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【詩集】空間の隅から

「打ち捨てられた人」

殴られて蹴られた人が種子になる
野に打ち捨てられた人
四月の雨が彼らを祝福する
かつて叫んだ声が
風に乗って虹と合流する
天使はなにごとも言わず
ただ微笑むばかり
電柱や樹木に染み込んだ私の声は
「ああ」とだけ言って
宇宙に還る
打ち捨てられた人は目を開く
忙しい街の音が聞こえる


「居酒屋」 

途端に音が遠くなる
さっきまでいた世界から僕がいなくなる
どいつもこいつも楽しそうだ
僕はそっと木の棒を握る
ドアが開く
誰もいない
生きていたくはないが、死にたくもない
ドアを無視して
壁を壊す
あいつらが隠した道がある
あいつらにいじめられたフクロウを解放してやる


「あんぱん」

あの子が窓から顔を出す
こっちへおいでと言っている
でもそれはできない
私は許されない人だ
砂糖のような雪が肩に降りかかる
かつて私を踏みつけたおじさんは
怪訝な顔してそばを通りすぎる
踊りを忘れた猫が泣いている
私はなんにもできやしない
味のしない食べ物を咀嚼して
動かぬ地球のことをぐるぐると思案するばかり


「大好きな季節」

蝉の声はうるさい
雪だるまは上手くできない
春の野は私を拒む
キズだらけの木棚の前に散るバラバラの紙
冷めたお茶を飲み干す


「涅槃」

世界を抜け出して
永遠を見つめる
涅槃を超えていく
本当の死とはなんだろうか
徐々に宇宙に溶けて消えゆくことではないか
海を見つめて
どんどん世界が遠ざかる
“概念”が溶けるのを感じる
“空”だけがある

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