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読書感想文「5分後に涙」(スターツ出版文庫刊)

構成に深入りするネタバレがございます。まだ読んでいない方は要注意です。
(登場人物の名前や、文章を抜き出すことはしていません)

この書籍は、スターツ出版文庫より、2024年3月28日に刊行された短編集となっております。
私はこのレーベルの大ファンで、すでに何十冊か持っています。

今回は、お祝いの気持ちも込めて読書感想文に挑みました。
至らぬ点が多くあることと思いますが、どうぞ暖かな目で見守っていただければ幸いです。

諸注意
・私の読み方や、考え方を基にしています。そのため、小説のテーマや内容から逸れていることがあります。
・読み取った内容が間違っている可能性があります。
・書き方は統一していません。感じたことをありのままに書きます。
・物書き的な見解も混ざっています。
・著者が意図したことと違う見解をすることがあります。

以上、ご了承くださいませ。

それでは、一つずつ、どうぞ。


「もう一度、キミと初めての恋をしよう」著:中小路かほ

記憶に関連した小説の新しい切り口。

地の文、特に主人公の心情描写が非常に読みやすく、彼女が抱える様々な想いがよく伝わってきました。様々な感情が描写される中、感情のメリハリをつけられていたため読みやすく感じたのではないかと思います。

序盤から中盤あたりで主人公がとある覚悟を決めてから、それを実行に移している場面が私のお気に入りポイントです。
心の持つ表の面と裏の面がハッキリ描写されていました。セリフで言っていることと、主人公が心の中で持っている想いがその表と裏に当たります。様々な葛藤を広げていく中で、私の予想していなかった感情を抱いてその場面が終わったのがとても印象に残りました。

途中で出てくる登場人物も、「欲しがるだろう」と勝手に予想していたものを欲しがらずに、まったく別のものを欲しがっていた部分や、それから先の展開などが新鮮な読み味で、まさに新しい切り口だと感じました。


「この一生を君に捧ぐ」著:深山琴子

見たことのない視点をあなたに。

この小説を読んでいる間、ずっと心が心地よいもので包まれているような感覚でした。それと同時に、懐かしくもありました。もしかしたら、私も同じような「モノ」を持っているかもしれません。

いい意味でとんでもないところに着目したなと思います。人間の視点ではなく、また別の視点から見た時の人間。
それを理解してその視点が定着するまでに少し時間を要しましたが、この小説はこの視点でなければ成立しなかったと思います。

また、その視点に応じた書き方にも味がありました。
その視点を崩すことなく展開されていたため、慣れない視点や構成ではありましたが、読み進めるのに支障となる疑問など持つことはありませんでした。視点が崩されなかったこともあって、この視点の良さを最大限に引き出せていたと思います。

新しい視点で、自分の過去を重ねながら読むことのできる素晴らしい小説でした。


「理想のわたし」著:塚田浩司

話題性の高いイマドキな小説。

自己表現の手段は星の数ほどありますが、その中でもSNSは若い人たちにとても重宝されています。この小説は、そんなSNSに着目したイマドキな小説です。

地の文の量が多めで、主人公が直面した状況と、それに対する主人公の考え方がよく表現されていました。
そんな状況描写や心情描写の質も保持しつつ、私が着目してほしいのは構成です。最後まで読めば理由がわかります。
私も最後まで読んで、「その可能性は考えてなかった!!」と顔に手を当てていました。たどり着いた結末に驚くと同時に、私が話題性が高いと言った理由が分かると思います。

私の経験ですが、読者を思い込ませるのは、簡単なようで非常に難しいことです。ありとあらゆる箇所に気配りして、抜け目のないようにするのはとても大変。読者を楽しませることのできる良い構成でした。

(その思い込みも、読者の描いた理想かもしれない)


「噓つきライカの最後の噓」著:雪月海桜

もっと、もっと知りたい。興味をそそる小説。

噓というものは、誰もが付いたことがあるでしょう。ですが、全部が悪いわけではありません。ホワイトライ(良い噓)とブラックライ(悪い噓)があります。
どちらとは言いません。綺麗な噓が、小説の中にちりばめられていました。

途中で、かなり思い切った視点転換が入ります。最初の視点が主人公というわけではなく、後半の視点もとても重要な役割を果たしています。ストーリーを展開する上でも、登場人物たちの関係を描く上でも必要なものでした。

視点転換で、主人公が正面から見ていたものを、斜めから見る、というのはよくあることですが、この小説は180°視点を変えて、見える景色と読み取れる心情が大きく変わります。
それでも読者が混乱しないのは、登場人物の関係性や性格を丁寧に説明して、尚且つはっきり区分されていたからだと私は考えます。

この小説で描かれた前と後も読んでみたいです。彼らをもっと知ってみたい!


「宇宙に続くバージンロード」著:香秋ちひろ

さらにその先を。いつまでも見ていたくなる物語。

一部の読者からすれば、この小説にあることは遠い遠い未来かもしれません。ですが、生きていく上でいずれは通る道だと思います。
私からしても遠い未来のお話で、あまり共感できないかもしれないと思いながら読んでいました。

ですが、スポンジが水を多く吸うように、私の心も、この小説から多くの感情を拾い上げました。読んでいるだけで微笑ましくて、幸せで。登場人物のやり取りの一つ一つが心に染み渡ります。

一つ一つのセリフに同じ種類の感情でも、また違うものがあって、それぞれが生き生きとしているような印象を受けました。その小さな違いが集まって、暖かく、幸せで、スッキリした読後感につながっているんだと思います。

そんな感情のこもった文章が、遠い未来で、遠いはずの感情を、私のすぐ近くに持ってきてくれました。

暖かい春や秋の日の午後に、柔らかい日差しを浴びながら読んでほしい幸せな作品です。


「忘れられた約束」著:時枝リク

澄んだ川のように透明感がある、神秘的なお話。

それぞれの情景描写がとっても綺麗でした。その情景描写は、まるで映画のワンシーンのように、文字から色となって鮮明に私の頭の中に舞台を描いてくれます。
特に冒頭の部分。セリフやその間に挟まる文章も情景描写として機能していて、描かれた舞台に動きを持たせてくれました。

展開されていく中で、所々に息苦しい思いをするような場面があります。それであっても、最後にはクリアなお話につながる。流れるような展開で、私好みの透明感を含んでいました。

そして、小説のタイトルにもある「約束」という言葉。小さいころに結んだ約束など覚えてもいませんが、きっと今よりも純粋な心の底からの思いで結んだ約束なんだろうなと、この小説を読んで思いました。

流れゆく時の中で薄れつつある約束を思い返すと同時に、幼少期の無邪気さを思い返すきっかけになりました。この小説の全てが、そうさせてくれたんだと思います。


「僕の目に映る君、君の瞳に映る僕」著:綴音夜月

心からの愛を君に。

今まで読んできた短編小説よりも、小説の中で流れる時間が少なかったように思います。一方で、その短い時間の中にも二人の想いが詰まっていて、純粋に相手を想う気持ちを感じ取ることができました。ここまで心情を詰めて読みやすさを保てるのはさすがとしか言いようがないです。

人間は脳に入る情報の実に8割を視覚から得ていると言われています。
五感の中でも最も重要な視覚を失いかけているヒロインを支える立場の主人公には、相当な覚悟が必要だったでしょう。また逆も同じで、ヒロインが持つ彼に対する信頼の厚さも、相当なものだったと思います。
この小説全体を通して、互いに性格や外見など、部分的ではなく、存在自体そのものを好いていて、愛している。そう感じました。

そして私が一番推したいのが、魅力的な登場人物。このキャラクター作りが小説の良さに磨きをかけていて、非常によくまとまっていました。

読めば好きになる。そんなキャラクターが読者のことを待っています。


「扉が閉まる前に」著:天野つばめ

人生の分岐点、それは恋の分岐点。

過去回想が多い場面が部分的にあり、過去から現在に至るまでの時系列がしっかり立てられていると感じました。
人生の節目である卒業したその日を舞台に展開されるこの物語は、その要素からは想像できないほど多くのことを考えさせてくれます。
全体を通して登場人物が、「学生」としてではなく「大人」として描かれているように感じられるのも、個人的には1つのポイントです。

この年齢になると、多くの人が自分の道を見つけて、その方向に進もうとします。でも、過去に忘れられない、切り捨てられないことがあるのも事実です。私は小説の終盤にあったそんな部分に強く共感しました。

そんな過去に立ち向かおうとする登場人物の姿はとても魅力的に描かれていて、応援したくなりました。

私もこんな風になりたいなという憧れと、きっとそうなれるんじゃないかという希望を抱かせてくれた作品でした。
過去に不安を残す人にお勧めしたい作品です。


「サチとの約束」著:遊野煌

「かぞく」とは。「約束」とは。

人生を追いかけるように、長い期間を描いた小説です。人生で起こる様々なライフイベントを描きつつ、それを人間ではない視点から見ています。微笑ましい場面もある中で、その視点ならではの不安も描写されていました。私たちの知らないところで、このような喜怒哀楽を含めた心情を抱えていると思うと、少しばかり胸が痛くなります。
そして現実でそれを理解できないことも、改めて考えると大きな障壁だと感じました。
比較的身近な存在を視点に選んだからこそ、感じられたことだと思います。

泣かせに来るような展開ではなかったのに。泣くつもりもなかったのに。気付けば目に涙がたまって、ティッシュで抑えていました。それほど私の心の中にある、定義できない何かに訴えかけていたんだと思います。

「かぞく」というものが、どういうものであるか。そして「約束」とはどういうものであるか。

登場人物や独特の視点から描かれ、語られる切実なその思いに注目です。


「卒業を破り捨てた」著:柚月しずく

タイトルがすべてを物語る。

親しみやすいキャラクターと、語り掛けるような地の文。この2つの要素が、ストーリーをより感情に訴えかけるものにさせていました。
この時期にふさわしい「卒業」というテーマ選びもあり、学生にとっては身近な小説で、共感できる部分も多くあると思います。

語り掛けるような地の文が読者の心に共感を呼び、自分を重ね、その上でストーリーで生まれた感情がまた心に浸透する。というようなきれいな流れができているように感じました。
事実、私も主人公に共感するところは多くありました。主人公の導いた結論ではなく、それまでの描写で示される思考の仕方そのものに共感していました。

卒業という単語だけでも、最近高校を卒業した私にとっては刺激の強い単語なのに、その上に感動的なストーリーを重ねられては泣かないはずがありません。

「卒業」が持つ意味はその言葉を使う人によって変わることに着目できたのがとてもよかったと思います。
春じゃなくても、卒業というのは色々な場所にあるかもしれませんね。


「冗談みたいな手紙」著:六畳のえる

あー! あー! そういうことか!

上の文章はさておき。
登場人物についての説明を入れるタイミングが丁度良く、ほしいと思っていた情報や気になっていたことをその時に提供してくれました。
登場人物の思考の裏を読む必要があるような小説ではなく、小説の内容自体はそこまで難しくはありません。加えてキャラクターの印象付けも、悶えるほど甘い文章から、少し硬めの口調を組み合わせてしっかりされていました。

この小説は、最後の部分に触れずして終ることはできません。
高度な日本語遊びが使われていることに皆さん読んでお気づきになったと思います。まさかタイトルがあのように化けるとは思いもせず、終盤で声を上げて「うわー!」って言ってました。
縦書きなので頭文字だけの横読みかと思いつつ読んでいましたがそうでもなく、意識の外からハッと気づかされるような感じでした。

高度な日本語遊び、印象に残りました。
これを思いついた登場人物も、著者ののえるさんも凄いです。


「忘れないで」著:道

後世に継ぐ、君の名前。

この小説は、ほかの小説よりも改行による空白が大きくあけられています。「※」などが間に入るはずのものも、まったくの空白で何も印字されていませんでした。ですが、しっかりその空白は意味を持っており、読者に主人公の心情を補完する時間を与えてくれるように感じました。読んでいると一瞬ですが、その間がきっと大事なんだと思います。

小説の中盤から終盤で読むことのできる、他人の記憶や過去を主人公の視点から追いかけるという状況。この状況自体、読んだことがないわけではありませんが、意識的に読んだのはこれが初めてでした。
そこで、「こうだろう」と勝手に思い込んでいた登場人物の設定が揺らぎ、この小説に対する見方も大きく変わりました。

私からすれば途中で話が大きく変わったことになりますが、結末はしっかり着地点があり、それまでの経過や、過去を見て主人公を応援したくなるような、心温まる終わり方でした。


「ないものねだり」著:時庭はこ

規模の大きいねだりもの。

私たちよりはるか先の未来を歩むこの小説の登場人物たち。ちょっと難しいイメージを持ちながら読み進めていましたが、その彼らの持つ感覚が、今の私たちにとってどのようなものに当たるのかが書かれていて、容易に想像して理解を深めることができました。

人間が行動範囲を広げると、当たり前ですが人は色々なところに散らばり始めます。その分、別れが増えます。
技術も進化し、生活も便利になり、気軽にいろいろなところに行けるようになるかもしれません。ですが、別れるときの寂しさは、いつまで経っても変わらず、私たちの心にあるのかもしれない。

私たちが今、この小説の中にある様々なものをねだるように、未来にいる登場人物たちもまた、私たちの中にある様々なものをねだっているのかもしれませんね。

未来は手に入るけど、過去は手に入らない。
新しいことに気が付かされたような気がします。


「博士とロザリー」著:紀本明

最愛の人。

私たちの時間より未来なのか、過去なのか。少し変わった時間軸にいても、クッキーや紅茶、コーヒーなどが変わらぬままあって、それでもそっくりなヒューマノイドは作成することができる。
いったいどんな世界なんだろう。私たちに想像の余地を広くとってくれている小説です。

私は普段、このような時間軸が現代でなかったり、ちょっと変わった系統の小説は読まないのですが、この短編集を手に取って、触れる機会を頂きました。

AIが最近流行ってるみたいですが、そのうちこの小説のような状態になるのでしょうか。本物と同じ行動をする最愛の人のコピー品を生み出せるようになるのでしょうか。
私たちはまだそれを体験していないので、それこそ小説の想像の余地が生きるわけですが、期待と同じくらいの不安があります。

完全な本人はいないけど、ものすごく似ているコピーなら作れる。
そんな時代になったら、あなたはどうしますか?

そんな問いかけを、この小説を通して感じました。


さいごに

今回、この短篇集でデビューされた作家さん!!

本当におめでとうございます!!!!!!!

そして、何度目かの登場となる作家さん!!

こちらもおめでとうございます!!!!!!!


どの小説もよく私の心に刺さりました。
私の技術が未達で読み切れない部分も多くあったかもしれません。
読解力がなくて作家さんの意図が伝わっていないかもしれません。
表現力がなくて、正しく自分の意思を感想で示せていないかもしれません。

ですが、この小説たちから得たものは非常に多いです。
メモした言葉もありました。メモしたフレーズもありました。調べた言葉も、読み方もありました。
そこまでメモしたり、調べた数が多いわけではありませんが、私を成長させてくれた大切な小説の一つです。

健全な心の状態とは言えない私に、確かな安らぎと希望、そしてありったけの感情をくれました。

本当に、ありがとうございます。


皆さんが連ねる日本語は、どれも山奥をひそかに流れる川のせせらぎのように綺麗で、その綺麗さに、違う角度からまた触れてみたいと1つ読み終えるたびに思っています。

次回作があるのなら、ぜひまた読ませてください。

私に素晴らしい物語をくれて、ありがとう。
本の中で、もう一度出会えることを心から楽しみにしています。

応援しています!!




どうでもいい話

あの。すいません。この感想文めっちゃ自信ないんです。
ありきたりで上から目線な気がして。
そう感じられたのならすいません。私の責任です。

でも、おめでとうと祝う気持ちは絶対にあります。

1つ短編小説を読んで、感想を取りまとめて整理して……というのを14回繰り返すのに休憩を抜いて10時間かかってます。(9時半から始めて現在22時半)
読むのは早いんですが、如何せんアウトプットが苦手なもので。

ここまでお読みいただきありがとうございました。
今後とも小さな物書きですがよろしくお願いします。

(誤字脱字等ございましたら、お手数ですがご一報ください)


この短編集はスターツ出版文庫より、2024年3月28日に刊行されました。

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