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REPORT|春のひかりに包まれて。詩×音×絵のコンサート「うたが生まれるとき」

こんにちは。詩のソムリエです。
空気は冷たくても、花の香りがふいに風にのってきたり、光のあたたかさを頬に感じたり…。そんな季節に、春をひとあし先に楽しむ詩×音×絵のコンサート『うたが生まれるとき』を開催しました。

春の詩にあわせ、音楽が、絵が、豊かに彩りをうみだし、参加のみなさまと一緒に詩を作るシーンもあり…まさに、「うた」が生まれるときに立ち会うコンサート。

詩の世界がふわりと包みこんだ様子や裏側を写真たっぷりでお届けします。

左より「音」の吉岡愛梨さん、「詩」のわたし、「絵」の河合愛さん。3人でotoshitoe

はじまりは、3年前

このコラボの始まりは、3年前。知人のFacebookで河合愛さんの絵をみて一目惚れし、イラストをご依頼したのが発端でした。
素敵な絵を、ユーモアと優しさをそえて送ってくださる愛さんの人柄に惚れ、ちょこちょこ絵の依頼をしていたところ…今度は逆に、詩のセレクトを依頼いただきました。愛さんの住む大分県・佐伯で、作曲家の吉岡愛梨さんと合同のライブ・コンサートをする際に、ふたりのインスピレーションの泉となる詩を選んでほしい、と。喜んでセレクトさせていただいたのが、2年前の春のこと。

佐伯のコンサート《I love doing》では、わたしの「席」もご準備いただき、オンラインで参加

そのとき、わたしが臨月で伺えず。いつか、わたしのいる福岡にお二人をお呼びして、コンサートをしたい…!と熱望し、ようやく夢が叶いました。
お二人にご快諾いただき、福岡市文化振興財団から後援も得て、実施の運びとなりました。

会場についても、ちょっとミラクルな流れが。
「ステージとお客様がぱっきり分かれてしまうのはいやだな…」と思っていたところ、愛梨さんから福岡市・箱崎の「もも庵」さんをご提案いただきました。箱崎は私の地元で、オーナーの小山田さんも小・中の大先輩とわかり。会場も、筥崎宮の緑が大きな窓から見え、あったかい雰囲気で理想通り!ご縁を感じる出来事でした。

鎮守の森をのぞむ、もも庵さん(HPより)

朗読は、詩人の魂に近づくということ。そして意外にも役立った「アレ」


というわけで準備を進めながら、気がかりがひとつ。
当然といえば当然なのですが、詩の朗読はわたしがやることに。
詩のソムリエをしていて朗読せざるを得ない場面もあるのですが、朗読には全然自信がないのです。実は。
上手な人にお願いしようかと迷ったけれど、今回、思い切ってチャレンジすることに。
そしてこれが、より深く詩の世界に入る扉になりました。

朗読が上手な友人に練習につきあってもらったところ、いろいろな発見があったのです。
たとえば、八木重吉の「花がふってくると思う」という詩は

花がふってくると思う
花がふってくるとおもう
この てのひらにうけとろうとおもう

3行で終わるとっても短い詩なのですが、「思う」という3音をとっても、

「思う」はどういう「思う」なのか。
2行目、3行目「おもう」と1行目の「思う」はちがうのか。
どんなつよさで、どんな思いがこめられているんだろう…

うーん、短いからこそ、ごまかしがきかない!
何度も声に出してみながら、「うん、そんな感じ!」「あ、今のでしたね!」と徐々に徐々に、詩のコアなのか、詩人の魂なのか…に近づいているような感じがしました。プレッシャーはあったものの、友人のおかげで楽しい、深い時間となりました。

教わって面白かったのが、朗読の準備体操は「なんば歩き」がいいとのこと。

なんば歩きってご存知ですか?右手と右足が一緒に出る、日本古来の歩き方です。それを聞いてびっくり。わたし、空手をやっていたので、なんば歩きは大得意!まさか、詩の朗読に結びつくとは…。なんば歩きをしすぎて、行進やスキップができなくなったあの頃のわたしよ。今の仕事に活きているよ…!(叫

小学校入学時にもらった詩の朗読集『ひばり』の発声練習も役に立ちました。いやぁ、いつなにが役に立つか、わからないものですね。

「リアルはじめまして」愛さん、愛梨さんと会う

さて、愛さんと愛梨さんは、大分にお住まい。わたしは福岡にいるので、打ち合わせはオンラインでしつつ(子を寝かしつけ、布団から這い出て22時から打ち合わせ。毎回眠気との戦いでした…笑)はじめてリアルでお会いできたのが、コンサート前日!

でも、「はじめまして」というよりは、「久しぶり〜」と言っちゃいたくなるような、懐かしい感じで。ショッピングモールのフードコートで台本の最終打ち合わせをしました。(文化祭前夜みたいで、中高大ずーっと体育会系で文化祭をスルーしてきたわたしとしてはドキドキソワソワ)

夜は台本の修正やプログラムの準備をしつつ、しっかり睡眠。
(長崎・五島から義母も駆けつけて息子の相手をしてくれました!感謝)

そしてコンサート当日は9時集合。13時半開場なので、余裕をもって集合するんだなぁ〜とのんびり思っていたのですが…これが大間違いで。搬入、準備、レイアウト、リハ、衣装合わせで「あっ!」という間に時間が過ぎました(コンサート経験豊富な愛梨さんに助けられました)。

3人をつないだのは、peppeさんの春のブローチ。

案外、難しかったのが3人の「衣装あわせ」。
グランド・ピアノにふさわしくエレガントな装いをする「音」の愛梨さん。
汚れてもよく、黒いボードの絵が映える服にしたい「絵」の愛さん。
そして「詩」のわたしはというと、詩のじゃまをしないように質素で。
それぞれの芸術のちがいがあるなかで、3人をゆるやかにつないだのが、作家・peppeさんのブローチでした。

前々から、想像力をかきたてられるpeppeさんのブローチが大好きだったので、今回コンサートをするうえで、ぜひ!とお願いしたところ快諾してくださったpeppeさん。

ひとりひとりちがって、わたしは「やわらかな日差し」というタイトルのブローチ。
photo by peppeさん

当日、ブローチを届けてくださいました。
羊毛や布を染めるところから作られており、よく見ると繊細な色づかいの糸や布がキラキラとあたたかく揺れて…。

photo by peppeさん

そのときのわたしたちのテンションといったら。「かわいいー!」「どこにつけよう?ここがいいかな?あ、こっちもかわいい!」と鏡を見ながらキャッキャ。いろいろ試してみて、愛梨さんは、髪に。愛さんは、左手首に。わたしは、朗読のときに見えるように、首元につけました。なんだか自信もいただいたような気がして、背筋がのびました。

↑peppeさん(左端)と。右にスワイプしてみてください!

ウェルカムミュージックとともに、春のうたが動き出す

13時半。だんだんお客様の姿が。長崎や熊本からもお越しいただき、うれしい再会もあり、本番前にほっこり。愛梨さんは「ウェルカムミュージック」としてピアノを弾いてくださいました。(会場のもも庵さんいわく)本番前にピアノでおもてなしをするアーティストは(16年で)はじめて、とのこと。愛梨さんのホスピタリティに拍手!

14時。いよいよコンサートがはじまりました。天気予報は雨だったのに、晴れて大きな窓から緑がきらきら。
小さいお客さんもいましたが、「咳も話し声も子どもの泣き声も、すべてがこの場を作るものなので、我慢しないでくださいね」と愛梨さん。ほっとしますね。
温かいお客様たち、そして春の日差しに見守られ。詩の世界が広がり、音楽が豊かに動き出し、その音色のなかで素敵な絵ができあがりました。

▼お写真で様子を振り返ります(写真撮影:長末香織さん)

豊かな音色を響かせる作曲家の愛梨さん
春のぬくもりのなか、詩を読む
絵の世界に没頭する愛さん
MCは和やかに〜
最後には、花の絵が出現!
近くで見ても、きれい

どれも素晴らしい演奏と絵でしたが、特に…
山村暮鳥の「わたしはたねをにぎっていた」という詩から、2年前にわたしのお腹の子のためにと作ってくださった曲「わたしはたねをにぎっていた 〜新しい命に〜」は特にうるうる。できあがった絵は、可憐ながら力強い花の絵。生命力を感じます。
実はわたしのお腹に二人目の赤ちゃんがいるのですが、演奏がはじまるとポコポコと動いていました。会場にも、涙ぐむ方がちらほら…。

あのときお腹にいた子が、もうこんなに大きく。

▼休憩をはさんで、参加型のワークショップ!春のオノマトペを考えていただき、一篇の詩に仕立てます。

「ふぬらり ふぬらり」いただきました
自作のオノマトペを説明してくれる参加者さんたち。ふわりと羽ばたく想像力がステキ。
「こんな感じですか?」と愛梨さんの即興演奏。お客様が「もっと気が抜けた感じ!」といえば、とたんに音色も変わる。楽しい!
冬のコートを脱ぐオノマトペからはじまり、お散歩をし、小さな子と手をつないで心があったまり、ぽろぽろと涙がこぼれる…そんな即興の詩ができあがりました。

いただいたご感想

・即興での音色、羽がはえた手の描く絵、めぐさんの優しく自然体の語り…いずれも素敵で、また、三人さんの仲良し感がとても可愛らしかったです。
・それぞれの個性と音、詩、絵がすごくいい感じで調和されてました。
・時間を感じさせないほど内容が面白かったです!参加型いいですね!!
・パフォーマンスが間近で、それぞれ演者の頭の中まで共有しているような気持ちになりました。
・ピアノの音色と詩の内容も含め声のトーンが心地よく、そして少しずつ描かれていく絵の変化に魅了されました。
・詩の朗読とピアノ演奏とライブ・ペイントという3つの異なる分野の芸術がコラボレーションでしかも同時進行で進行されるということに新鮮な驚きを覚えました。すがすがしい印象でした。
・コンサートの最後の参加者から任意に提出されたオノマトペが即興で詩になり作曲されるというのも凄かったです。
・選詩が好きでした。参加者によるオノマトペの詩遊びも面白かったです。
・詩から広がる世界
 豊かで心のどこかをつつかれる
 自分を知る時間でもありました。
 ポロポロ出てくる涙は
 心の奥の何をつついていたのだろう。
 幸せも感動もたくさんでした。(ブローチ提供 peppeさん)

改めて、愛さん、愛梨さんをはじめ、この空間を一緒に作り上げてくださったすべての方に、心から感謝を申し上げます。
またの機会をどうぞお楽しみに。(ほかの季節バージョンもやりたいな〜)

CDと楽譜、あります!

今回、演奏された曲が入ったCDを発売しています。
詩の解説や、愛さんの絵も楽しめるブックレットつき、2000円+送料
ぜひお問い合わせください。
(megwatanabe7@gmail.comまで)

1)花が降ってくると思う(八木重吉)
2)潮音(島崎藤村)
3)豚(八木重吉)
4)陽炎(八木重吉)
5)わたしはたねをにぎっていた(山村暮鳥)
6)La Lumiere(オリジナル)

愛梨さんが書き下ろした楽譜も2000円+送料で販売しています。
愛さんの絵ができあがる過程も楽しめて、ふたりのアーティストさんの頭の中はどうなっているのかしら?!と追体験するおもしろさがあります。
コンサートに参加された方も、参加できなかった方も、ぜひ。

後日談:芸術はなんのためにあるのか

コンサートで販売した上記のCDを、ある方がお勤め先の緩和ケア病棟で流してくださったそうです。そして、患者様がご所望されているので送ってほしいと連絡がありました。余命もわずかと聞いて、急いでお送りしました。

春のエッセンス、詩人の魂の清らかさをつめこんだような、このCD。
緩和ケア病棟で聞いてくださった方たちは、春の盛りを迎えられないかもしれないんだな、と思うと、勝手に目がうるんで、こういうかたちで《春》をお届けできてよかった…と思いました。

愛梨さんからは、こんな反応。

小学生の時、作曲家になりたいと思った原点が、

何か人の心に響くものを。
音楽で人の心に寄り添えることを。
誰かの役に少しでも立つことを。

この3つでした。
私自身、いつもこの信念を持って曲を作っているからこそ、本当に、嬉しい……

小学生のときからそんな志で芸術にむかいあっていた愛梨さん、すごい!

わたし自身は、「詩のソムリエ」として活動をはじめたのは6年前、仕事にしはじめてからは4年がたとうとしています。

愛する「詩」にかかわる仕事をしていることに幸せを感じ、一緒に過ごした方たちが潤いや生きるパワーをチャージできているのを見ると、心の底からうれしい、わたしは自分がすべきことをしている、そして詩にはできることがまだまだある…と志を新たにすることはたびたびあるけれども。

とくにここ最近は、障害など、生きづらさを抱える方たち向けの詩のワークショップにも力をいれているんだけれども。

たとえば医療関係者や、福祉、行政の方など、大変な思いをしながら人のためにお仕事をされている方たちと接するにつけ、《わたしは何ができているんだろう…仕事をこんなふうに「楽しい」と思っていいものかしら…》と、なにか罪悪感に似たようなものを感じることもありました。

でも、やっぱり。芸術にしかできないことがあるのかもしれない。
たとえばこういうふうに、春の美しさを感じてもらうこと。
生きるっていいなぁと感じてもらうこと。

これからも、微力ながら。詩のソムリエとして、みなさまと歩いていきたいと思います。

・・・

あ、3月2日(土)は、PEOPLE ART PERFORMANCE 人とアートを巡る100通りアートプロジェクト at ももちパレスに「詩のソムリエ」として登場します。何が起こるかな…?!

長くなりましたが、読んでいただきありがとうございました!


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