Nao Kudo / Нао Кудо

工藤順(ロシア語翻訳労働)。プラトーノフ『チェヴェングール』刊行しました。翻訳詩と生活…

Nao Kudo / Нао Кудо

工藤順(ロシア語翻訳労働)。プラトーノフ『チェヴェングール』刊行しました。翻訳詩と生活のzine「ゆめみるけんり」。 HP:https://junkdough.wordpress.com/ (illust. by misato fujita)

最近の記事

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『枯れ葉』のバンド:Maustetytöt

アキ・カウリスマキの『枯れ葉』に出てくるバンドMaustetytötがめちゃ良かった。で、YouTubeで歌詞の字幕をつけてくださっている人がいたのでいろいろ見ていました。歌詞が全部暗いのと、ニューウェイヴ歌謡が確実にツボを押してくる……映画の曲は「Syntynyt suruun ja puettu pettymyksin」(Google翻訳=Born in sorrow and clothed in disappointment)で、あれもめちゃいいのですが、この曲「Jos jäisin onnibussin alle」(同じく=If I got hit by an ambulance)はMCで(たぶん)言っているように、The Smithsの彼女たちなりの「翻訳」になっていて、すごくいい。あと、IKEA批判の「Ne tulivat isäni maalle」も「Tee se itse」(Do it yourself)もいい(後者はPVもめちゃいい)。いい、しか言えなくて笑ってしまう。 フィンランド語をぜんぜん知らない耳からすると、子音と母音の粒が揃っている感じが日本語のシラブルにたぶん似ていて、どのメロディにも日本語を乗せられる感じがし、メロディのレトロな感じがまた妙に懐かしさをそそる。うっかりフィンランド語の教科書を買った。 印欧語耳的には、(意味は分からないけども例えば「Näkymätön Anna」の歌詞で)「lentoon」(れんとーーん)と「sudenkorentoon」(すでんこれんとーーん)で、「あっその音で韻踏むんだ!」という驚きと楽しさがあってよい。意味がいっさい耳に入ってこないのもまたいい。元外大生にしかピンとこないかもしれないけど…

    • 二人はともだち(グロスマンとプラトーノフ)

      唐突に、しかもこういう形で、自分の担当している作家と出会うことは嬉しい。『黒書』というのは、グロスマンらソ連のユダヤ人作家たちが中心となって、ナチ・ドイツがユダヤ人に対して犯した犯罪をまとめた本(当時は結局出版できなかった)。ソ連でも反ユダヤ主義は根深かったから、非ユダヤ人作家は危うきに近寄らない人が多かった中で、アンドレイ・プラトーノフただ一人がこのプロジェクトへの協力を快諾したという。 それが「正しいと思ったから」というだけではないだろう、たぶんグロスマンの友人だったか

      • お忙しいところ失礼いたしますの件

        だれかに文句をいいたいのではなくただ事実についてかくのですがさいきん「お忙しいところ失礼いたします」「ご多忙の折恐縮ですが」ということばをうけとることがふえた(じぶん比)実感がありただじぶんはわりとしっくりこないというかこれは「忙しい」のだろうかとおもうことがおおく、というのは「忙しい」ということばでじぶんがイメージするのが 商社 サラリーマン 朝帰り 二時間睡眠 だからかもしれず、しかしじぶんのせいかつをふりかえってみると仕事にいっているまたは生活のためにつかう以外のじかん

        • 音楽イニシアティヴ・インスティトゥート(ИМИ)

          Институт Музыкальных Инициатив (Institute of Musical Initiatives) 2019年にスタートし、2022年10月まで活動していた非営利・独立団体で、ロシア語圏のロック・ポップに関するプロモーションや調査・研究活動を精力的に行っていました。現在は活動を停止しています。 どれほど精力的に、手厚い活動をしていたかということについては、以下のページを参照いただければいいかなと思います。 わたしたち外人にとってとても有益

        『枯れ葉』のバンド:Maustetytöt

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          メモです(性欲と自尊と服のこと)

          たまたまThe Velvet Undergroundを聴きかえしていて、例えば“Candy Says”の歌詞が耳に入った時に心の底からたまげてしまう。Lou Reedはよくわからない人で、とにかく気難しくて性格は最悪だという話はよく聞くし、マッチョなイメージで売っていた時もあるし、しかし何はともあれ、時おりこの曲や“Perfect Day”のように天使のような優しさと残酷さで人の心のほんとうを書くことがあって、そういう曲に出会うと敬意を抱かずにはいられない。この人にしか書けな

          メモです(性欲と自尊と服のこと)

          お分かりになりますか。こういうのが本当に本当に大切なんですよ、と肝に銘じたい。:高橋悠治『ピアノは、ここにいらない──祖父と父とぼくの時代』(編集グループSURE、2010)

          お分かりになりますか。こういうのが本当に本当に大切なんですよ、と肝に銘じたい。:高橋悠治『ピアノは、ここにいらない──祖父と父とぼくの時代』(編集グループSURE、2010)

          詩の同人誌『フラーギ』に寄稿しました

          ご縁があって、ロシアの若い人たちがやっているかっこいい詩の雑誌『フラーギ(Флаги)』(https://flagi.media/)に参加させてもらいました。 詩人アレクセイ・パルシコフの特集号で、詩「Минус-корабль」の翻訳です。正直、とても難しかった…… 下記リンクからお読みください。 パルシコフ(1954-2009)は、以下のマニフェストで言及される「メタリアリズム」という詩の潮流を代表する詩人として知られています。 すばらしい機会をくださった鈴木佳奈子

          詩の同人誌『フラーギ』に寄稿しました

          初めてテープレコーダーで自分の声を聞いた時の感じを覚えていますか

          最近いくつか肉声が出たので、よければお聞きください。自分の声の恥ずかしさ、場数をこなすことによってようやくなんとか耐えています。いったいなんだ、この、これは…… 一つ目は、日本翻訳大賞授賞式直後のラジオ番組。柴田元幸さんがとても丁寧にインタヴューしてくださって涙が出ました。 二つ目は、Twitterのスペース機能でお招きいただいた番組。工藤+石井+倉畑でゆるっとした雰囲気で楽しくしゃべってます。 それぞれ同じことをしゃべりつつ少しずつ違っているので楽しいと思います。(鶴

          初めてテープレコーダーで自分の声を聞いた時の感じを覚えていますか

          最近考えの足が止まった場所いくつか

          この記事はあなたを否定するために書かれていない。 *『チェヴェングール』が気になった方へまだ買っていない人には、ぜひ応援したい本屋さんで買ってほしい。ヒントとして、「書名+通販」で独立系書店の通販サイトに行き着くことがたいていできます[例:①、②など]。それから、これから読む人には急がないでほしいです。あなたの頭の中にしかない想像上の“チェヴェングール”との時間はとても大切だと思う。統計的な量として「読破」を目指す必要はないです。 買わなくてもかまわないです。本を読むとい

          最近考えの足が止まった場所いくつか

          尊敬する作家が尊敬する作家について語っておられる。「英雄ではない、いわば「失敗者」の姿を全く同情心抜きで容赦なく突き離して語る、それは神話の口調だと思った。神話の口調には残酷なところがある。(…)欲望に満ち、しかも冷たい」(『文學界』2023.5)

          尊敬する作家が尊敬する作家について語っておられる。「英雄ではない、いわば「失敗者」の姿を全く同情心抜きで容赦なく突き離して語る、それは神話の口調だと思った。神話の口調には残酷なところがある。(…)欲望に満ち、しかも冷たい」(『文學界』2023.5)

          ルービックキューブは分解するもの

          ルービックキューブは分解するもの

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          きみのこと、誰かがまだ愛してくれてるとおもう

          『新生ロシア1991』をみて思いだした、今はもうたぶん誰も覚えていないバンド

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          沼野恭子先生との鼎談が公開されました

          『チェヴェングール』関連、2023年最初のお知らせです。 2022年8月に池袋のジュンク堂で行った沼野恭子先生と訳者2人のトークイベントが、鼎談というかたちで公開されました。 #1 訳者2人の出会いと共訳作業について #2 プラトーノフの言葉を掘り下げる #3 プラトーノフの世界を広げる(ソ連国外での受容史や関連する映画など) #1でも申し上げておりますが、沼野恭子先生がいらっしゃらなければ、わたしはわたしにはなれませんでした。そういった測り知れない役割を「恩師」と

          沼野恭子先生との鼎談が公開されました

          日本翻訳大賞でいただいた感想から〜情報の公開について

          日本翻訳大賞にチャレンジしています。2022年中に刊行されたベスト翻訳書を決める賞。1月31日まで、どなたでも推薦することができ、読者推薦の上位10点が二次選考対象となります。もしよろしければひとこと推薦コメントとともに、ぜひご推薦ください。(いつの時点からか、googleでのログインが不要になっているので、ぜひお気軽に。) 賞そのものは非常に狭き門なのでどうなるかわかりませんが、翻訳者にとっては、読者の方からのもっぱら「翻訳」に関する感想が読めるのはとても励みになります。

          日本翻訳大賞でいただいた感想から〜情報の公開について

          年末に読んだ2冊の本(『こびとが打ち上げた小さなボール』と『チボー家の人々』)

          年末はほとんどチョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』とデュ=ガール『チボー家の人々』で暮れた。斎藤真理子さんの『韓国文学の中心にあるもの』はすばらしい本で、紹介される本はぜんぶ読みたくなるが、中でも『こびとが打ち上げた小さなボール』は気になってすぐに買った(この二冊はどちらもカライモブックスさんのおすすめでもある。ありがとうございました)。▶︎驚くほどよかった。いくつかの点でプラトーノフ、特に『土台穴』を思った。全体を支配するものすごい疲労感、その中で突如光明を放つ宇宙

          年末に読んだ2冊の本(『こびとが打ち上げた小さなボール』と『チボー家の人々』)

          2022年、日本における『チェヴェングール』の年

          『チェヴェングール』が満を持して日本語界に登場した2022年を振り返っておきたいと思います。阿部大樹さんとのトークイベントで、「『チェヴェングール』プロジェクトでのサブテクスト(とか仕掛け)の作り方がすごいからお話ししてみたかった」と阿部さんに言っていただきありがたいかぎりでしたが、その結果として情報がとっ散らかってしまうことに賛否両論あるかもしれません。 訳者としては、1920年代ロシアという地理的・時代的にも離れた作品を現代日本に紹介するにあたり、できるかぎりの工夫をす

          2022年、日本における『チェヴェングール』の年