「夢見がちなもの」
今日も、銀ぶらをしている翔太。
1ヶ月前までは、正社員でサラリーマンをしていたが、
急なリストラにあって、今は無職だ。
映画を観る訳でもなく、何時ものように街中をうろうろと歩き回っていた。
翔太は、中度のギャンブル依存症だった。
パチンコ屋さんの前まできて、
ふと今日が、◯◯◯ジャンボ宝くじの最終販売日だと知って、
西銀座チャンスセンターまで向かうことにした。
過去の宝くじの当選は、3,000円が最高金額だった。
今回も、1万円でも当たればいいと言う感覚で、列に並んで買った。
「あー!やってしまった」
財布には31,000円入っていたが、30,000円分宝くじを買ってしまった。
パチンコするお金がなくなったので、その日は帰ることにした。
翔太には、夢があった。
一つ屋根の下、一緒に暮らしたい大切な相手がいた。
とにかく、早くお金を貯めたかった。
家に帰ってもやることがなく、ひたすらゲームをやり続けていた。
約2週間後に、抽選会が行われた。
颯太は相変わらず、モバイルゲームをやっていた。
対戦相手とチャットをしている時、今日が抽選日だと知らされた。
颯太はゲームを途中で中断して、抽選結果を見ることにした。
最後の1束の封を開けて、ちょうど5枚目に差し掛かった時、
目が点になった。
なんと、1億円が当選したのだった。
正に、奇跡が起きた瞬間だった。
早速、お付き合いをしている典子に電話をして呼び寄せた。
「えっ!本当なの」「もう一度見せてくれる」「信じられない」
「本当だよ!」「ほらみて」
そんなやりとりが、二人の間で行われていた。
浮き足だった感覚の二人だったが、
外出することなく、そのまま家で静かに過ごすことにした。
翌日の朝、翔太の携帯が鳴った。
10年来の友人の正和から、久しぶりに電話が掛かってきた。
「おはよう、久しぶり、元気?」
「なんとか、元気だよ」
「実は、I T会社を立ち上げたくて共同経営者になって欲しい」
「急に言われても、詳しく教えて欲しい」
…とだけ伝えて、その日は電話を切った。
同日の夕方、また電話が鳴って、
「今から会えるかな」「家に行って、詳しい話がしたい」
颯太は、特にやることがなかったので、二つ返事で了承した。
I T事業の詳しい話を明け方まで聞いた。
既に資金は調達済みで、
I Tリテラシーの高い翔太が、どうしても必要とのことだった。
無職だった颯太は、特にやることもなかったので、
やってみることにした。
典子も反対はしなかった。
順調に事業は成長していき、10年後には社員数が500人を超えていた。
颯太はふと立ち止まり、そういえばあの宝くじの当選金は、
どうしたのかが気になった。
そう、銀行の貸金庫室に入れっぱなしだった。
約30年後、翔太が80歳を超えていた。
典子との間にも二人子供が産まれて、二人とも成人していた。
翔太は、宝くじの当選金額を使わなくても、
経済的に豊かな暮らしをすることが出来ていた。
忘れ去られるかのように、貸金庫室に眠っている1億円。
今日も、会社まで向かうリムジンが、玄関まで来ている。
「正和、あの時の電話くれて、本当にありがとう」
「典子、今まで、支えてくれてありがとう」
あの時の二人に、とても感謝していた。
中度のギャンブル依存症は、完全に治っていた。
翔太は、事業をしている間は一度もギャンブルをしたことが
なかった。
忘れ去られた1億円は、今も銀行の貸金庫室に眠っている。
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