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葬儀とお墓~家族間の宗教的な違いに配慮して

はじめに

私はキリスト教会で牧師をしており、
普段から、葬儀社と協力しながら亡くなった方の葬儀を執り行っています。

そのような立場で、以下のような相談を受けることがよくあります。

「私たち家族はそれぞれ違う宗教を信じています。
 このままでは何かあったとき、
 葬儀やお墓の問題が起きてしまうのではないかと心配です。」

「私はキリスト教を信仰しているのですが、
 家族は仏教徒なので、私自身の葬儀がどうなるのか不安です。」

「家族と信仰が異なるのですが、
 お墓は同じところに入りたいと思っています。
 そんなことが可能でしょうか?」

本記事をお読みいただいている皆さんの中も、
同じような悩みを抱えているかたがおられるかもしれません。

宗教を熱心に信じていない人であっても
葬儀やお墓が重要なことがらであることもあります。
そしてそれによって生じる問題というのは
大概、実際に事が起きたときに表に現れてくるものです。

今回は、そんな葬儀とお墓のことについて考えてみようと思います。

葬儀の目的

そもそも葬儀とは何でしょうか?
なぜ我々はそれを行うのでしょうか?
誰のために行うのでしょうか?
そこには大きく分けて二つの理由があると思います。

1つは、亡くなった方の「生きた証し」を確認することです。
「亡くなった方のための葬儀」ということができるかもしれません。
人によっては、「私の葬儀はこんな風にしてほしい」という希望を
生前、ご家族に遺しておく人もいるでしょう。
葬儀において、その人が生きてきた形、
信じてきた価値を尊重し、反映すること

その人の「生きた証し」を確認するという意味で、
大切なことではないでしょうか。

もう1つは、遺族の「喪失」に対する慰め、
また、新しい日常への一歩というような意味合いです。
こちらは「遺された人たちのための葬儀」といえるかもしれません。
大切な家族(や友人)を失った人々にとって、
葬儀はその人の目に見える体との最後のお別れの時間です。
悲嘆(グリーフ)という観点からも、そのような時間を大切にもつことは
心のケアのためにも非常に重要なことです。
その意味では、遺された人たちにとって悔いが残らない形で
葬儀を行うという視点
も、とても大切なことだと思います。

葬儀において生じる葛藤

しかし、これら二つの重要な側面を
全て満たす葬儀を行うことは容易ではありません。
なぜなら、遺族全員が同じ価値観、
特に宗教観を共有していないことがよくあるからです。

宗教は人を助け、安心をもたらすべきものですが、
残念ながら、対立や葛藤はしばしば宗教の問題から生じます。

葬儀を仏式でやるのか、キリスト教式でやるのか。
実際に決まった葬儀の形式のなかで、
参列者としてどのような所作を行うのか、行わないのか。
それは、個々人の信仰や、慣れ親しんだ文化に大きく左右されます。

そのようなことを考えることによって、
大切な葬儀という時間の本来の意味や目的が
見失われてしまうこともあるでしょう。

大切なのは、葬儀において
なんらかの宗教的儀礼や文化、所作などが行われることではなく、
そこにおいて亡くなった方が大切に尊重され、
また遺された人たちが、大切にお別れをし、
心に慰めを受けることではないでしょうか。

宗教や文化は、それらを助けるものではあっても、
邪魔するものでは決してあってはならない
と思います。

具体的な問題と解決策

実際に、どのような問題が存在し、
それらにはどのような解決策があるのでしょうか?

◆ 葬儀における宗教儀式

葬儀における宗教儀式は、亡くなった人の信仰を尊重する一方で、
遺族全員がその宗教・信仰を共有していない場合、
対立を引き起こす可能性があります。

具体的には、仏式の葬儀における焼香
(キリスト教徒によってはそれを拒む人もいます。
 決して聖書やすべての教会において禁じられているわけではありません)
キリスト教式の葬儀における賛美歌お祈りが問題となるかもしれません。
(これらも決して参列者に強制されているものではありませんが、
 中には信仰を異にすることを理由に、それらを拒む方もおられるでしょう)

そのようなことを避けるために、
家族の誰かが葛藤を覚えるような宗教的要素については、
 ① 少なくとも丁寧な説明をすること
 ② 可能であれば自由参加とすること
 ③ 式に取り入れること自体を検討すること
などが必要かもしれません。
宗教者によっては、家族の意向を尊重して
柔軟に対応することが可能な場合もあります。

また、最近は宗教者を呼ばない葬儀というものも存在し、
そのようなサービスを提供する葬儀社もあります。

亡くなった方の信仰や意思を尊重しつつ、
遺された人たちができる限り納得できる形で

お別れの時間をもつことができればと思います。

◆ 通夜式・告別式・式の持ち方

これらは葬儀の主要な儀式であり、
多くの場合、形が決まっているように思われるかもしれません。
亡くなった方が生前お世話になった人たちを招いて、
家族として感謝を伝える場をもたなければならない、
そのようなことを負担に思うこともあるでしょう。

しかし実際には、これらの式をどのような形で行うかは
式について考え、決定する家族の自由
です。
亡くなった方の意向もあるかもしれませんが、無理のない形で
家族・遺された人たちが安心できる形を考えてよいと思います。

ちなみに最近は、通夜式・告別式を
まとめて1回にする場合も多くなりました。

また、それらの主要な葬儀式は、身近な家族だけで済ませ、
後日知人・友人のためのお別れ会など機会をもつという形も
みられます。

いつ、誰と、どのように行うのかについて
慣例にとらわれずに考えてみましょう。
葬儀社や宗教者も相談に応じます。

◆ お墓・埋葬について

お墓・埋葬についても、亡くなった方の信仰や
いわゆる家の宗教・家のお墓というものに
縛られることがあります。

たとえば、
亡くなった方自身はキリスト教の信者で、
本人の希望としては教会のお墓(共同墓や納骨堂)に
埋葬・納骨されたいと希望していたものの、
家族としては家の宗教・家のお墓に埋葬したい
というようなことがよくあります。

そんなときには、「分骨」という方法があります。
一般的には、亡くなった人は一つのお墓に安置されます。
しかし、家族間で異なる宗教的観念がある場合、
複数のお墓に遺骨を分けて納骨する
「分骨」という方法は有効かもしれません。
しかしそこでも、亡くなられた方のご遺骨を
ふたつの場所に分けるのはちょっと……という
感覚もあるかもしれません。
これに関しても、亡くなられた方の意向と
遺された人たちの心情とをよく考えながら
納得できる形を選択することができればと思います。

宗教にとらわれない、無宗派の墓地や納骨堂もありますし、
きれいな公園に埋葬する「樹木葬」や、
海などの自然に遺骨を散布する「散骨」
遺骨を石やアクセサリーに加工するサービスなどもあります。
いずれにしても、遺骨は法律に則って扱う必要があるため、
葬儀社や宗教者などの専門家に相談するのがよいでしょう。

事前に考えておく大切さ

生きている間に、自分の葬儀やお墓について
考えることはあまり一般的ではありません。
しかし、それがある日突然必要になったとき、
慌てて決めることになると、適切な選択をするのが難しくなります。
そのため、できるだけ事前に考えておくことが大切です。

とはいえ、あなたがもし家族や友人に
「葬儀について考えているんだけれど」と言ったとして
おそらく「そんな縁起でもないことを言わないでくれ」と
言われてしまって、話ができないかもしれません。

そんな場合は、以下に挙げることを参考にしてみてください。

◆ まずは自分で葬儀などのイメージを言葉にしておく

自分が亡くなったとき、どのような葬儀を行いたいのか、
どのようなお墓に埋葬されたいのか、まずは自分で考えてみましょう。
もちろん、それらを行うのは遺される家族ですから、
最終的には、家族が安心してそれを行うことができるように
家族への配慮も考えることができればよいでしょう。
しかし、直接相談をすることが難しい場合、
最低でも、あなた自身の言葉として遺しておくことが大切です。

遺した文章は、家族が分かる場所に保管しておくこととあわせて、
家族やあなた自身が日頃お世話になっている葬儀社や宗教者にも
写しを渡しておくとよい
でしょう。(守秘義務を守りつつ大切に保管します)それは、あなたにもしものことがあった際に
家族への指針となり、様々な混乱を避けることができます。

◆ 葬儀に関する情報を集める

葬儀・お墓に関するサービスのホームページ、
パンフレット、書籍等で情報を集めます。
葬儀社や宗教者が行う葬儀やお墓
いわゆる「終活」に関する相談やセミナーを利用すること
もおすすめです。
それらの情報を得ることで、自分がどのような希望や選択肢を
持っているのかを整理することができます。
最近では郵便局でも、就活に関する相談や葬儀社の紹介などをしています。

また、それらに参加するというアクションを通して、
あなたがそのことを積極的に考えているということが
家族などの身近な人たちにも伝わるかもしれません。
場合によっては、相談やセミナーに誘って一緒に行くことができ、
そこからこの話題について話すことが始まるかもしれません。

◆ 家族と直接相談をする

自分の希望を家族に伝え、また家族の意見についても聞くことが重要です。
そうすることで、葬儀やお墓についての
家族全員の共通認識を確認することができるでしょう。
話題を振り出すこと自体が難しく感じる場合、
是非「家族のため」という観点から話を始めてみてください。

それでも難しい場合は、先に述べたような
葬儀やお墓いわゆる「終活」に関する相談やセミナーを
利用することがおすすめです。
家族にどのように話すかについても相談することができますので、
あなただけで参加することから始めたり、
可能であれば家族に同行してもらうのもよいでしょう。

以上、3つのことをご紹介しました。
身近な人たちと一緒に、葬儀やお墓について考え始めるきっかけとして、
是非できることから試してみていただければと思います。

あらかじめ自分の葬儀やお墓についての希望を
準備しておくことができれば、
あなたもあなたの身近にいる方たちも
いざというときにパニックにならずに済みます。
また、今回の記事の中心的なテーマである
家族間での混乱や対立を避けることにも繋がるでしょう。

おわりに

葬儀やお墓のことは、時に家族間の葛藤を引き起こすことがあります。
しかし、そのような葛藤を避け、
できるだけ多くの人が納得できるような方法を探し出すことが大切です。

葬儀社や宗教者は、皆さんのご希望を真摯にお聞きしながら、
そのサポートを全力で行いたいと思っています。
わからないこと、不安なことなど、
どんな小さなことでも気軽にご相談ください。

教会での葬儀のご相談もお受けしています。
信者でない方でも、まずはお気軽にご相談ください。(相談は無料です)


本記事の著者である牧師の教会はこちら

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オンラインでもご参加いただける礼拝を
毎週行っています。


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