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絵本『かぜのうた』で楽器・ライアーと共演@えほんやなずなさん


今月上旬、つくば市の絵本専門店「えほんや なずな」さんにて、「おはなしかい ライアーの響きにのせて」が開催されました。なずなさんの店主・一美さんが企画してくださったこのイベントを通じて、楽器・ライアーの生演奏と、今年発行した『かぜのうた』とがコラボレーションをしました。

書店を会場として、赤ちゃんなどもいらしての実施予定でしたが、コロナの感染拡大に伴い、会場でのおはなしかいをオンラインで配信する形で実施されました。

『かぜのうた』は、春夏秋冬それぞれの季節にちなんだモチーフと、それが風に触れて奏でる音が登場します。夏であれば、りん・ちり〜んと鳴る風鈴や、ざわわん・ざわわんと穂がかすれる麦畑が登場します。おはなしかいでは、それぞれのモチーフにまつわる風のオノマトペを読み上げた後に、大津康子さん、吉田不二子さんのお二方が、ライアーを使って風の音を奏でました。

身体と心により優しく響く楽器・ライアーの秘密


なずなさんより、ライアーの楽器を使った『かぜのうた』の読み聞かせイベントのお話をいただいたわけですが、恥ずかしながら、私はそれまでライアーという楽器を見たことがありませんでしたし、直に音色に触れたこともありませんでした。

初めて目にしたライアーは、滑らかに削りこまれた丸みを帯びた木に張られた弦からなる小型の弦楽器で、まるで木彫作品のよう。演奏する際には、胸元に抱きかかえるようにして、両手の指で弦を弾きます。足の上に置いて、両腕で包みながら音を奏でる姿は、まるで小さな子供を抱っこしているかのようです。

ポロンポロンと奏でられる音色もまた、その楽器の形のように丸みのある響きで、身体に染み入るような柔らかさ。あれっ?これは、どこかで聞いたことがあるな…、と思っていると、大津さんから『千と千尋の神隠し』のエンディングテーマ「いつも何度でも」で使われていたことを教えていただいて、それそれ!と合点。おとぎの国、夢の世界に誘われるような心地よさです。

そんなライアーの音色は、ピアノのようにはっきりと遠くまで届くというよりは、聞き手が能動的に耳をすませて聴くような静かな響き。

大津さんも、ライアーは大きなホールでの演奏より、むしろで小さく親密な空間で奏でられることに適していると教えてくださいました。たくさんの人々に対して演奏されるというよりも、その楽器を囲む人々の身体にしっかりと馴染む音が出るようにデザインされた楽器なのです。

そもそもこのライアーという楽器は、かの教育者ルドルフ・シュタイナーがその誕生に関わっていたそうで、シュタイナーの思想の影響を受けながら、音楽家エドムント・プラハトと彫刻家W・ローター・ゲルトナーが作り出しました。

ライアーで主に使用されているピッチは、ピアノなどに広く使用されている国際基準周波数A=440Hzではなく、それよりも低いA=432Hzだそうですが、これもシュタイナーの提唱によるものだそうです。シュタイナーは、A=432Hzの方が人間の身体と心により優しく響くと指摘していたそうです。こうした話からも、いかにライアーが人間の身体や心との調和を目的として生まれた楽器なのかが伺えます。

ちなみに、つくば市はライアー奏者人口がなんと、日本一だとのことです!
市内に練習会場が整っていることなどが背景にあるそうですが、大津さんや吉田さんがメンバーのライアーサークルが2000年から20年以上にわたって活動を続けられていて、市内各所でライアーの演奏会を毎年開催されています。


感じることの自由さ

このようなライアーの解説を大津さんにして頂きながら、ライアーが奏でられる場と、絵本が読まれる場というのは、様々な類似点があることに気づかされました。

絵本もまた、基本的にはライアーのように親密な空間の中で、少人数(主には親と子)の間で読まれることが想定されます。そしてライアーの音色が人間の身体に馴染むように、絵本を”演奏する”声もまた、私たちの身体に寄り添った響きです。

ライアーはその静かな音色で、絵本は読まれる人の声で、小さな空間を共有している人と人とを繋ぎます。ライアーと絵本、それぞれに異なるツールでありながらも、この二つが作り上げる空間には、深い親和性があるように感じました。

そして、大津さんと吉田さんの演奏を聴いていて面白いと思ったことは、タンポポの綿毛の”ふわり ふわり”という風の表現一つとってみても、お二方のライアーの奏で方が随分と異なるという点です。

”ふわり ふわり”とタンポポの綿毛が飛んでいく…、”す〜い す〜い”と鯉のぼりが優雅に大空を泳ぐ…。そうした言葉になる前の、私たちが風を感じた時の生の感覚を、ライアーの音色を使って表現してくださったので、どこまでもその表現は自由で、また多様です。

当たり前のことですが、”ふわり ふわり”という同じ言葉を使ってタンポポの綿毛に吹く風を表現することはあっても、実際には、その風をどのように感じているかは人それぞれです。

風の音というありのままの自然と、私たちの声という文化(オノマトペ)、この両者がまだ別れる前、未分化であった地点を、ライアーの音色を通じて見せて頂いているように感じました。

そしてこの体験は、本の作り手としてはとても嬉しい出来事でした。なぜなら、この本を作った際に願ったこととは、ページを開くことで、読み手の方が風を感じる時の感覚を思い出したり、その自分の感覚を誰かと共有したりするツールとして、『かぜのうた』が使われることだったからです。


書店という”場”の広がり


版元としても嬉しいコラボレーションをさせて頂いた「えほんやなずな」さんによる本企画。

そもそも、どんな経緯からこのイベントが立ち上がったかというと、きっかけは、ライアー奏者の大津さんがえほんやなずなさんに来店されていた時に、偶然、今回読み聞かせを行ったポリフォニープレスの多田が「かぜのうた」の納品に伺ったこと。

一美さんにご紹介いただいて、納品された「かぜのうた」を手にとって下さって大津さん。風のオノマトペをシンプルに表現したこの絵本を見て、ライアーを使ってこの本を表現したら面白いかもしれないと思って下さったそうです。

更に大津さんは、多田(男性)の声!に着目。なんと多田の声を「これは読み聞かせにいい声!」と、評してくださいました。絵本には関わりながらも、まさか自分の声が読み聞かせに適しているとは思いもしなかった多田は、このコメントを機に、熱心に読み聞かせに取り組んでいくことになります…。笑

店主・一美さんが創り上げる「えほんやなずな」さんという書店の場があるからこそ、紡がれ生まれる繋がり。そしてその繋がりを、「おはなしかい ライアーの響きにのせて」という形に練り上げて、さらに次の輪へと繋げていただきました。

人の手で日々耕されている書店という場を経ることで、本は、全く予想もしていなかった新しい可能性を見せてくれる。改めてそのことに気づかされた、そんな1日でした。(終わり)



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ポリフォニープレスは、絵本やアート本を中心に刊行する、茨城県つくば市の出版社です。

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