見出し画像

【ショート・ショート】「ぼくは本当にそこにいたんだろうか?」

親戚に不幸があった。長い間疎遠になっていた伯母だった。もう会うこともないと思っていた。でも聞かされれば行かないわけにはいかない。
家に伺って、死に顔を観て、焼香をした。
あとはお決まりの流れ。通夜と葬式。誰もやらないから受付役。べつに気は進まないが無難に親戚としての役割を終え、それで本当の終わり。もう関わりを持つこともない。そう思っていた。
でもそうではなかった。まったくそうではなかった。
ぼくは死の強い匂いをそこに感じずにはいられなかった。

「それはぼくの死なのだ。」「ぼくの死の一部なのだ。」と

従姉妹の子ども(故人の孫だ)がぼくに言った。
「お兄ちゃんだれ?」と。
従姉妹の旦那さんが慌てて言った。
「ママの従兄弟のお兄ちゃんだよ。」
彼は不思議そうな目でぼくを見ていた。
ぼくは言った。「そうだよ。君が生まれたときもぼくはそこにいたんだ。」
彼はいっそう不思議そうな目をした。そして言った。
「(自分の弟)のときも?」
旦那さんが怪訝そうな顔をした。
ぼくは黙って首を振った。そして少しだけ遺影を見た。

ぼくは本当にそこにいたんだろうか?
ぼくは本当にそこにいたんだろうか?


この記事が参加している募集

文学フリマ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?