チームリーダーの交代🇰🇭【スーパースターを目指すカンボジアの若者たち】第19話
🇰🇭コンの危険信号
カンボジアの12月は乾季で涼しく、過ごしやすい季節です。
そして、私とポラリックスたちの好物・コオロギが大量発生する季節でもあります。
夜になると、事務所にはピョンピョンたくさんのコオロギがやって来るのよ~!
「サソリ、コオロギ捕まえよう!」
「オッケー、ロイ!」
私とロイは、せっせとコオロギを捕獲!
人間はコオロギを揚げて味付けして食べるらしいけど、私は生でいっちゃいます。パクっ!!
・・・あれ、ロイも生で食べてるわ・・・まあ、いっか!
「レナもコオロギ食べる~?ほらっ」
捕まえたてのコオロギを、レナにも分けてあげたいロイ。
「いいえ、結構です」
何よ、失礼しちゃうわねー、コオロギは貴重なタンパク質なんから。
ポラリックスのリーダー・コン。
ソヒャップが離脱する少し前から「腰が痛い」と欠勤回数が増えて、事務所に来てもゴロゴロと寝ている姿が目に余るようになりました。
以前のような、活き活きとポラリックスを引っ張るリーダーの姿ではないコンの様子が心配になり、ケンはポラリックス一人一人に話を聞いてみることにしました。
コンは人によって、口調がすごく強くなる。
今、ポラリックスとして定着したメンバーはなんとか乗り越えて来たが、
コンの口調が原因でポラリックスになることを辞めてしまった子が何人もいる。
コンは自分よりダンスの技術に劣るソヒャップに対しても、見下すような言葉遣いをしていた。
そしてコンはそれを、ケンやレナ、ミッキーがいないところで、やる。
ポラリックスたちは言いづらそうに、そう話してくれました。
コンはいつからか、“良いリーダー”を演じていた・・・?
そんな矢先、コンからこんな申し出がありました。
「みんなに話がある。ケンちゃんにも聞いてて欲しい」
コンはポラリックスと事務所の全員を集めて、こんな“演説”を始めたのです。
「最近、練習に身が入ってないヤツが何人かいる。オレは、そういう態度を許せない。もしみんなのモチベーションがこのままなら、正月のコンサートは辞退したいと思う。」
みんな、コンのその演説をキョトンとして見ていました。
流石にこれ、深読みが苦手な単細胞おじさん・ケンでも気付いてしまった。
今、一番に練習に身が入っていないのはコンだし、コンは“良いリーダー”を演じて保身に走っているということに。
「コン。君に話がある。俺の部屋に来なさい。」
ケンは、コンを呼び出しました。
「コン、君はこれまで、みんなをまとめて引っ張る良いリーダーだった。
でも今、果たして君は、自分自身に言えるかな?
みんなのことを想いやって導ける、良いリーダーだって。」
「いや・・・最近の俺は、腰の調子が悪くて、休んでしまうこともあるから、良いリーダーじゃないかもしれない。」
「腰のことだけじゃない。
もし君が、腰の痛みが原因で良いリーダーではないと言っているなら、それは違うよ。」
「・・・・」
「とにかく、腰が痛いことについては仕方がないから、腰が良くなるまで一度、リーダー業から離れなさい。
そして、その間によく考えてごらん。
どうして君がリーダーになったのか、良いリーダーってなんなのか。」
そこに、コンコンとノックをして、ノリがやって来ました。
「ケン、俺のことも呼んだ?」
「来てくれてありがとう、ここに座って。」
ノリはコンの隣に腰をおろします。
「コンは、腰の痛みがひどいから、しばらくリーダー業を外れることになった。その間、ノリがリーダーになって欲しい。」
なぜノリがこの場に呼ばれたか。
ここしばらくコンがそんな調子で、その間に自然とみんなを引っ張っていたのがノリだったのです。
毎日のスケジュールを管理し、何かを忘れてしまいそうなメンバーには事前にチャット連絡。
なんならケンのスケジュールも把握して
「ケン、ここの仕事と出張がダブルブッキングになるよ」
「おお、本当だ。あぶねーあぶねー」
病的に忘れっぽいケンは、何度ノリに救われたか。
それにノリは、メンバーの誰ともケンカしたことがなく、繊細で気難しい面があるティーや、陽気でガサツでデリカシーの無いロイのことも、カーッとならずに上手く流せる性格。
それにノリは細身だけど健康で、欠勤がほぼゼロ!ステキ!
いつの間にかノリは、みんなを縁の下からサポートできる、バランスの取れた男になっていたのです。
最初に会ったときには、自分の好きなことが仕事になるわけない、ビジネスマンになると言い張ってた天邪鬼な子だったのに。
急にリーダーになって欲しいと言われたノリは、ちょっと驚いた顔をしたけれど、決意を秘めて頷きました。
「わかった。俺はコンのようなリーダーになれるか分からないけど、頑張るよ。」
「コン、君はノリをサポートしてあげてね。」
「わかったよ、ケンちゃん。オレは、ケンちゃんのことを誰より信頼してるからね、俺はポラリックスとしてずっとやっていくからね。」
コンの本音はどういう気持ちだったのか?
それは今でもわからないけど、必死でケンに取り行っているように見えたレナでした。
こうして、ポラリックスのリーダーが入れ替わり、ノリがみんなを引っ張る役目を担いました。
その夜。
レナには、新リーダーとなったノリからのチャットが届きました。
「レナ
俺は小さい頃から、リーダーになるのが嫌だったんだ。
なんだか、怖くて。
でも今の俺は違う。みんなのために頑張りたいと思ってる。
でも困った時には、俺のことを助けてね」
「わかってるって。」
やがてノリは、ポラリックスだけではなく、ケンやレナのことも支えるリーダーへと成長します。
どんな時にも揺るがない、強く優しいリーダーに。
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