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道草を喰う。

 懐かしい記事が発掘されたのでシェア。この記事がキッカケで岡本信人氏が草食男子としてブレイク。ライター冥利に尽きる。

 ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」に出てくる中華・幸楽の厨房で、角野卓三の下で、気配を消すように中華を作り続ける男、その名は岡本信人。名バイプレイヤーとして一貫して「普通の人」を演じてきた彼だが、実は普通でない趣味があった。その趣味とは「雑草を食べること」。著作『道草を喰う』(平成十年・絶版)によると、物心付いたときから道端に生えている雑草を食べていたという。巷で流行りのスローライフな風潮とはあえて一線を画すストイックな姿勢に心打たれたQJロハス班はさっそく「都会で野草を摘んで食べよう」取材をオファー、本人直々に快諾を受けた。
当日、朝十時。この日東京には初雪が観測され、極寒であったにもかかわらず、集合場所の代々木八幡駅に我々が着くと、そこにはすでに割ぽう着姿の信人氏が!  
「いや~どうもどうも、では早速行きましょう♪」とノリノリの信人氏、合流するやいなや、五秒程で道路わきに新芽のヨモギ(キク科)を発見。「まだまだ摘まないよ~」と余裕たっぷりの信人氏。割ぽう着の下にはシャツ一枚だ。そのまま代々木公園そばの道路沿いを歩く。ところで野草を食べるきっかけは何だったんだろうか。
「やっぱうまそうだったんだよ。それをね、今こうして都会のど真ん中でやるのがいいのよ。僕は道草主義って言ってるんだけど、何気ないもの(野草)も、僕の役柄もそうだけど、こうしてよく見れば存在感があるんだよね。そういうものに昔から惹かれるっていうのはあるね」
今度は小さな公園の植え込みにノビル(ユリ科・別名エシャロット)を発見。「この辺だと犬がねえフンフン…」と言いつつも躊躇なくズボッと根っこから抜く。筆者も負けずに抜くと「お、うまいね~やられちゃったなぁ」と信人氏ちょっと悔しそう。次は民家の植え込みにユキノシタ(レア!)発見。「これは珍しいねえ。あんまりね、ひとんちのを採るのはよくないからやめましょう。こういうのは採りすぎちゃダメ。他の人のために残しておくことも大事、僕以外みたことないけど(笑)」ユキノシタゲット。その他、ドクダミ・ノゲシなどバラエティ豊かな野草たちが元気に根を張っていた。
「本出したときに兄貴から電話がかかってきて『お前草食って生活してるらしいな』って(笑)。野草だけで自給自足できたら何も怖いものはないよね。ちょっとご飯採ってくるわって(笑)」
 約一時間程の散策を終え、近くの蕎麦屋でてんぷらにしてもらう。ノビルはシャキシャキした歯ごたえに土の匂いを含んだ辛味が野性的で美味い! ヨモギもほんのり甘くて野草とは思えない上品な味だ。ドクダミも見事に臭みが消えてイケる。草がこんなに美味いとは!! 俺は二年ぶりに飯食って泣いた。傍らで微笑む信人氏。
こじゃれたスローライフ雑誌読んで満足してないで今すぐ『道草を喰う』を持って都会のストリートへ! そして、普段見ない足元に、そっと目を向けてみよう。(文・ジミー・ボーダー)

※初出 クイック・ジャパン 


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