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読書感想文「卒業 君との別れ、新たな旅立ち」(スターツ出版文庫刊)

構成に深入りするネタバレがございます。まだ読んでいない方は要注意です。
(登場人物の名前や、文章を抜き出すことはしていません)

この書籍は、スターツ出版文庫より、2024年2月28日に刊行された短編集となっております。

さて、お待たせいたしました。一緒に購入したもう一冊、「卒業 君との別れ、新たな旅立ち」の読書感想文でございます。
おそらくこれで全員分の感想を連ねるのは一旦終わりになると思います。時間的制約がかなり強いので、次やるとすれば夏休みとかになるのでしょうか。

ほかの一冊はこちら↓

すでに一つ書いているのでなれてはいますが、まだまだ初心者です。
前回とは少し味を変えた書き方をしてみました。
前回の記事にもあった最初の一文は、その小説を一文で表現したものです。

諸注意
・私の読み方や、考え方を基にしています。そのため、小説のテーマや内容から逸れていることがあります。
・読み取った内容が間違っている可能性があります。
・書き方は統一していません。
・物書き的な見解も混ざっています。
・内容を抜き出さないため、抽象的な表現になっています。

以上、ご了承くださいませ。

それではどうぞ!


「卒業日カレンダー」著:川奈あさ

「卒業」の解釈をずっと向こうまで広げた小説。

卒業はいくつか意味を持っています。そしてそれが、前向きでポジティブなものであるとは限りません。前向きな卒業や、ちょっと後ろ向きな卒業もないわけではないと思います。

時には不安になったり、怖くなったり、寂しくなったりすることもあるでしょう。この小説は、卒業という二文字に、いろいろな感情を付け足してアレンジされていました。

主人公も小説の中で、数々の卒業を重ねています。

将来について悩んでいて、ぼんやりと思い描いていた「こうなるであろう」とされる未来。それに対して小説の最後では不安を感じつつも、意味を持とうとしています。

誰かのために生きる。それを卒業したいけれど、そうなってしまえば空っぽな自分になってしまうのではないか。
そんな不安や恐れが、前述の「将来に意味を見出す」という「将来に意味を持っていない自分」からの卒業によって、結果的に「誰かのために生きる自分」を卒業することにつながっていると考えています。

同時に、受動的だった考え方が能動的になっているのも、それぞれの文章を通じて感じ取ることができました。

何かと不安が多いこの時期にはうってつけの小説です!


「未完成な世界で今日も」著:遊野煌

音だって、世界の一部。

何かハンデを負った人の気持ちは、ハンデのない人には理解することはできません。ハンデを負った本人でない限り、本質的な理解には至れないのです。

私たちは、視界はもちろんのこと、音からも多くの情報を得ています。

日常的に私たちが使う能力を100と仮定した場合、1なくなって99になるだけでも、とても大変です。ましてやそれが50になってしまったなら、生きることそれ自体に支障が出ることは確実です。

そんなハンデを負っている、「未完成な世界」で生きる高校生の小説です。

ハッキリ言って今現在、目立ったハンデを負っていない私からすれば、遠い話でした。

制限のある未完成な世界で生きることは、私が想像していた以上に大変なようでした。小説からもその大変さを部分的に感じ取ることができます。
しかし、未完成な世界で生きる人たちも、楽しく生きることは可能なのです。技術の発達によって、生活を支える器具は多く開発されています。

それらを用いれば、生活のハンデは大きく縮まると思います。
そして、ほぼいつも通り過ごすことも可能になるはずです。

もし、いつも通り過ごすことができるのなら。
私たちがいつも通り接することが、配慮の一つにもなるのかもしれない。

小説内で、最初から最後まで変わらない友情を感じてそう思いました。


「桜の樹の下の幽霊」著:時枝リク

卒業おめでとう。

未練たらたら。恋人と別れたり、学校を卒業したり、何かの節目で過去を振り返る機会が会った時に、未練というものは頭の中に現れて、しばらく居座ります。

友達と遊べばよかった
外に出ればよかった
一度は委員長をしてみたかった
一度は部活帰りに寄り道したかった

そんな未練、あると思います。
やり残したことというのは、心の中に現れてしまえば、長い間消えることはありません。そう、消えない幽霊と同じように。

この小説は、私たちには見えない存在に焦点を当てて、卒業というテーマに結び付けられています。見えないものほど大切で、卒業というほど泣ける言葉はなくて、最後のほうは涙が止まりませんでした。

未練というものはどう頑張ったって生まれます。それを含めて、いい思い出だったなと言えるように毎日を生きてみることこそが、未練を一番ポジティブにとらえる方法なのではないでしょうか。
いつか振り返って
「懐かしいな」
そう思うことができれば、未練は自ずと解消されるような気さえします。

未練という二文字に阻まれることなく、前向きに生きる彼らを見て、そう感じました。

そして私は、冒頭にも書きましたが二人にはこの言葉を贈りたい。

「卒業おめでとう」


「彼女はもう誰も殺せない」著:櫻いいよ

自分を殺すのも、誰かを殺すのも、人生の一幕。

思春期特有の油汚れのような面倒くさくも、振り返ればいい思い出になる悩みを、ここまでポジティブにとらえた小説はなかなかないと思います。もちろん、ほかの小説も前向きにとらえたものや、そうでなくても著者からのメッセージが込められたものが多いです。

ですが、この小説はタイトルにもあるように、「殺せない」といったような物騒な表現を使って、この年頃の悩みと向き合っています。
一見物理的に人を殺したのかと思うようなタイトルと内容ですが、グラデーションのように徐々に明らかになります。

そうして明かされていく内に秘めたメッセージに、心が暖かくなりました。

時には自分が嫌になったり、周りが嫌になったりして、今までのすべてを切り捨てたいと思うかもしれません。
そんな時は、容赦なく自分と周りを殺して、新しい自分になるのも数ある選択肢の一つなのかなとこの小説を読んで思いました。

変わらない自分よりも、変わる自分。

そうして
いつかは自分を殺せなくなっている日が来る。
殺さなくても、変わるようになれる日が来る。

人はきっと変われる。

自分に、周りに悩める人たちを応援する。そっと背中を押すような優しい気持ちが伝わってきました。


さいごに

まず初めに、このコンテストで最優秀賞を受賞された二名の作家さん!
おめでとうございます!!

そして、受賞作とともに収録されたお話を書かれた二名の作家さん!
お待ちしてました!!


全てがよくまとまっていて、どの小説も個性のある内容となっていました。
強いメッセージ性を持ち合わせつつも、どれも理解しやすく、すんなり頭に入ってきました。

どの小説も読み終わって、自分の過去を振り返ったり、これからの自分を展望したりと、たくさんのきっかけをいただきました。
それと同時に、「卒業」と一口に言っても、これほど広く深く解釈ができるのはなかなかできることではないと思います。

また読ませてください!




どうでもいい話

前回もこのパートを設けましたが、今回も設けます。

今回は10時前から初めて、今が16時。お昼ご飯を抜いて5時間くらいでしょうか。以前の「5分後に涙」と比べれば、一つ一つの小説が長めだったので、読むのに時間を要したのはもちろん、感想を取りまとめるのに一番時間がかかりました。

ですが、やって後悔はしてません。
めっちゃ楽しかったです!(時間が確保できればまたやるかも……?)


短編小説って、贅沢ですよね。
長編小説にも匹敵するメッセージ性とコンテンツ量を短い文章の間にギュッと詰め込んで、短い時間でそれが読めるとは、ものすごいタイムパフォーマンス。
いい贅沢です。

というお話でした。

ここまでお読みいただきありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。

(誤字脱字等ございましたら、お手数ですがお知らせください。)


この短編集はスターツ出版文庫より、2024年2月28日に刊行されました。

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