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【短編小説】くまのクーちゃん

 ある日、お母さんはナミちゃんにくまのぬいぐるみをくれました。
 そのぬいぐるみはとてもふかふかで、かわいくて、
 ナミちゃんはすぐにその子を気に入りました。
 ナミちゃんはくまのぬいぐるみに「クーちゃん」と名前をつけました。

 ナミちゃんとクーちゃんはいつも一緒です。
 二人はとっても仲良しです。
 ナミちゃんはクーちゃんのことが大好きで、
 クーちゃんもナミちゃんのことが大好きです。

 ナミちゃんはいつもクーちゃんと一緒です。
 お母さんが「幼稚園に連れて行ったらダメよ」と言うので、
 ナミちゃんが幼稚園に行っている間、クーちゃんはお留守番です。
 ですが、幼稚園から戻ってきたナミちゃんは、
 すぐにクーちゃんを連れて、近所の公園に遊びに行きます。
 クーちゃんはお外遊びが苦手でしたが、
 ナミちゃんにはそれが分かりません。


 公園には、ナミちゃんのお友達がたくさんいました。
 ナミちゃんはクーちゃんと一緒に砂場で遊んだり、
 シーソーをしたり、ブランコをしたりしました。
 クーちゃんはブランコに乗っているとき、
 うっかりナミちゃんの膝からぽーんと飛んでいって、
 花壇の中に落っこちてしまいました。
 ナミちゃんは慌ててブランコを下りて、
 クーちゃんのところへ来てくれました。

 ナミちゃんとクーちゃんはいつも一緒です。
 二人はとっても仲良しです。
 ナミちゃんはクーちゃんのことが大好きで、
 クーちゃんもナミちゃんのことが大好きです。

 またある日はジャングルジムで遊びました。
 クーちゃんはジャングルジムが苦手です。
 ぬいぐるみのクーちゃんは、
 上手くジャングルジムに登れません。
 細い棒の上に、座ることしかできません。
 ナミちゃんはお構いなしに「早く!」と言います。
 クーちゃんは頑張って登ろうとしましたが、うまくできません。
 結局ちっとも登れず、ぽとんと地面に落ちてしまいました。
 ナミちゃんは少し考えてから、クーちゃんを迎えに来てくれました。

 ナミちゃんとクーちゃんはいつも一緒です。
 二人はとっても仲良しです。
 ナミちゃんはクーちゃんのことが大好きで、
 クーちゃんはナミちゃんのことが、好きです。

 またある日はどろんこ遊びをしました。
 ナミちゃんはどろんこ遊びが好きですが、
 お母さんは「お洗濯が大変だわ」と言います。
 クーちゃんもどろんこ遊びはあまり得意ではありません。
 ナミちゃんはクーちゃんのこともどろんこ遊びに誘い、
 クーちゃんが嫌がっていることにも気がつかず、
 クーちゃんのことを泥まみれにしました。
 ナミちゃんは「クーちゃん、大好き!」と言います。

 ナミちゃんとクーちゃんはいつも一緒です。
 二人はとっても仲良しです。
 ナミちゃんはクーちゃんのことが大好きで、
 クーちゃんはナミちゃんのことを好きなのだと思っています。


 またある日は一緒にかけっこ遊びです。
 クーちゃんの腕を持ったナミちゃんが、お外を元気に走ります。
 ナミちゃんが本当に楽しそうに走り回るので、
 クーちゃんは「腕が痛い」ことを言い出せませんでした。

 ナミちゃんとクーちゃんはいつも一緒です。
 二人はとっても仲良しです。
 ナミちゃんはクーちゃんのことが大好きで、
 クーちゃんはナミちゃんのことが好きなのか分かりません。

 ナミちゃんは公園で、お友達にクーちゃんを紹介します。
 お友達が、クーちゃんの手足をぐるぐる回したり、
 頭を引っ張ったりします。
 クーちゃんは「いたいよ、いたいよ」と言いましたが、
 ナミちゃんは「みんなもクーちゃんのことを、
 気に入ってくれて嬉しいな」と言いました。

 ナミちゃんとクーちゃんはいつも一緒です。
 二人はとっても仲良しです。
 ナミちゃんはクーちゃんのことが大好きで、
 クーちゃんはナミちゃんのことが分からなくなりました。

 幼稚園で、工作をすることになりました。
「自分の一番好きなもの」というテーマです。
 ナミちゃんはすぐにクーちゃんのことを思い浮かべました。
 クーちゃんを上手に表現するために、考えます。
 はさみ、のり、画用紙……。
 ナミちゃんは思い立ちます。
「そうだ、クーちゃんのボタンを入れよう!」


 ナミちゃんは言います。クーちゃんが一番好きだから、
 クーちゃんのボタンを工作に使うの。
 クーちゃんのことが大好きだから、
 ボタンを使って、クーちゃんを作るの。

 ナミちゃんとクーちゃんはいつも一緒です。
 二人はとっても仲良しです。
 ナミちゃんはクーちゃんのことが大好きで、
 クーちゃんは愛情とは何なのかを考えています。
 愛情とは相手の心をこんなに傷つけてしまうものなのでしょうか?
 愛情とはこんなに辛く、苦しいものなのでしょうか?

 片方の目を失ったクーちゃんには、もう何も分かりませんでした。

 相変わらず、ナミちゃんはクーちゃんと一緒にかけっこ遊び。
 クーちゃんはもう、何も言いませんでした。
 自分の右腕がどこかに行って、左脚も感覚がありません。
「クーちゃん、大好き!」と、ナミちゃんが言います。
「こんなにボロボロにして……」と、お母さんは呆れています。
 クーちゃんには「大好き」の意味がもう分かりません。
 なんにもわかりません。

 クーちゃんの頬の辺りから、ぽろぽろと何かがこぼれ落ちています。
「ママ。クーちゃんがおかしいよ」とナミちゃんが言います。
「ああ、中の綿が出てきちゃったのね」と、お母さんが言いました。

 ナミちゃんとクーちゃんはいつも一緒です。
 二人はとっても仲良しです。
 ナミちゃんはクーちゃんのことが大好きで、
「クーちゃんを捨てたくない!」と大声で泣き叫びました。
 
 クーちゃんは、

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)