旅立ち
あなたのことなんて、全然好きじゃなかった。
あなたに決めたのはやむを得ない理由があったからで、
あなたを気に入って、あなたを選んだわけじゃなかった。
出会った時から、あなたのことなんてなんとも思っていなかった。
あなたはいつも素っ気なくて、垢抜けなくて、温かい空気で包んでくれたことなんてなくて。
とっても気まぐれで、少しわがまま。
傷つきやすくて、繊細で、なのに鈍臭い。
あなたをどこから見ても、好きなところなんてなかった。
お別れなんて、なんともないはずなのに。
あなたと離れても、わたしは平気なはずなのに。
ああ、胸に何かこみ上げてくる。
胃の少し上がしくしくと痛む。
あなたの大きな窓から見える景色は、
いつもとなにも変わらない。
お別れの日だからって、美しく見えたりなんかしない。
荷物を全部吐き出したあなたは、出会った時と同じ姿。
ちっとも好きじゃないあなたを、わたしは少しだけ好きなもので彩り、そこで暮らした。
夢を追いかけ、恋をし、笑って、泣いた。
もう人生終わりだと大袈裟に嘆き、さっさと回復してみせた。
わたしが確かに生きた日々を黙って見ていてくれたあなた。
好きなんかじゃないよ、わたしの相棒。
今までありがとう。
さようなら。
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