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ここで働かせてください!🇰🇭【スーパースターを目指すカンボジアの若者たち】第28話

🇰🇭ヤン

みなさんは、神様って信じてますか?

神様、いるのよ。

だって、私はアンコールワットの神のお遣いなんだもの。

カンボジアの人は、多くが仏教徒。

ちなみに、ケンとレナは特にどこかの宗教に入れ込んでいなくて、「八百万の神々」派です。

特にカンボジアに来てからは、「神がいるのでは」という感覚に陥ることがよくありました。

だって、私が神様のお遣いなんだもの。
ずっと近くにいたのよ。

コンが最悪のかたちで事務所を去った翌日、とある青年がやって来ました。

彼の名前は、ヤン。(また似たような名前の子が入って来たなー)

実はヤン、事務所がまだシェムリアップにあった頃、ポラリックスになりたいとやって来たことがあるんです。

でも、ケンの厳しいトレーニングについていけず、辞めてしまいました。

そんなヤンが、また事務所にやって来たのです。

「ここで働かせてください!」

ヤンは事務所に来るなり『千と千尋の神隠し』の千尋のセリフを言い放ちました。

「僕は、ダンサーやシンガーにはなれない。でも、どんなかたちでも良いから、ポラリックスに関わらせて欲しいんだ!

お給料は要らない。お金を貯めてきた。ただ、寝る場所だけもらえたらいい。

どんな事でもするから、ポラリックスの一部になりたいんだ!」

ケンは、ヤンの情熱に心打たれました。

「今、この事務所はあんまりお金がなくて(たぶん、もうすぐ電気止まるし、食糧難が始まるし)、本当にそれでもいいのか?」

「いいんだ、僕を仲間に入れてくれて、ありがとう!」

その日からヤンは、がむしゃらに働き始めました。

どんな雑務も、ニタと一緒に一生懸命にこなします。

(ちなみに、コンがいなくなった場所がヤンの居場所に代わり、出来る範囲でお給料も渡すことができました。)

ケンは、事務所の中でカメラワークを得意としていたキンの下にヤンをつけて、カメラのことをヤンに学ばせることにしました。

どんどん知識を吸収し、ケンからも積極的にいろんなことを学ぶヤン。

お盆休みも正月休みも田舎に帰らず、ずっと事務所で勉強。

あっという間に、もともと怠け者だったキンの技術を追い抜いて、ポラリックス専属のカメラマンになりました。

ヤンは色黒のポッチャリさんなんだけど、撮影となればどんな足場でもどんどん進んで行っちゃうから、ヤンが高い所から落ちたりしないように、ケンがヤンの服を掴んで引っ張っている姿をよく見ました。

そして、もう一人。

コンの契約違反に伴い「第2回・ケンの芸能事務所、大飢饉の巻!」がスタート。

電気が止まり、極貧生活の渦中にいた、ある日の真夜中・・・。

私がボリャとニタと暗闇で女子会をしてると、誰かが事務所に入ってきました。

こんな真夜中に誰か来るなんて・・・さては、ついに泥棒ね!

プノンペンは泥棒も多いの!

「ワンワン!!泥棒警報よ!ワンワン!!」

「しーっ!サソリ、俺だよ!」

「え・・・?あぁっ!ミッキーちゃん!!」

そう、なんとミッキーがオーストラリアからいきなりやって来たのです!

「俺、みんなを驚かしたいんだ。協力してくれよ。」

「もちろんよ!私、サプライズ大好き!」

ボリャとニタも、大喜び。

ミッキーは下階から順番に、みんなを驚かせていく作戦。

まずは、キンの部屋に侵入よ。

「ぎええェぇぇぇーーーーーーーーーーー!!」

その頃、3階にいるレナは、キンの悲鳴でハッと目が覚めました。
(ちなみにケンは、爆睡中。ケンは、よっぽどのことがないと起きないタイプ。)

今のダミ声は、キンだ。
どうして叫んでるんだろう。

待てよ、夢の中で、サソリがワンワン言う声も聞こえたような・・・

まさか・・・泥棒が侵入した!?
プノンペン、泥棒多いから!

「イーヒッヒッヒッヒッ!!」

今度は、キンが笑ってる!
さては、あまりの恐怖に気がフれたんだな!

はっ!キンは泥棒の人質に取られたのかもしれない!

そして次々に、
リンやティーの怒号のようなもの、
ロイの叫び声、
ノリの泣き声まで聞こえてきて、
レナはケンを叩き起こしました。

「大変!!キンが泥棒に人質に取られた!!この部屋に犯人が来るよ!」

「はぁ?」

「何か武器を!!」

ドンドン、ドンドン!!
ケンとレナの部屋をノックする泥棒!!

なぜか尻尾を振って喜んでいるクジラ!

「お前、何者だ!!」

ケンが思いきってドアを開けると、大きなクマさんのようなものがケンを包み込みました。

「え?え?」

「なんだよ!ミッキーじゃねぇか!」

みんなでミッキーを囲んで大喜び。
まさかオーストラリアから、大飢饉に陥っている芸能事務所に来てくれるなんて!
ミッキーも物好きね。

大喜びのケンはこう言いました。

「レナ、お金、いくら持ってる?」

その時、レナは自分の残高・1ドルを大事にしていました。

この1ドルは、発電機を動かすガソリン代に充てようと思っていたものです。

「ダメだよ。この1ドルは、ガソリン代に使うんだから!」

「うっせー!」

ケンはパッとレナの財布から1ドルを奪って、外へと走り出して行きました。

「泥棒っ!!誰か捕まえてーーーー!」

ケンが買って来たのは、缶ビール2本。

「こんな夜は、飲むしかねーだろ!おかえり、ミッキー!」

缶ビール2本をお椀にあけて、みんなでストローで回し飲み。

そして、酔っ払ったみんなは二人羽織ごっこやら早口ゲームやらで大盛り上がり(レナも半ばキレ気味で参加してました)、そしてパタリと眠りに着きました。

翌朝。

レナは、ベッドの上で目覚めた瞬間にこう思いました。

「あぁ・・・一文無しだ・・・」

でもね、その日、ボリャさんが発表するのです。

「今日、お金もらえます!担当者から、連絡きた!」

【金額も減らされなかったーーー!良かったーーー!

その日、ボリャとレナは電気局へ支払いへ。家賃の残りも支払って、ホッと一息。

やがて、ブーンと天井の扇風機が回り始めて、みんなで抱き合って喜びました。】

※【】内は、第一回目の飢饉と同じ文章を使い回しています。

「ねぇ、サソリ。こんな事ってある?
すっごい意地悪な神様に見守られてる気がするなぁ。」

意地悪とは何よ、レナ。

いつもギリギリのところで助けてあげてるんじゃない、失礼しちゃうわ!

「ここで働かせてください!」
ある日突然やってきた、ヤン


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