【詩を食べる】この豚だってかわいいよ(八木重吉)/ピッグス・イン・ブランケッツ
詩のソムリエによる、詩を「味わう」ためのレシピエッセイです。今日紹介するのは、かわいい「豚」の詩にあわせたかわいいレシピ、「ピッグス・イン・ブランケッツ(毛布にくるまれた豚ちゃん)」。あたたかい気持ちにくるまれる詩とレシピをお楽しみください。
「豚」の詩を発見
なんというかわいさ!八木重吉の「豚」
大正〜昭和初期の夭折の詩人、八木重吉の詩を読んでいて、こんな詩を見つけた。
ああ、なんてかわいい!
春の陽だまりのなか、トコトコ歩いてくる豚のようすが目に浮かぶようだ。
のどかな田園景色が心に広がって、晴れ晴れとする詩。
重吉は、町田の農家の生まれ。「この 豚だって/かわいいよ」というフレーズは、間近で見てきた人のことばだ。息子・陽二の幼い姿を豚にたとえた詩もあり(なんという いたずらっ児だ/陽二 おまえは 豚のようなやつだ ―「陽二よ」)、豚の生きる姿を重吉はリアルに、かつ微笑ましく見ていたのだろう。
子どものような詩?―重吉のすごさ
彼の詩を読んで、子どもでも書けそう、と思う人も多いかもしれない。かく言うわたしも、重吉のみじかい、淡々とした詩を読んで「これくらいなら書けそう」と思い、そしてあとに猛烈に恥じたことがある。
これは、重吉のような心の持ち主じゃないと書けない詩なのだ。詩人・高村光太郎は、重吉の詩を評してこんなことを言っている。
子どものような詩を、大人が書くのはたいそう難しいことなのだ。淡々としているのに、読んだあと心がきれいになっていくような、シンプルなのに、忘れられないような…そんな詩は、書こうと思ってもなかなか書けない。さらに重吉のすばらしいところは、高村光太郎も言うように「詩がそこらの身辺にみちみちている事」を感じさせてくれるところだと思う。
以前このnoteで紹介したこれらの詩も、詩というものが光の粒のようにふだんの生活の中に漂っていることを教えてくれる。
重吉の目と心で世界が見えたら、といつも考える。
小学生の暗唱に選ばれたのは…
重吉の詩のなかでは、下記の「素朴な琴」が有名。
しんとした、きれいな世界は重吉の真骨頂という感じがする。こういった詩からすると、「豚」は重吉作品のなかでも、すこし珍しいくらい明るい。
ただ、日本を代表する詩人たち※が選んだ、小学生の暗唱向け詩歌アンソロジー『おーい ぽぽんた』(福音館)に掲載されたのは、「素朴な琴」ではなくて「豚」だった。柚木沙弥郎さんの豚の挿絵とともに詩を発見したときは、妙にうれしくなった。
うん、うまく言えないけど、小さいひとたちが「豚」という詩を知っているのはとてもいい気がする。心の栄養になるような詩だ。(彼のしんと一人でいるような詩も、できれば知ってもらいたいけど。)
※選者は茨木のり子・大岡信・川崎洋・岸田衿子・谷川俊太郎。
無限に広がるあたたかさ。かわいいピッグス・イン・ブランケッツのつくりかた
詩「豚」で見た、無邪気なかわいさ。その奥には、「愛されている」安心感や健やかさがあると思う。病気がちで、29歳で妻子を残して病死した重吉にとって、豚や、幼くぷくぷくした子どもたちは、まぶしいくらい健康で光そのものだったのだろうと思う。
むちゅうで歩いてきた豚を詠んだこの詩をイメージしてつくるのは、見た目も名前もかわいいPigs in Blankets(毛布にくるまれた豚ちゃん)。こぶたに見立てたウィンナーを、パンケーキでくるっと包んだもの。
わたしが小学5年生のとき、家庭科で「なんでもいいから自力で作る」という課題が出て、図書館の本で見て作った…という懐かしいレシピ。なのだが、ウィンナーをベーコンで包んだもの(イギリス)や、パン生地やパイ生地で包んで焼き上げたもの(アメリカ、日本でいう「ウィンナーロール」)などいろいろあるらしい。
今回は、遊びつかれてふかふかのあったかいブランケットで幸せに眠るかわいいこぶたをイメージして、パンケーキのバージョンにした。お子さんと一緒につくってもたのしそうなレシピ。
アメリカで1ヶ月過ごしたときも、ホストファザーがよくパンケーキを焼いてくれて、ホストマザーがつんだブルーベリーのジャムで朝食にした。素朴な甘さのホットケーキ(パンケーキ)には、家族の平穏なひとときを連想させる。
重吉の家族はどうか。結核で夭折した重吉に続き、娘・桃子、息子・陽二もおなじ結核で亡くなってしまう。家族のヒストリーはかなり切ないが、家族4人で、暖かくたのしいひとときも、きっとあったはず、と思いながら、フォークを置いた。
作者について
八木重吉(やぎ・じゅうきち)1898−1927 東京(多摩)生まれ。
内気で寂しさをかかえた少年だった重吉は23歳で詩作をはじめる。学生時代に洗礼を受け、クリスチャンであった。妻とみ子とは恋愛結婚で、家族には反対にあい勘当のような形で結婚。2人の子に恵まれるも、29歳で結核で死去。生存中には詩集『秋の瞳』を一冊出したのみでほぼ無名だった。
重吉家族のさらなるヒストリーは、こちらでどうぞ。残されたとみ子夫人の愛と健闘には涙が出る。
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