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『マッサージ』

肩が痛い!
我慢できないレベルまで達していた
幸雄は予約の電話を入れることにした
「はい! では、16:00〜 宜しくお願いします」

1ヶ月に1回ペースで、定期的に通っているが
最近、忙しくてなかなか行けなかった
マッサージ店は、雑居ビルの地下1階にある
地下鉄の駅と直結しているが
長い廊下が続くずっと先にある

いつものように
施術着に着替えて待つことに
店内には心地よいヒーリングサウンドが流れている
幸雄は、いつものように
水槽の亀を見ることに
オーナーの趣味なのか亀を飼っている
ミドリガメが二匹
小岩の上にちょこんと乗っている

「お待たせしました」
セラピストの女性が声を掛けてくれた
「本日担当させていただく、白石と申します」
「まだ新人なので、宜しくお願いします」
幸雄は、新人と聞いて少し不安になった
でも、愛想良く笑顔で
「宜しくお願いします」…と、答えた
「先ずは、背中から施術を行います」

背中を行うときは、うつ伏せになって
穴の空いている枕に、顔を埋めるような感じで行う
いつも、施術初めはこそばゆい感じがする

白石に、話かけられる
「凝ってますねぇ〜」
きたー、常套文句が返ってきた
立て続けに、話しかけられた
「あっ! 話しかけても大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」…と、愛想よく答えた

美容室で話かけられて
話をしないと間が持たないような、そんな雰囲気に似ていた
幸雄は相手が新人なので、冷たくあしらうことは出来なかった

「筋肉質ですね!」 「スポーツは何かやられているのですか?」
またまた、常套文句が飛んできた

「はい!」 「釣りと映画鑑賞を少し…」
…と、冗談まじりに答えてみた

「そうなんですか。 道理で筋肉質だと思いました。」

えっ!
幸雄が想像していたのと、全く違う回答が返ってきた

「それは冗談で、テニスをやってます!」
透かさず、言い直してみた

「そうなんですか!」 「奥様と一緒に、やられているのですか?」
またまた、予想をはるかに上回った回答が返ってきた

「いや! 壁を相手に1人でやっております。」
…と、返してみた

「そうなんですか。楽しそうですよね。」
またまた、予想を遥かに超越した回答が返ってきた

「この施術が終わったら、テニスをやりに行きます。」
…と、会話を続けてみた

「そうなんですか。あまり無理をされない方が良いですね。」
少しだけ、暗いトーンで言われた

えっ!
一瞬、何を言っているのかわからなくなってしまった

「何か? おかしなところがありますでしょうか?」
幸雄は答えを、必死で探そうとした
「何か? どこか悪いところがあるとかでしょうか?」
全く、返答が来なくなってしまった

話しながら一生懸命、マッサージはしてもらっている
少し痛かったり、暖かく感じたり
もう少し同じ場所をしてもらいたかったり
様々な思いを巡らせていた
無言のマッサージは続く 背中から両肩にかけて
太もものマッサージは特に効いた
昨日、スクワットをやりすぎたせいで太ももは筋肉痛だった
最初少し痛くて、徐々に気持ち良くなってくる
あまりにも長い沈黙が続いたので
幸雄の意識が徐々に遠のいていった 
徐々に徐々に…


時間の経過を忘れていた頃、ふと我に返る


「あっ!」
「どこだ! ここは!」

何もない真っ白な世界
ミドリガメもいない
何も聞こえてこない
真っ白い何もない世界

遠くから、少しだけ光がさしてきた
その光に誘われながら歩いていくと
白石が突っ立っていた
薄ら笑いを浮かべながら

「あなたは、もう死んでいるのよ!」
…と、一言呟くと去っていった

幸雄は何が起きたのか全く理解できない
これが現実なのか、夢なのかさえわからない
ただ、太もものマッサージのあとの記憶が残っていない
あのあと、何をされたのか…

「はい!」
「今度は、仰向けになってください!」
…と、言われるまでは全くわからなかった
白石の心地よい言葉で目が覚めた 
まるで催眠術から目覚めたように

「なんだったんだ」 「何が起きてたんだ」
「新人さんだから、まぁいいか」
…と、ぶつぶつと独り言を呟きながら

幸雄は会員カードと現金で、精算して店を出た

「また来てください!」
新人の白石に、お見送りをされた

「今度は、私を指名してください!」
幸雄はニコっと笑いながら手を振った

「はい!」

気持ちの良い返事が、雑居ビルの廊下に響き渡った

※フィクションです。(一部、ノンフィクション)

「最後まで読んでいただき、ありがとうございました」

「テクスチャーバックに、好きな方言を入れました」

「sennninnkameさんからのリクエストもあり、
        ペペロンチーノの続編?的な感じで書きました」



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7000回もスキしたんだ!!
楽しませてもらっている皆さんがいらっしゃるから、
皆さんのおかげです。 ありがとうございます。

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