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50代氷河期世代の天国と地獄

バブル崩壊後の就職難時代に社会人デビューを果たした世代を氷河期世代やロスジェネ世代として認知されて久しい。しかし、この世代を一括りにすることは実はとても難しい。なぜなら就職氷河期は長すぎたからである。

就職氷河期は1993年~2005年となんと12年も続いた。この期間に高校や大学を卒業し、新卒として就職活動を行った世代が氷河期世代に該当する。そこから計算すると、氷河期世代とは1970年~1984年に生まれた世代を指す。つまり、氷河期世代の先頭集団は2024年の現在すでに50代前半に突入しているのだ。

氷河期世代といえば40代、50代は最後のバブルを経験した勝ち組と勘違いされがちである。そのため50代の彼らは"隠れ氷河期世代"として、Z世代からはバブル組と勘違いされる不遇を受けている。しかしそれは誤りなのだ。

今の50代は、高卒組と大卒組など就職活動を始めた、たったの4年の違いで、その後の人生が大きく変貌した"時代の境目"の年齢なのである。そして蛇の身体のように長い15年もの幅を持つ就職氷河期世代で、最も過酷な目に遭ってきたのが、この50代の氷河期世代の先頭集団なのである。氷河期という大蛇の頭の世代こそ、最も毒を浴びせられた世代なのだ。

45歳以下の氷河期の後発組は、すでに就職氷河期というのっぴきならない時代が始まっているという社会の認識が形成されていたので、氷河期をいかに生き残ればいいのかの情報も広まり始めていた。

筆者も高校時代に親や担任からくいっぱぐれないために、どこでもいいから大学の理系へ進学しろ、とアドバイスを受けたことで、何とか就職することが出来たのだ。筆者と同じくFランの文系に進学した同級生は就職先に困り、スーパーや家電量販店など、当時はまだブラック労働が跋扈している業界へと進むことを余儀なくされていた。理系であればFラン大学卒でも、まだ比較的ホワイトな製造業界、中小メーカーの就職先を見つけることが出来たのである

そんな後半組と違い、先頭集団は何の準備もないまま氷河期の就活戦線に放り出されたのである。さながら、わけもわからぬまま銃弾や砲弾が飛び交う最前線に送られ、突撃を命じられたようなものである。十分な装備もなく、銃撃を耐え忍ぶための塹壕も準備されていなかった。そのため、おびただしい被害が出ることになったのだ。

散々たる状態、死屍累々の先頭集団の姿を見て、筆者たちは装備を整えることができたし、社会もこれは流石に不味い、と気づいて塹壕ぐらいは準備してくれていたので、被害はまだマシだったのである。

氷河期先頭集団は、ナポレオン戦争のロディの戦いで最初に橋に突撃し、対岸に並んだオーストリア軍から砲撃を受けひき肉にされたフランス兵のようなものであった。ロディの戦いでは数名の上級士官たちが自ら突撃することで兵を鼓舞し、フランス軍が活路を見出して勝利したが、残念ながら就職氷河期前半組に問題を打破できるリーダーたちは存在しなかった

そんな悲惨な就職氷河期先頭集団は、何とか就職するも圧倒的な企業の買い手市場だったために『代わりはいくらでもいる』という圧のもとでパワハラセクハラブラック労働に晒され、多くのものが心や体を病んでいった。

比較的ホワイトな、とはいえ今の基準では十分ブラックであるが、そんな企業に就職できた人間たちも、過酷な社内競争と上司からの指導により、強烈な自己責任論を持った人間へと仕上がっていった。

そしてあまりの就職戦線の厳しさに、最前線での戦いを放棄する道を選ぶ人間も多く出た。それが”フリーター”である。

フリーターとは今でいう非正規雇用のことで、厳しすぎる就職活動や就職後に待ち受けるブラック労働から逃れ、自分のペースで自由に働ける希望の道として、当時就活に打ちのめされた氷河期世代の若者たちからかなりの数が望む望まざるを問わず、フリーターの道へと進むこととなった。

平成の30年間にわたって安くて便利な社会が維持されてきたのは、ひとえに彼ら安月給で真面目に働く氷河期フリーターたちによって支えられてきた
就職氷河期と世代人口が団塊の世代に次いで多い氷河期世代の組み合わせによって、数年前のバブル時代であれば、立派な企業でサラリーマンとして働いていたはずの、能力の高い人材たちが非正規雇用の世界になだれ込んだのだ。だからこそ安くて質の高い"おもてなし"が日本で実現していたのである。

フリーターという言葉が流行る前までは、非正規雇用はパートタイマー、日雇い労働といったネーミングで呼ばれ、不安定な働き方として男性陣には敬遠されていた。しかしそんな非正規雇用にフリーターという新たな名前を名付け、自由で自分らしい働き方を推奨した社会の風潮も、氷河期世代を大いに迷わせる要因となった。

令和の今も個人事業主をフリーランスという言葉で推奨する言説が一部で流行っているが、こちらも平成のフリーターと同じく、多くの若者を惑わす言葉になっている気がしてならない

50歳前後の氷河期世代の子無し率が3割という数字なのも、男女ともに経済的な苦境に立たされていたことが大きな要因の一つであった

当時はまだ『いい年で結婚していない奴らは駄目』『人は子供を育てて一人前』という世間の圧が根強かった。そのため、経済的に問題がない男と、経済的に余裕のある男と出会えた女性はみな結婚して家庭を持って行った。筆者の大学の同級生たちも、綺麗に年収の高い順に所帯持ちとなっていった氷河期世代で未婚の男女は、結婚したくなかったのではなく、出来る状況ではなかったものが多数派だったのである

社会のパラダイムシフトの渦の中で、時代に翻弄された氷河期世代の先頭集団であるが、彼らの中には令和の若者が羨むような財産や立派な職歴を手に出来たものたちがいる。

もちろん彼らの多くは有名大学を卒業し大企業に就職したり、士業や医師の資格を持った成功した自営業者であったり、氷河期にもビクともしない太い実家を持って生まれてきた氷河期世代のハイスペックエリートたちである。

しかし、それ以外にも特別な学歴やコネ、資格がなくても氷河期の中で成功した勝ち組がいる。

時代に苦しめられた氷河期世代が地獄から天国へと上るために垂らされていた”3本の蜘蛛の糸”があったのである。一つ目が......

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