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【エッセイ】からあげの話

一昨日の夜、彼女が久しぶりにからあげをつくってくれた。

からあげを食べるとき、はたまた作っているときにいつも思うことがある。
「からあげと竜田揚げの違いは何か」
その度に調べるくせにいつも違いを忘れてしまう。
性懲りもなくスマホを取り出して調べると「下味をつけた食材に小麦粉や片栗粉などを薄くまぶして油で揚げたのがからあげで、竜田揚げは片栗粉のみで揚げるものを指すとされています。」とのこと。
喜ぶべきか嘆くべきか、便利すぎるこの世の中なのではGoogleに「からあげ 竜田揚げ 違い」と打ち込めば0.7秒で答えが手に入ってしまう。
おかげさまでその答えを覚える努力を怠ってしまい何度も調べる羽目になるのだ。


この記事によると、つまりからあげと竜田揚げの違いは、使用する食材が違うだけなのだ。
面白いのがこの説明には以下のように続きがある。
「ただし、家庭によって呼び名が違ったり片栗粉だけを使っていてもからあげと呼ぶケースも多々あるようです。」
…おい。
……おい。
………おい!!!!!
これでは結局全部からあげではないか。
全ての道はローマに通ずと言うが、鶏肉もまた揚げてしまえば全てからあげに通ずとでも言うのか。
全く、今まで何度も0.7秒かけて調べた私の時間を返してもらいたい。
…まぁこのことも、明日になれば忘れているだろうが。

小さい頃、からあげといえば大変なごちそうだった。
「今日の夕飯はからあげだよ」と言われた日の1日はあっという間だった。
私はおばあちゃんに育てられたのだが、夕方になっておばあちゃんが腰に片手を添えながら、たっぷりの油の中で"じゅわじゅわじゅわ"と音を立てながら菜箸で鶏肉を泳がせている姿が大好きだった。

中でも色濃く記憶に残っているからあげがある。
それは、私がまだ小学二年生の頃。
喘息をこじらせた私は近くの大学病院に1週間ほど入院していた。
退院した日、父親が車で病院に迎えにきて「よくがんばったね。食べたいものなんでも好きなもの言いな。何が良い?」と聞かれた私は、「おばあちゃんのからあげが食べたい」と答えた。
帰宅する途中で玩具屋さんによって好きなゲームを買ってもらい、家につくと"じゅわじゅわじゅわ"という音ともにニンニクと生姜の香りが私を出迎えてくれた。
「ただいま!」
すぐに荷物を玄関に放り投げて台所へ急いだ。
揚げたてのからあげが銀のザルにつまれているのを眼前にした私は、我慢できずに、積まれたからあげの一つに手を伸ばして口の中へ放り込んだ。
ひーひー言いながら唐揚げを頬張る私に、「おかえりなさい」と優しくおばあちゃんは言った。
この時のからあげが、私の人生で一番に美味しかった。

そんなおばあちゃんは一昨年に亡くなった。
そういえばおばあちゃんが作るからあげはちゃんとからあげだったのだろうか。
竜田揚げではなかったか。
最期に聞いてみたかった。


「おばあちゃん、おばあちゃんのからあげはからあげだった?」と。


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