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2022年、日本における『チェヴェングール』の年

『チェヴェングール』が満を持して日本語界に登場した2022年を振り返っておきたいと思います。阿部大樹さんとのトークイベントで、「『チェヴェングール』プロジェクトでのサブテクスト(とか仕掛け)の作り方がすごいからお話ししてみたかった」と阿部さんに言っていただきありがたいかぎりでしたが、その結果として情報がとっ散らかってしまうことに賛否両論あるかもしれません。

訳者としては、1920年代ロシアという地理的・時代的にも離れた作品を現代日本に紹介するにあたり、できるかぎりの工夫をする必要があると考えました。『チェヴェングール』という作品がどれほどのアクチュアリティ・ポテンシャルを持っているかを示し/作品へ(から)の「窓」をできるだけいろいろ準備することで/作品ができるだけ誤配されて思わぬ出会いと受容を生む状況を作りたかったわけです。だってそれほどの力を持ち、全力を注ぐに値する作品であり、作家であるのですから。訳者が想定できる配達先などしょせんはかなり限られているので、これからもどんどん、わたしたちの知らないところで誤った配達が行われてほしい。それでなくとも、すばらしい方々とともに頑張って翻訳したわけですから、批判にせよ賞賛にせよとにかく読まれてはほしかった、無視はされたくなかった、そうじゃなきゃ報われないという素朴な気持ちももちろんあります。

下に列挙するのは、そのための努力の道筋であり、それを受けてさまざまな方々が作りだしてくださった実、の例です。もともと引きこもりがちな人間であって、2022年は頑張りすぎた感もあります(楽しかったけれどしみじみ疲れました)。しかしこの作品が、プラトーノフが、日本の文脈に根づくことに多少なりとも貢献できるのならば、これからも何だってやっていきます。なぜなら愛しているし、信じているから。

2022年はまずまず頑張れたと思うし、それはすべて受け止めてくださった読者のみなさんと、折々にこれ以上望むべくもない場を提供してくださったみなさんのおかげです。故アンドレイ・プラトーノヴィチともども、伏してお礼を申し上げます。プラトーノフを信じてくださって本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

*2022/12/19 微追記

いつだって遅すぎることはないので、まずはここから

[11月]翻訳者・装丁家・研究者が共謀したzineを刊行。冊子版は60部限定で、まだもうすこし在庫があるようです。ちょっと気になっている人はどうかお早めに。自分なりにしっくりくる『チェヴェングール』へのアプローチを見つけてもらえるんじゃないでしょうか。

[10月]上記zineの基になったトークイベントのアーカイヴ動画は、2022年12月末まで購入・視聴することができます。

訳者が書いたり語ったりしました

[10月]翻訳者(工藤順・石井優貴)インタヴュー「プラトーノフが書いた『もうひとつの革命』」『文學界』2022.10, pp.58-71。この機会をいただけたことは本当に大きかったです。

[6月]石井優貴(翻訳者)「ユートピアを求めることの虚しさ――アンドレイ・プラトーノフ『チェヴェングール』」じんぶん堂ウェブサイト、2022.6.24。訳者のうち石井さんによる「もう一つのあとがき」。

[7-8月]清野公一さんが装丁の話をしています。とても貴重です。

[5月]ブックリスト二つ(工藤順作成)。

[7月]スラヴォイ・ジジェクとの関連で。素晴らしいタイミングで、勝田悠紀さんが『あえて左翼と名乗ろう』の翻訳を届けてくださいました。

[6月]工藤による補遺的な記事。

読者からの熱い反応

各紙で熱い書評をいただきました。(新聞書評は基本的に要登録です)

[10月]河野聡子「異なる時空から届く思索の声」『西日本新聞』2022.10.8.

[10月]藤ふくろう「新刊めったくたガイド:ヘビー級の家族小説2連発だ!」『本の雑誌』2022.10, pp.44-45。

[9月]秋草俊一郎「出版不可能、翻訳不能とされた大作」『週刊読書人』2022.9.9.

[8月]沼野充義「言語の可能性を酷使した最先端の実験」『毎日新聞』2022.8.20. 沼野充義先生は、同紙上の「2022年「この3冊」」でも『チェヴェングール』を選出くださいました(2022/12/10)。

その他、以下の方にもご紹介いただきました。

  • 四方田犬彦「22年下半期読書アンケート」に選出『図書新聞』2022.12.24.

  • 亀山郁夫「二〇二二年の収穫!」に選出『週刊読書人』2022.12.16.

  • 前田和泉「出版ニュース」『東京外語ロシア会会報』(24) : 2022.9, p.10.

  • 樺山三英「2022年上半期読書アンケート」『図書新聞』2022.7.30.

SNS上でもたくさんの声がわたしたちに聞こえました。ほんの一例だけご紹介します。

小説家の吉村萬壱さん。(2022/10/7)

充実したブログ記事をまとめてくださったかめきちさん。(2022/9/22)

本書からの引用セレクションを作ってくださった🍷📖🅼‌🅾‌🅶‌🅼‌🅾‌🅶📖🍷さん。(2022/8/15)

『チェヴェングール』までの道のりを実況中継してくださったTROIKAさん。https://twitter.com/hashtag/チェヴェングールまでの道のり

本当に申し訳ないのですが、ここでは限られた一部の方の声しかご紹介できません。パブリックな媒体にしろ、プライベートな媒体にしろ書き残してくださった方、あるいは書き残さなくともとにかく何かを作品から受け止めてくださった方に心からお礼を申し上げます。

トークイベントなど(終了)

  • [11月22日]阿部大樹さんのエッセイ・論文集『Forget it Not』刊行記念イベントに、工藤順が登壇。@青山ブックセンター

  • [8月6日]沼野恭子先生+訳者(工藤・石井)の3人で、刊行記念トークイベントを開催@ジュンク堂書店池袋本店 →トーク内容公開にむけて準備中です。

2022年はこんなところでした(あとすごい地味なとこでは、wikipediaのプラトーノフの項を書いてるのはほぼわたしです)。結構頑張ったとしみじみ思っています。2023年も頑張りますので(2、3持ち上がりかけていることがあります)、引き続き応援をよろしくお願いします。感想・質問、その他何でも、ぜひぜひお気軽にお寄せください。ご共謀をお待ちしています!


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