものを失った震災の傷あとはけっして消えることはありませんが、じいちゃんとしゅっぺ、さらに根岬の人たちの表情には少しずつ明るい笑顔がともるようになりました。海とともに呼吸をしてきたこの町は、海の力を借りてもう一度立ち上がっていきます。

自然は、ときとして猛威をふるうものですが、人に大きな恵みをあたえるものでもあります。自然がなくては人は生きていけないし、かといって人がコントロールできるものでもありません。私たちにとって自然とは何なのだろうか。私たちは今、自然と適切な向き合いかたをしているだろうか。そんなことを考えるヒントが、この写真絵本にはつまっているような気がします。著者は、テレビやラジオなどでも活躍中のフォト・ジャーナリスト、安田菜津紀さん。安田さんでなければ撮れないであろうみずみずしい写真が本書のいちばんの見どころです。この機会にぜひ手に取ってみてください。

(原田哲郎)


津波をにげきった子どもたちを描いた、ノンフィクション絵本
『つなみてんでんこ はしれ、上へ!』
(指田和・文 伊藤秀男・絵)

東北地方の海沿いは、昔から津波の被害を受けてきました。そのため「地震がきたら、てんでばらばらににげろ」という意味で「つなみてんでんこ」という言葉がつたわっているそうです。

「じしんがきたら、つなみがくる。”つなみ てんでんこ”だ」
「それぞれがにげて、じぶんでじぶんのいのちをまもるんだね」

「ぼく」と「じいちゃん」も海を前に話していました。

そして、2011年3月11日。ぼくが暮らす釜石市に大津波が押し寄せました。

この絵本は、実際に大津波をみんなで逃げ切った、釜石市のこどもたちが主人公です。

釜石市では市をあげて、津波防災の意識を高める活動が行われてきました。市内のこどもたちは学校の授業や防災訓練をとおして、「どうなったら命をまもれるのか」を考え、訓練していたそうです。震災当日には、逃げる時に中学生が低学年の小学生の手を引いて走ったことや、地域に配られていた中学生たちの手作り「安否札」(※家族の誰がどこに逃げたのかを書き、玄関に下げるための札)のおかげで多くの命が救われたといいます。

文を手掛けられた指田和さんは、あとがきにこう書かれています。

わたしには強い思いがありました。
「日本はこれからもさまざまな自然災害がおこる可能性がある。もしものとき、また多くの人のいのちがうばわれないためにも、いのちを守るための心がまえや訓練=<生きる力を育てること>はぜったいにだいじだ」という思い。それから「子どもたちのすなおな感受性・生きる力はすごい」という思い。それを伝えたい……。

未来につながる物語として、この本が多くの人に届きますように。
(富山なつき)

一家に一冊。地震に備える実用絵本
『親子のための地震イツモノート』
(編・著/地震イツモプロジェクト 絵/寄藤文平)

11年前の3月11日、大きな高層ビルの上の方のフロアにいた私は今までに経験したことがない揺れを感じ、生まれて初めて、恐怖で腰が抜けて動けないという体験をしました。たくさんの被害、数えきれないくらい悲しい出来事が起こりましたが、この日を境に私の中で防災への意識が本当に変わったな、と思います。

防災グッズを買いそろえたり、自分が自宅にいて避難することになったらどうするべきかを真剣に考えたり。3月11日が近づいてくると、自然と気持ちが引き締まるような気がします。

そんな防災グッズチェックと一緒に開くのが『親子のための地震イツモノート』です。
この本の中にはどうして地震が起きるのか、という仕組みから防災グッズについてまで、地震についての素朴な疑問に答えてくれるような1冊。地震を正しく恐れてしっかり考える、という気持ちにさせてくれます。

▲中にはこのように、理想の対応と実際の対応の比較が載っていたりして、自分もきっと実際この状況になったら…と色々考えさせられます。

また、この本には阪神・淡路大震災を経験された方々がご協力いただいていることもあり、言葉ではなかなか言い表すのが難しい地震が起きた直後の気持ちや街の様子を見た感想などがとても丁寧にかかれています。

▲難しいことですが、こういった気持ちや言葉を読むことで、今無事に生活できていることの大切さを感じられるような気がします。

地震は本当にいつ起きるかわからない災害。だからこそ、身近な人や自分自身でときどきちゃんと向き合うことが大切です。そんなときに、そばに置いておきたい誰かの1冊になると嬉しいなと思います。(宮尾るり)

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