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罪業の門を叩いてのちに

癒えない痛みばかりがわたしにとってのはじめの証だったと記すにはまだ早すぎる。疼痛を至るところに抱いた体を縮めて紅茶碗を持つ指先もまた、傷つき果てている。治癒には程遠い道のりをどのように歩んできたのだったか、その迂回路にあったはずの歌声ももう忘れ果ててここまでたどり着いたのだった。ひとりきり、衣を擦り切れさせて裸足のままで。途絶えたあなたからの便りをまだ鞄の底に入れて、その宛名が水を満たした壜の向こうで揺らいでにじんでいるのも忘れて、新たな手紙をまたしまっては忘却してゆく。手書き文字の癖だけが雄弁に記憶を物語るなかで耳を塞いで眠り、やがてそれらも堆積したまま朽ちるのを眺めもせず、鞄のうちに住みついた紙魚が食むのに任せて、朧げになって道が途切れてしまう。痛みがふたたびけたたましく鳴りはじめ、その音の連なりを辿ってそびえ立つ塔の門が重々しく開き、門番に誰何されて名前が出てこない。あなたの残した書物を手に立ち尽くし、じっと押し黙る間、初冬の風が吹きすさび、開かれてゆく書物に原初の罪の名が書かれているのを読み上げて、門番はふたたび扉を閉ざす。そこに彫られたレリーフのうちに射手の構えた矢があり、黄昏の光のうちに射抜かれて、わたしはようやく霧散する。

Hommage:The Gates of Hell/Auguste Rodin &first death/TK from 凛として時雨

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