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「secca」価値を最大化し、持続させる並走型ブランディング


新しいカタチを創造し、体験を進化させ、手にした人の心を動かす。


secca inc.は金沢を拠点としたクリエイティブ集団です。POOL inc.の担当したブランディングは多岐に渡り、コンセプト、商品企画開発、PR、コミュニケーションと様々です。

そこにはPOOL inc.独自の「持続的な価値向上のブランディング」と「愛着のデザイン」が軸にあります。今回はsecca.inc代表の上町達也さんにもインタビューさせていただきました。

このプロジェクトに関わったメンバー

・石向洋祐/ブランドディレクター(POOL inc.)

secca × POOL inc.
並走型の関係性

──ひと口に「ブランディング」と言っても、様々なアプローチがあると思います。このプロジェクトの中で、石向さんはどのような役割を担っているのでしょうか?

石向
僕は、どのプロジェクトにおいても発注主、受注主というよりは、ひとつのチームとして関わることが多く。seccaでは、他のチームでいうところの「広報部」のような立ち位置です。

「ひとつの案件」と割り切って一定の距離感を保ちながらクライアントと関わるのではなく、並走型──僕が半分決定権を持ちながら並走するようなスタイルです。ブランディングだけでなく、コンセプト、商品企画開発、ストーリーテリング、PR、コミュニケーション……と、あらゆる領域を担っています。

具体的に「何の仕事なのか?」と聞かれると答えることが難しいのですが、表に現れる領域全てを把握し、取りまとめています。ある意味、それがブランディングだと思っています。

上町
それまでは、世の中とseccaを接続するためのデザインが実質存在していませんでした。その役割を、石向くんが担ってくれています。

モノというのは、つくった段階ではまだ価値化されていません。適切なことばと共に相手へ手渡され、咀嚼する過程を通して、こころに届いた時にはじめて価値を持つような気がしています。それは、届いた時でなければ、価値が発生しないことを意味します。

もちろんseccaは、価値をつくるつもりでモノづくりをしていましたが、僕たちに足りなかった部分は、モノをつくった後でした。そこを丁寧に伝えることで、世の中へちゃんと届けることができる。また、「伝える」ことの大切さは「モノをつくった後」だけではなく、「モノをつくる前」にもいえることです。伝わっているからseccaを求めてくれるともいえます。

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出会い

──お二人の出会いは?

石向
上町さんと出会ったのは、四年前。共通するプロジェクトの現場で顔を合わせました。

上町
当時、僕たちには潤沢な資金もなければ経験もまだ浅かった。ブランディングに関しても自分たちなりに、ことばやビジュアルに落とし込んでいたのですが、全方位的に手探りの状態で。何よりも自分たちが得意なことを推進するだけでも精一杯な状況で。不慣れなクリエーションは、パフォーマンスも落ちるし、クオリティも下がる。

その時、POOL inc.の仕事──当事者たちの想いや熱量を世の中に接続していく光景を目にしました。そのような仕事をする人たちの重要性を改めて知り、僕も頼ってみたいという想いが強まりました。

僕にとってとても重要な、世の中との接続部分をお任せする以上は発注主や受注主という関係ではなく、「並走型」としてseccaの一員というスタンスで関わってもらいたかった。

「伝わる」をつくる

上町さんが言った「世の中とseccaを接続するためのデザイン」。

徹底したヒアリングを通して、彼らの世界観を理解し、「伝わる」を追求しました。その中で石向さんは、まず「seccaは何者か?」をカタチにする必要があったと言います。そして、彼らの思想や哲学、美意識が最も伝わる状態は「体験」であるという答えを導き出しました。

機能性や意匠の洗練されたデザイン。それだけでなく、プロダクトに埋め込まれた余白。醸される気配、そこに在る面影。ある意味、カタチのない領域にこそ、seccaの本質的な価値が隠されている。それらを伝える最良の方法は、触れることによって五感で受け取ってもらうこと。伝わる」をつくる。
そのために用意された、いくつかの「つくる」を追っていきます。

「ことば」をつくる

石向
はじめてseccaと出会った人は、彼らが何者かわからないと思うんです。彼らは多岐に渡り、専門性の高い特殊な能力を持っています。プロダクトデザイナー、アーティスト、職人…どのことばも当てはまるのですが、そのいずれもがseccaを的確に表現できていません。

そこで、「Innovative Artisan(提案型の職人)」ということばをつくりました。過去の歴史から学び、未来のカタチへとアップデートしていく。考え抜かれた美しさを創り、伝統工芸から最新のテクノロジーまで様々な技術を持つ者たち。アーティスト、デザイナー、職人の三つの要素を掛け合わせることで、新しい体験をつくり、人のこころを動かしていく。それが、seccaという概念を要約した表現だと思いました。

アート

「体験」をつくる

石向
彼らが伝えたい状況や情報がどのようにすれば伝わるかということを「体験」ごとつくっていくということに注力しています。それはsecca自体のこともそうですし、seccaから生まれたプロダクトをお客様へ届けるということを含めて。それを、いかにプレゼンテーションしていくか。そのために本をつくりました。

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A2サイズの紙の本。意匠にこだわっただけでなく、手袋をはめて一枚一枚ページをめくることで空気づくりを演出する。

たとえば、ハイブランドのショップへ行くと店員さんは白い手袋をしてやわらかいケースの上で商品を取り扱いますよね。素手で目の前に軽く置かれるのでは同じ商品であったとしても印象が異なります。

seccaのプロダクトは上町さんの人柄がよく現れています。美しいだけでなく、こよなく穏やかでやさしい。そこに「荘厳さ」を印象づけたかった。彼らのつくるモノ、育む世界をより深く伝えるためには、テクスチャーとしてのインパクトが必要だと感じました。そこでの体験(コミュニケーション)は、信頼へと紐づきます。

上町
seccaのプレゼンテーションツールを考えた時に、「パワーポイントやKeynoteの資料じゃないよね」ということは、石向くんとお互いの中で感覚的に共有できていました。

安易に考えると「モノづくりメーカー」は量産へと進んでいきます。「量を売らないとビジネスにならない」という思考です。そうなると当然、量産のためのマーケティングや広告になっていく。一度立ち止まって、その「量ドリブン」のモノづくりの在り方を疑ってみる必要がありました。


「価値が最大化するモノづくりの在り方とは何だろう?」


考えた結果として、(量産型と)同じ手段へと行き着くのであれば、それはそれで構いません。ただ、僕たちが創業以来変わらず大切にしているのは「一人ひとりに、一つひとつ、モノをつくり手渡していく」ということです。ともすれば、時代に逆行するような考え方なのかもしれません。考えた結果として、(量産型と)同じ手段へと行き着くのであれば、それはそれで構いません。あくまで目的が大切です。ともすれば、時代に逆行するような考え方かもしれません。

そうなると、わざわざ顔の見えない多数に向けてKeynoteでプレゼンテーションをする必要がないんです。それよりも「目の前にいる人に、seccaのものづくりに対するプロセスや考え方、画像だけでは伝わらない空気感などの体験を伝える」ということが大事になる。媒体に関しても、デジタルの気配を感じるものより、ハプティックな(触れた感覚のする)ものの方が、僕たちのことが伝わるのではないか。

石向
本当に欲しい人に最低限の量をつくって、届けていこうという姿勢はそこから生まれました。一般的な考え方だと、「大量生産で世の中に卸していく」という図式でなければ、利益は見込めません。その手段がないのであれば、仕組みを考え、つくることも僕の役割です。

上町
そのようにプレゼンテーションの在り方から一緒に考えてくれていることがうれしいですよね。

石向
上町さんがやりたいことを、どうすれば最良の形で実現できるか。その視点(思考)から入って、共にアイデアを揉んで、カタチにしていく。その過程で、徹底的に話し合う。雑談の中で、精査するようにエッセンスを抽出しているような気がします。

上町
根元にあるフィロソフィやビジョンのレイヤーで「どのような価値をつくっていくか」という話ができることはありがたいです。社内でもそのような話ができる存在は限られています。「モノづくり」に関しては、専門領域なのでディスカッションを深めることができるのですが、殊に「モノづくりの先にある世界」については意外にも難しかったりします。その時、石向くんが壁打ち相手になってくれる。新しい企画を考案する時には、いつも話し合いをしています。

「場所」をつくる

石向
実際にはプレゼンテーションの着想は「場所づくり」からはじまっていて。seccaのプロダクトに触れる空間があり、演出があり、本を手に取ってもらう。構想としては、今後「場所づくり」にまで発展させる予定です。

たとえば、seccaを代表するLandscape Wareというシリーズがあります。あの器って、写真の印象と、実際に見た印象では全く違うんですね。実際に見た方が、はるかにインパクトがある。

器

デジタルとリアルのギャップは、どうしても埋めきれません。その情報量の差は、実際に触れて体験してもらうしかない。それは、僕が最初から言い続けていることです。

「関係性」をつくる

上町
モノをかっこよく置いて見せるということではなく、「食体験」でもてなしたい。それはレストラン側が「この器、すばらしいんです」というのではなく、seccaの器を受け取ったシェフが自分の解釈でクリエイティブを重ねて、器を含めた料理を「自分のモノ」としてお客様へプレゼンテーションする。

貪欲な表現を求めている料理人へ手渡ししていき、結果的に〝コンシューマ〟と呼ばれる一般的なお客様へ、「体験」として届く。「器を買う」という視点で接するのではなく、レストランに足を運ぶことでシェフとのコラボレーションでつくった食体験に触れる出会い方。

その在り方が、「seccaらしさ」だと思っています。

石向
お客様とのつながりを大切にしていきたいと思っています。小西(POOL inc.代表)が「愛着の時代」と言っていますが、愛着をどこまでつくることができるか。secca はモノでそれをつくりますし、僕はコミュニケーションによってお客さんとの接点をつくっていく。

従来のマーケットでのつくり方ではなく、受け取り手にとって最もエレガンスな在り方として寄り添えるか。そのようなコミュニケーションを模索し、カタチにしていく。

結果的として、seccaのプロダクトがリピートして長く愛されることにつながります。そこから口コミで広がることもある。実際に、レストラン業界ではそれが起きていて、seccaの器を使用した店がミシュランの星を獲得していくケースも起きています。


【seccaが携わる様々なプロジェクト】

Makuake

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石向
ひとつの試みとしてMakuakeで「体験の提供」をカタチにしました。

CAINOYAさんと共に立ち上げたプロジェクトです。器だけを売るのではなく、「食体験」として販売する。コロナ直後ということもあり、「家でレストランの食事を味わえる」というのがこの企画の趣旨です。


ARAS

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石向
seccaと石川樹脂工業とPOOL inc.の三チームで共同開発しているテーブルウェアのブランドです。

「強く、美しい、カタチ。」として、食器の既成概念をひっくり返し、素材形状全て一から練り直して今までにない新しい食器をつくりました。

機能としてのデザインと、美しさ(意匠)としてのデザインを追求しているseccaらしいクリエイティブが現れています。そして、このARASは第22回JIDA(ジャパン・インダストリアル・デザイナーズ・アソシエーション)にてゴールドセレクションという大変高名な賞をいただきました。


星野リゾート×ARAS
〈ウォータージャグ〉

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石向
ARASと「星のや」のコラボレーション商品で、seccaがプロダクトデザインを担当しています。


持続的な価値向上のブランディング

一つひとつの洗練されたクリエイティブ。
そのフラグメントを繋ぎ合わせ、コーディネートしていく力。

石向
ブランディングにおける考えは、小西(POOL inc.代表)の「持続的な価値向上のブランディング」ということばを信じています。

ひとつのクリエイティブをつくったからといって価値が向上し続けるわけではありません。仮に、ひとつの優れたコピー(あるいはグラフィックデザインやムービー)があったとしても、そのパーツだけでは良いブランドにはなりません。それぞれのパーツに橋を架けることで、良いブランドは形成されます。それを実現することが、僕の仕事です。

持続的に価値が向上するため、企業として良い形に成長していくため、ということを目指した時に、僕ができることは全ての領域で動きたいと思っています。


──石向さんがブランドディレクターとしてseccaに参加したことにより、どのような変化がありましたか?

上町
シンプルに自分たちの芯と向き合えるようになりました。

理想を追求し、実践し続けてはいるものの、とはいえ僕たちはまだ小さなベンチャー企業です。このまま安泰が続く保証もなければ、経営としてまだ慣れない部分もあります。業績が悪くなれば、不安定な思考に陥ることもあります。

そのような時に、石向くんは「そういうことはseccaらしくない」、「こちらの方がseccaらしい」と単刀直入に伝えてくれる。それは、普段からビジョンを共有したり、対話を続けているからできることです。

「ブランディング」とは、外向きだけでなく、同時に内向きにも機能するような気がします。たとえ軌道から逸れかけていたことでも、再び中心の軸に戻ってくることができます。僕もまた石向くんに思考を言語化して伝えることで、自分たちでも改めて自覚できる。この関係性は、僕たちに大きな影響を与えてくれています。

石向
従来のブランディングにおけるコミュニケーションは、基本的に投げっぱなしの提案型です。時代や情報は、めまぐるしい速度で変化しています。それこそコロナ以前と以降では、生活様式や価値観が大きく変わりました。

一度策定したブランディングを継続するというよりは、その変化に対して同じ目線で寄り添うこと。トライ&エラーを繰り返し、その都度フィードバックして、丁寧にチューニングアップしていくことが大事だと思っています。

これからについて

──進行中のプロジェクトについてお聞かせください。

上町
2021年3月25日から明治神宮でseccaのアートピースの展示がはじまります。明治神宮鎮座100年というタイミングで、これまでの100年とこれからの100年を描くというコンセプトです。伝統的な技法や新しいテクノロジーを取り入れたコントラストを見せるには僕たちが適任だということでお声かけしていただきました。

名和晃平さんや舟越桂さんなど、名だたるアーティストと一緒に展示していただきます。


──今後、つくっていきたいジャンルは?

上町
家をつくってみたいですね。「自分が手にするもの」ではなく、「自分が包まれるもの」に興味があります。それから、ジュエリー。プロダクトとしても特殊で、価値が一切下がることはありません。次の世代へ受け渡していくことができるというおもしろさもあります。ぜひ、手掛けてみたいです。


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次回のPOOL SIDE STORYもお楽しみに。

取材・文/嶋津亮太

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