大逆転!!🇰🇭【スーパースターを目指すカンボジアの若者たち】第30話
🇰🇭ティーの闘い
また、みんながロイを見てゲラゲラ笑っています。
どこで調達したんだか、ロイは全身タイツをお召しになっていて、
「これはお尻の形が強調されて、セクシー!」
と、大はしゃぎ。
事務所の至る所でお尻をプリプリ振って、みんなをゲラゲラ笑わせていました。
そんな中で、不機嫌な男が一人。
ティーです。
ティーは、カンボジアで開かれるボディビルの大会で入賞するような筋肉の持ち主。
DIYも得意で、プノンペンでもケンの芸能事務所の殆どの設備をティーが作りました。
そして、そんなムキムキボディーとは裏腹に、お料理が好きだったり、植物が好きだったり、繊細な面も持ち合わせています。
そして時に、その繊細な一面が悪い方向に出ることがこれまでにも何回かありました。
些細なことで機嫌が悪くなり、周りのみんなに八つ当たりしてしまうのです。
ティーは、シェムリアップ時代から、コンやキンとよくぶつかって喧嘩もしていました。
その度に叱ってきたけど、特にプノンペンでの共同生活が始まると、それが顕著にわかるようになってきました。
例えば、ロイがティーのズボンをはいていたりした時。
カンボジアでは、「お前のものは俺のもの」的な風潮があって、ケンやレナのサンダルも誰かが履いてたり、お互いの時計やらバッグやらを使ったり使われたりすることが日常茶飯事。
ましてや同じ家に住んでいるので、余計にぐちゃぐちゃ!
レナは最初はそれが嫌だったのですが、徐々に慣れて、最終的には誰のだかわからないサンダルをつっかけてパートにも出かけていました。
でもティーは、レナよりもっと拘りが強くて、
どうしても「自分の領域」をロイのようなガサツな人間に犯されるのが許せなかったのです。
そして、恋人であるニタとの同棲生活も、ティーが機嫌を損ねるきっかけになりました。
ケンとレナもそうだけど、パートナーとずっと一緒にいるって、その分、喧嘩も増えるのよね(笑)
ティーとニタもよく喧嘩をして、ニタが泣くたびに私は慰めてあげていました。
そして、自然や植物を愛するティーにとっては、プノンペン暮らしそのものがストレスだったはず。
その日、ティーは機嫌があんまり悪くて、リンが
「おはよう!」
と挨拶をしても無視したり、
とにかく家じゅうのみんなを無視して機嫌が悪いことを滲ませていました。
それが数日続くと、みんなの顔もどんどん曇って、悲しい顔に。
レナもどんどん悲しくなって、とうとうティーに怒ってしまいました。
「どうしてみんなのことを、そんな風に悲しませるわけ?
自分の機嫌の良い悪いでみんなを無視したり、悲しませたりするような男、私は大嫌いだからね!」
レナはティーの肩を掴んで、泣きながら、日本語で怒ってました。
ティーは日本語、全く分からないのにね!
こわーい!
すると、日本語が分からないはずのティーも目に涙を溜めて
「俺のことなんかで、何で泣くんだ!もう放っておいてくれ!」
とクメール語で言い放った後、レナの手を振り切って、部屋にこもってしまいました。
家族でも夫婦でも恋人でも親子でも
一緒に暮らすって、大変だ。
その翌日。
ケンとレナの部屋の前には、A4用紙2枚にわたる手紙が置いてありました。
読み進めてみると、英語が苦手なティーがミッキーに手伝ってもらって書いた「決意表明」でした。
要約すると
「俺は、決してポラリックスを裏切らない。
ポラリックスを悪く言うやつのことは、俺が絶対に許さない。」
そんな内容でした。
機嫌が悪くなったり、誰かと喧嘩することがあっても、ティーはポラリックスを心から愛してくれているのです。
そんなティーの「決意表明」が証明される出来事がありました。
プノンペンで、外国人が開催するダンスバトルにポラリックスが出場することになったのですが、
なんと出場者名簿の中にコンの名前があったのです。
(あと、なぜかついでにソヒャップとニタの名前もあったわ)
コンの対戦相手は、ティー。
共にポラリックスだった時には、ダンスでティーがコンに勝ることはありませんでした。
コンもそう思っていて、ティーを下に見ていたからこそ、コンとティーはよく喧嘩になっていたのです。
この対決を知った時、レナは胃が痛くなりました。
ティーは、どんな思いだろう。
自分勝手な理由でポラリックスを辞めて、みんなを窮地に追いやった挙句、
SNSではポラリックスを批判するコンに対して、どんな気持ちでいるのだろうか。
レナは、そのダンスバトルを見に行くことが出来ませんでした。
眠ってしまうことも、他で気を紛らわすことも出来ずに、
ダンスバトルが終わるまで気を失ってしまいたいと願いながら、家でみんなの帰りを待つレナ。
そんなレナの元に、ボリャから連絡が来ました。
「レナ、ティーはコンに勝ちました!」
レナはまた泣きながら、ボリャが送ってくれた、
たくさんの写真を見ました。
ティーはこのダンスバトルの前に
「ポラリックスを誹謗中傷するヤツと一緒に写っている写真を消したい」
という発言をしていて、
「君は、コンに勝てる。あいつが挑発しても相手にするな」
とケンからアドバイスされていました。
予想通り、ティーを挑発するコン。
自分の顔の目の前で挑発していくるコンに対し、
ティーは不動明王のような顔で目に火花を湛えながら構えていました。
“君には、
誰にも負けない努力で作り上げた筋肉がある。
自信を持って、踊れ!”
ティーとコンの勝負は、互いに火花が散り、何度も引き分けになり、サドンデスの勝負になりました。
レナさん、俺はコンに勝った!!
3ラウンドも戦って、勝ったんだ!
俺はダンスで、コンに勝った!!!
ティーからもチャットが届き、
レナは一人で頭痛がするまで号泣するのでした。
「おはよう!」
「おはよう!」
元気なティーの声が、
そして
ノリ、リン、ロイ、ミッキー、ボリャ、ニタ、ヤン
みんなの声が、
事務所に聞こえる朝。
私は、そんな朝が大好き。
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