雨伽詩音/嘉村詩穂

ブックライター/校正/詩歌・小説の執筆。嘉村詩穂名義にて、2021年ココア共和国秋吉久…

雨伽詩音/嘉村詩穂

ブックライター/校正/詩歌・小説の執筆。嘉村詩穂名義にて、2021年ココア共和国秋吉久美子賞最終選考候補。第23回NHK全国短歌大会・NHK学園夏の誌上短歌大会入選(2022年)。2023年春、商業誌に短編小説「all the good girls go to hell」掲載。

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プロフィール

アマチュア作家の雨伽詩音です。 都内有名私立大学卒の言語性IQ130。商業書籍専門ブックライター/校正/筆耕してます。 嘉村詩穂名義にて、2021年ココア共和国秋吉久美子賞最終選考候補。 ココア共和国2021年9月・10月・11月号・2022年1月・2月・3月・5月・7月・8月・11月号・2023年5月号佳作掲載。 第23回NHK全国短歌大会・NHK学園夏の誌上短歌大会入選(2022)。 2023年春発売の『「私」物語化計画 創刊第1号』に時代ファンタジー短編小説「all

    • 忘れ去られる朝の景色を

      来訪した嵐にさらされて、吹き荒ぶ風の中に雷のとどろきの声を聞く時、掻き乱されてゆく静謐な部屋は水底へと沈む。かつてこの部屋の奥でまどろんでいたわたくしの足にもひれが生えて、長い髪を結うこともなく波間になびかせて、沈殿した書物を開き、そこに記された叡智と詩の響きとに耳を傾ける。もはや陸は崩れ去って久しく、この間に百年の時を経た。愛猫もまたその永いときを生きる魚(うお)となってわたくしの傍にある。沈黙と月光とを友として。やがて波間を照らす月影があなたの横顔に重なるとき、わたくしは

      • 観梅ノ記 春の声は風に乗って

        菅公に合わせる顔もないままに無学の散歩梅ばかり美(は)し 虫干しの散歩に出(いで)て鄙の里梅はこぼれて社(やしろ)へつづく 枝垂れ梅菅公しのび咲きそろい昔日の影たちのぼりゆく 情念の宿木として髪のばしレースを纏い春の墓地ゆく 百花より先駆けて咲く梅の香が眠れる人の声となりゆく 春の声は風に乗って 築城され、かつて言葉の砦だった廃墟を探しあぐねて、墓地を彷徨っているうちに、曇天からこぼれる雨があり、もはや骸と化した言葉の亡霊が、水中に溶け出して体に染み入ってくる。このどこかに

        • 沈黙のうちに飛ぶ蝶へ

          沈みゆくおまえの身には幾羽もの蝶が群なし葬送として舞う。くたびれ切った体の奥に秘めた言葉をついに発することもないまま、記された日記はすでに火にくべられて、跡形もなく灰となった。その記述とともに失われたおまえの記憶をサルベージする手立ては、唯一残された詩のうちにある。非実在の言語で書かれたそれを一字一字解読するうちに、七十四連に及ぶ詩のなかから母の影が立ち昇り、かつて海の果てへと去った父の背中が陽炎にゆらめく。おまえの認識というものはついぞうつつをとらえず、幻の中にあらわれては

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        • 作品集
          17本
        • お知らせ
          37本

        記事

          花と遺詩

          血痰の出てのちに観る散り桜やがて常世の扉を開く 血痰の出てのち吹雪く花びらに真白い衣濡らしゆきつつ 血痰の出てのち吹雪く花びらを集めて死者を今喚ぼうとし 観桜に高橋睦郎『花行』抱き遺詩は静かに電子に眠る 花筏流れる午后に子らあそび鴨追い立てるこころ真白く 花筏流れる午后に子らあそびひとりからだを日傘にゆだね ネメアに眠るティエラに 春の街象牙の館その奥に眠れるきみに身を重ねつつ 春の暮臥せる日々にも倦みねむる身には歌なき造花群れなす 2024.04.13

          弓の軌跡は春へとつづく

          まだ、遠い汽笛の声が耳の奥に残っている。航海の果てにさまよって、どこにも行きつかないまま別離を経たおまえの姿を見出そうとしても、ぼんやりとかすみがかって、その面影はいくつもの人影に重なって判然としない。そのうちに亡父の静かなまなざしがあったことを受け止めかねて、彼の遺したコントラバスが船室の奥に残されたまま、延々と航路がつづいているという報せを記した新聞記事を切り抜いて、日記帳の奥深くに挟み込んだのだった。主役になりえぬ父と、華々しくコンサートマスターの座についたおまえとの交

          弓の軌跡は春へとつづく

          碧玉の足輪

          痛苦さえも忘却してゆくからだの奥に湧き出るかなしみの泉も枯れ果てて、望むべくもない健やかな魂を求めて墓地を歩く私に、木陰にわだかまる死者の泣き声が迫る。そのうちの一つにおまえの魂があり、零落したのちに手放した本の一節を墓標にとどめているのも、風になぞられて朽ちてゆく。もはや花を手向ける者もなく、時折置かれる煙草のケースも、雨に打ちひしがれてゆがんでしまう。画家だったおまえが、画題として選んだ生贄、それが私に他ならなかった。裸身に纏うレースの影を描きこむおまえを、私は悦楽にほど

          ブックライティングの案件を納品させていただきました

          本日、今月中旬からいただいいたブックライティングの案件を納品させていただきました。 執筆期間中、育ての親である祖母の逝去もあり、どうなることかと思いましたが、先方様よりご配慮を賜り、無事に納品まで漕ぎ着けることができました。 改めましてお礼申し上げます。 今回担当させていただいた本は、昨秋に一部校正も担当していたので、発売後にまた追ってお知らせさせていただければと思います。 本に携わらせていただいていると、本当に多くの人の手を介して一冊の本ができあがっているのだなと感じずに

          ブックライティングの案件を納品させていただきました

          春の祈り

          まだ、足りない。暴虐の嵐が吹き荒ぶ園の頽れた廃墟の奥に眠るものを呼び覚まし、いのちをふたたび目覚めさせるに至るまでには。遠くから私を呼ぶ笛の音があり、その音色の命じるままに筆を空に走らせてゆく。空虚な闇がわだかまる世界に、暁の目覚めを知らせる鳥が舞い降りる。空を唯一ほしいままにする鳥も、やがて安らぎのうちに眠りにつくだろう。その時が来るまで、笛の奏者の指先に祈りが染みこんで、幾重にも重なった嘆きを昇華するものとして笛にあてがわれることをたしかめる。指揮者の指揮棒は振り上げられ

          大鴉の喪章

          痛苦ばかりが呼び起こされるからだの奥に記憶の扉があり、そこから溢れてくるかなしみはとめどもなく流れ出し、奔流となって私に迫る。歌声を押し殺し、言葉を喉の奥に詰まらせたまま、声にならない叫びを上げて大鴉が斃れる。その羽のひとひらを拾いあげ、黒々とした闇のうちに開かれる扉の前に佇んだまま、閉めることもできずに羽根の喪章を握りしめる。どこか遠い、あの海の果てから飛んできたのだろうおまえを葬ることも叶わず、濡れてゆくからだは冷えて、流されてゆく。たどり着く先に花園があることをおまえは

          罪業の門を叩いてのちに

          癒えない痛みばかりがわたしにとってのはじめの証だったと記すにはまだ早すぎる。疼痛を至るところに抱いた体を縮めて紅茶碗を持つ指先もまた、傷つき果てている。治癒には程遠い道のりをどのように歩んできたのだったか、その迂回路にあったはずの歌声ももう忘れ果ててここまでたどり着いたのだった。ひとりきり、衣を擦り切れさせて裸足のままで。途絶えたあなたからの便りをまだ鞄の底に入れて、その宛名が水を満たした壜の向こうで揺らいでにじんでいるのも忘れて、新たな手紙をまたしまっては忘却してゆく。手書

          罪業の門を叩いてのちに

          追憶の葬送

          オンラインサロン「私」物語化計画推薦作品 ブンゲイファイトクラブ51次予選通過作品 記憶の波の打ち寄せる浜辺で、まだ懊悩と憧憬とを抱きしめていたかった。焚き火はもはや燃え尽きようとしている。やがて星もめぐり、今夜、残された時間は限られているなかで、星々の運行の軌跡をなぞって記憶が駆け巡る。いつしか訪ねたおまえの館に、今はもう作られなくなった陶器製の人形が並んでいたのを覚えている。そのうちのひとつを割った罪と、破片で裂かれた指先の傷とがかすかに残っているのをゆらめく炎の影のう

          累計90部突破の図書館エッセイ集『図書館という希望』のお知らせと近況報告

          お知らせ 図書館エッセイ集『図書館という希望』を新たにお読みくださり、ありがとうございます。 Kindle Unlimited会員様は追加料金なしでお楽しみいただけます。 どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。 近況報告 その他近況などを書いておきます。 日記について 旧日記ブログ・ANIRONの代わりとなる日記を非公開で書いていきたいと考えています。 なかなかネット上には書けないことなどもあり、いずれはKDPという形にすることもあるかもしれませんが、現時点で

          累計90部突破の図書館エッセイ集『図書館という希望』のお知らせと近況報告

          『図書館という希望』ランキング59位浮上のお知らせと今後のこと

          お知らせ 新たに図書館エッセイ集『図書館という希望』をお読みくださり、ありがとうございます。 Kindle Unlimited会員さまは追加料金なしでお楽しみいただけます。 ただいまPrime会員限定でKindle Unlimited新規加入3ヶ月無料キャンペーン期間中ですので、この機会にぜひご利用いただければ幸いです。 おかげさまで文学理論カテゴリ内ランキング59位に浮上することができました。 改めましてお礼申し上げます。 Twitterからの移行先と今後のことな

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          山本周五郎「雨あがる」オンライン読書会開催決定・小説執筆開始とKindle本のお知らせ

          山本周五郎「雨あがる」オンライン読書会開催決定私が主宰する文芸同人サークル・かもめでオンライン読書会を行うことが正式に決ました。 テキストは山本周五郎「雨あがる」になります。 既婚のメンバーが多いので、夫婦のあり方を描いたこの作品に、どのような意見が集まるのか楽しみです。 また次点で票を集めた南木佳士『阿弥陀堂だより』も、様子を見て読書会で扱えればと考えております。 これらの作品はかもめのメンバーでもある主人と、小泉堯史監督作品の映画版を観て、小説もぜひ読んでみたいと思い

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          校正を担当した本間悠一朗『ミントの朝、ステファニーの夜』ペーパーバック版発売と、既刊のお知らせ

          校正を担当させていただいた、本間悠一朗さんの『ミントの朝、ステファニーの夜』ペーパーバック版が発売されました。 山川健一先生のオンラインサロン・「私」物語化計画が主宰する物語化計画ブックスの単著としては第一号の作品となります。 個人的に初めて校正を担当させていただいた書籍なので、とても思い入れのある作品です。 この作品に学ばせていただくところも多く、物語を書いてみたいと思う方にもおすすめできる一作となっております。 爽やかでほろ苦い青春小説を、ぜひお手元でお楽しみください。

          校正を担当した本間悠一朗『ミントの朝、ステファニーの夜』ペーパーバック版発売と、既刊のお知らせ