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詩人・谷川俊太郎さんとデザイナー・堀内誠一さん、黄金コンビの知られざる傑作DOPE絵本――絵本をDIGれ! 第3話

「絵本をDIGれ!」とは、意外と知られていないポプラ社の隠れた名作絵本をピックアップして、DJっぽいノリで紹介していくコーナーです。

第3話:恐怖! 懐かしのあの絵本  『24にんのわらうひとともうひとり』編


漫画:小山ゆうじろう

☆彡

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『24にんのわらうひとともうひとり』 作/谷川俊太郎 絵/堀内誠一
レア度 ★★★
笑顔度 ★★★★
DOPE度 ★★★★★

今回紹介するのは、1977年7月に初版が刊行(わたしが買ったのは、2011年に改訂新版として発行されたやつ)された『24にんのわらうひとともうひとり』(ポプラ社)です。

この絵本、まず注目したいのはその著者! 作の谷川俊太郎先生は、言わずと知れた日本を代表する詩人ですね。もう、唯一無二の存在です。

そして、絵は堀内誠一先生! 堀内先生は、絵本作家としても多くの名作(『ぐるんぱのようちえん』『ふらいぱんじいさん』などなど……)を残してますけれど、絵本に馴染みの無い人には、グラフィックデザイナーとしての顔の方が有名かも。たとえば雑誌『an・an』『POPEYE』『BRUTUS』って、わたしもバリバリ読んできてますが、なんとこれらの雑誌のロゴやデザインを手掛けてきたのって、全部堀内先生なんですよ?! 知らなかった! やばくないですか? ある世代の人々は、先生の敷いたレールに乗って各駅停車の旅をしていると言っても過言ではない。

谷川先生と堀内先生のタッグは、絵本の世界では黄金コンビで、これまでに「ことばとかずの絵本」シリーズ(くもん出版)や、100万部超えのベストセラー『マザーグースのうた』(草思社)など、たくさんの作品があるんですね。
来年2022年は、54歳で亡くなった堀内先生の生誕90周年ということで、展覧会が予定されているそうで、今から楽しみ! その準備中に50年ぶりに原画が見つかり、今年10月に刊行された『ちちんぷいぷい』(くもん出版)という絵本も、同じコンビな訳です。
堀内先生の作風の幅広さにはびっくりですが、鮮やかな色使いは『24にんのわらうひとともうひとり』と共通するものがあるような、とひそかに思っているんですが、どうですかね……?

『ちちんぷいぷい』(くもん出版)谷川俊太郎・文/堀内誠一 ・絵


さて、お二人についての話は尽きないんですが、今回取り上げる『24にんのわらうひとともうひとり』ですけど、どうですか? この表紙。

わらっております。

インパクトあり過ぎですね。わたしは、エマみたいに怖いとは思いませんが、なんか確実に一家言持ってらっしゃいますよね、この方。背景、時空歪んでます。
実は表紙のこの人、なんと中面には出てこないんです。あえて、名前をつけるとしたら、「24の目の男」という感じでしょうか。壺井栄の『二十四の瞳』って、こういうことでは無いですよね? こんなシンプルに目の造形が主張してくる人物って、現役だと、楽天カードマンくらいしか思いつきませんでした。

背表紙でもわらっております。
裏表紙はめちゃくちゃシンプル、あこがれます。


さて、まず中身を読む前に、カバーソデに書かれた谷川先生の言葉を読んでみると、この絵本の伝えたいことが、ぼんやり見えてくるかもしれません。

この世にはたしかに笑わずにはいられないものがある。笑うしかないものがある。笑いはもしかすると涙よりももっと深い所からわいてくる

カバーソデより

そう、この絵本に登場する「笑い」とは、うれしい! たのしい! 大好き! (ドリカム)だけでは無い、多種多様な形の「笑い」なんですね。
こどもに向けた絵本の中で、酸いも甘いも噛み分けたようなことが、ひっそりと語られている。何とも挑戦的な作品です。
「笑わずにはいられないもの」「笑うしかないもの」って、極限状態ですよ!!

絵本は、ひいおじいさんが笑うシーンからはじまります。なぜ、ひいおじいさんが笑っているかというと、おじいさんが笑ったからという……。
次のページでおじいさんも笑っているんですが、それはお父さんが笑っているからだそうで……。

つまり、自分のこどもにつられて笑う、という一見希望に溢れた笑いの連鎖がえがかれています。次のページでは、赤ちゃんが笑っています。ですが、なぜ赤ちゃんが笑っているかというと、ひいおじいさんが笑ったから……。
「あれ? 変だな?」と思ったそこのあなた、安心してください。ここから時空は歪み、めくるめく笑いの世界に突入しますんで。

堀内先生の絵の線や色使いは、なんだか日本人離れしたセンスで、まるで海外のイラストを見ているようですね。

タイトルにあるように、24人分のさまざまな形の「笑い」が登場します。
これは、無人島にひとり取り残された男が、笑い方を忘れないように練習する時の「笑い」。
ゾゾ―――ッ!!

これは、牢獄で暮らす男が孤独に耐えかねて、自分で自分をくすぐった時の「笑い」(くすぐりすぎて、服破けてます……)。
ゾゾゾ―――ッ!!!

この人は、自分の笑顔が嫌いなので、顔を隠すために後ろを向いて笑ってるんだそうです。頸椎!!
職場でのあだ名は、きっと「コルク抜き太郎」です。

さて、このように次々と異形の「笑い」の世界が繰り広げられていきますが、本の最後では、『24にんのわらうひとともうひとり』の「もうひとり」が登場します。
さて、なんでこの人は24人とは別なんでしょう? 笑ってないから? だとしたら、それはなぜ? 気になる人は、是非この本を手に取ってみてくださいね。

こんな感じで今回はおしまいです。
では、また次回の「絵本をDIGれ!」でお会いしましょう!
DIGGIN’!

(文/ポプラ子 漫画/小山ゆうじろう)

小山ゆうじろう プロフィール
1990年東京生まれ。2012年漫画家デビュー。「週刊少年ジャンプ」のギャグ漫画新人公募賞で『ランニングディ』が受賞。「少年ジャンプ+」にて連載していた『とんかつDJアゲ太郎』(原案: イーピャオ)が話題になり、2020年10月に実写映画化。少年ジャンプの連載「巻末解放区!WEEKLY週ちゃん」のイラストを担当中。

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