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おはなし

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【創作】鴨鍋ハロウィン2023(896字)

【創作】鴨鍋ハロウィン2023(896字)

「鴨鍋ハロウィンやってます」
地下のイベント会場が覗ける足元の小窓に小さなのぼりが出ていた。私はその小窓に顔を近づける。

鴨鍋ハロウィンってなんだろう…
中央のテーブルではカボチャの形をした鍋がぐつぐつと煮えたっている。その鍋の横には白衣の男性が立っていた。
客はそんなに多くないようだ。
その男性が、上の小窓から覗く私の方に視線を向けたと思ったとたん、窓がパカッと開き私は吸い込まれた。

カボチ

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【おはなし】心お弁当 #毎週ショートショートnote

【おはなし】心お弁当 #毎週ショートショートnote

姉と母の遺品を整理していると、弁当箱が1つ出てきた。

あんたが高校の時に使ってたお弁当箱じゃない?
少し遅れて来た反抗期でさぁ、あんた全然口きかなかったよね。母さんそれでも毎日あんたの好きなおかず詰めてたよ。

うん…
あの頃は苛立ちがコントロールできなくて。今思えば甘えてたんだな。

弁当箱には、姉が修学旅行のお土産で渡したおもちゃの指輪や、誕生日に書いた手紙、オレたちの生まれたときのネームタ

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【おはなし】ブーメラン発言道② #毎週ショートショートnote

【おはなし】ブーメラン発言道② #毎週ショートショートnote

店主はついに道を極めた。
彼らの声が聞こえるようになったのだ。

専用のハンガーラックにずらりと並ぶ姿は圧巻である。
店主は自分が世界中から集めた、また自ら作り上げた彼らの声に耳を傾けながらお客が来るのを待つ。

初心者用のスタンダードな彼が口火を切る。僕はやっぱり美しい筋肉を持った人の体の一部として生きていきたいなぁ!

筋肉?それは重要じゃねーよ!サイズだ!吸い付くようにピッタリとしたサイズ感

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【おはなし】ブーメラン発言道 #毎週ショートショートnote

【おはなし】ブーメラン発言道 #毎週ショートショートnote

俺は人間科学部3回生。
春からの「ブーメラン発言道」の授業を受けに来た。

講師は銀髪のおじいさんだった。
教室がスンっと静まり返り、ガタガタと学生が席に着く。
前方に陣取っていた俺の元に、線香のような香りが漂ってきた。

さて講義の前に、スマホで青い鳥を開き「ブーメランで草」と検索してください。
世の中では、どのような発言が「ブーメラン発言」だと認識されているのか。
青い鳥の世界はこの道を学ぶの

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【おはなし】メガネ初恋 #毎週ショートショートnote

【おはなし】メガネ初恋 #毎週ショートショートnote

私の初恋は幼稚園の時だった。笑うとえくぼができる男の子。
えくぼ初恋。

小学校に上がると足の速いサッカーの得意な男の子に恋をした。
ハイソックス初恋。

中学生になって、やんちゃなんだけど小柄で可愛い先輩をいつも目で追った。
八重歯初恋。

高校生になって腕時計が際立つ力強い腕に心を奪われた。
Gショック初恋。そしてGショック失恋。

高3で同じクラスになった優しい彼に夢中になった夏。
メガネ初

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【おはなし】オノマトペピアノ #毎週ショートショートnote

【おはなし】オノマトペピアノ #毎週ショートショートnote

ピアノのポロンと一斗缶のガンガンは夜空を眺めながら思い出話をしていた。

マイちゃんが生まれてから結婚するまで一緒に居たのよ。とても楽しかったなぁ。

オレは舞台役者さ。強面のおじさんの頭に何度も体をぶつけて、お腹で音を膨らませるんだ。会場全体に大きな音が響くと拍手をもらえるんだぜ。

えー?本当に?ポロンは久しぶりに笑った気がした。

マイちゃんは、きらきら星が大好きで、いつも嬉しそうに歌いなが

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【おはなし】イカ室たぎった #毎週ショートショートnote

【おはなし】イカ室たぎった #毎週ショートショートnote

「イカ室たぎった末に衝撃の結末!」
新聞の見出しが躍った。

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あのタコ坊主!今回ばかりはただじゃ置かねぇ!

イカ親分、そんなに熱くなっちゃなんねぇ。冷静に対処しましょう。

長年対立してきたタコ組。イカ組は時代に合わせてイカ室と組織名を変えてネットの世界で成功している。

今回の抗争には親分も堪忍袋の緒が切れたようだ。

オレはこの世界ではひっぱりダコの実力者だ!
祭りでタコ焼き

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【おはなし】だんだん高くなるドライブ #毎週ショートショートnote

【おはなし】だんだん高くなるドライブ #毎週ショートショートnote

やめなよ。きもだめしなんて。

付き合い出したばかりの彼が、心霊スポットへドライブに行こうと言う。
彼にはまだ言ってないが、私はその手のものに好かれるのだ。悪い子達は寄ってこないので恐怖感は無いのだけれど、遊んでほしいのか、とにかく寄ってくる。

お化けなんていねーよ。まぁ、いてもオレは怖くないから安心しな。

月明かりは雲に遮られ、暗い森の中を進む。
彼は何かを払いのけるように昨年行った肝試しで

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【おはなし】ダウンロードファーストクラス #毎週ショートショートnote

【おはなし】ダウンロードファーストクラス #毎週ショートショートnote

過去のお客様の体験したまま、ダウンロードで体感していただけます。

自動で保存された乗客の五感の記録は、ファーストクラスのプロモーションやお客様の思い出の1ページとなるのだ。

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ん?暗い。でも暖かくて気持ちいいな…。
エンジンの音が心地よくて眠くなる。

なんか少し窮屈になってきた。
「外」から大人たちの慌てたような声が聞こえる。
耳をすませてみたけれど、良く聞こえない。
頭がぎゅ

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【おはなし】ヘルプ商店街 #毎週ショートショートnote

【おはなし】ヘルプ商店街 #毎週ショートショートnote

男は幼い娘とヘルプ商店街にたどり着いた。助けてくれるのか…と、少し期待し娘の手を引いて進んで行く。

助けて欲しい商店街か…。娘の顔を見ながら少し笑って言った。

パパ!あそこは?

酒屋の立て看板にはこう書いてあった。

大きなスマイルマーク付きだ。
ここだけ他と趣旨が違うみたいだけど…。

パパはお酒飲めないから。用が無いよ。
パパは力持ちでしょう?ヘルプしてあげて!

娘にいい所を見せたい。

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【おはなし】草食系男子に教えられたこと #毎週ショートショートnote

【おはなし】草食系男子に教えられたこと #毎週ショートショートnote

※性的描写が含まれます

私からキスをする。
私からデニムのジッパーを下ろす。

私はベッドに横たわった彼のトロンとした顔を眺めていた。

まさかのマグロ!?

チェリーかも…なんて思って、私が最初なら申し訳ないって思ってた。経験値不明。

それでも「したい」と言ってくれた彼に一通りの愛撫を終えて攻守交代。
彼は控えめに舌を胸に這わせた後に、指を挿入してきた。

いよいよ?なんて思っていると徐々に

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【おはなし】迷鑑定バディハイキング #毎週ショートショートnote

【おはなし】迷鑑定バディハイキング #毎週ショートショートnote

相手のお気持ち鑑定します。

高齢化社会で依頼者も鑑定師も今や70オーバーが当たり前になった。
依頼者とお相手が老人会で参加するハイキング。
意見に偏りが無いようバディとチームを組んで3チームが潜入。

一般の参加者を装いながら終始お相手に目を光らせた。

あのさりげないエスコートを見たか?
あれは遊び人だ。やめたほうがいい。
夜の帝王チームが髪をかき上げながら言う。

ハンカチは綺麗にアイロンが

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【おはなし】べこクイーン鉄塔 #毎週ショートショートnote

【おはなし】べこクイーン鉄塔 #毎週ショートショートnote

彼女は若いころには伝説の踊り子と言われたポールダンサーだった。

東北出身の母と、あのロックバンドが大好きだった父。それが名前の由来。
筋肉質だけどしなやかな身体と、たわわな乳房。衣装は赤いドレスとその中に着けた真っ赤なビキニ。

街に建てられた鉄塔の中心にポールを下ろした。
彼女が大通りを鉄塔へ向かって歩きだすと、いつの間にか鉄塔の周りに人が集まり、野営劇場が誕生した。

かつては酔って街を荒ら

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【おはなし】噛ませ犬ごはん #毎週ショートショートnote

【おはなし】噛ませ犬ごはん #毎週ショートショートnote

安全に自分を強く見せたい。そんな要望に応えるのが、我ら噛ませ犬カンパニーの要員たちだ。

今日の依頼は彼女に良いところを見せたいという男からのものだ。
場所は事務所のビルに入る居酒屋。作戦用にわが社が経営している。
相手は素人だから顔に出ないように誰が要員かは知らせていない。
ちょっとした小競り合いをして要員が引き下がると作戦は終了だ。

作戦の寸前に、要員たちは顔にごはんを付ける。
これで絶妙に

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