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春の祈り

まだ、足りない。暴虐の嵐が吹き荒ぶ園の頽れた廃墟の奥に眠るものを呼び覚まし、いのちをふたたび目覚めさせるに至るまでには。遠くから私を呼ぶ笛の音があり、その音色の命じるままに筆を空に走らせてゆく。空虚な闇がわだかまる世界に、暁の目覚めを知らせる鳥が舞い降りる。空を唯一ほしいままにする鳥も、やがて安らぎのうちに眠りにつくだろう。その時が来るまで、笛の奏者の指先に祈りが染みこんで、幾重にも重なった嘆きを昇華するものとして笛にあてがわれることをたしかめる。指揮者の指揮棒は振り上げられ、やがて静かに春の訪れを紡ぎ出す。その笛が新たな節に入るとき、私はそっとてのひらに握り込んだ花の種を蒔く。

Hommage BGM:Credens Justitium/梶浦由紀

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