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都市空間に溢れるバグを見つけて楽しむ

コンピュータやゲームなどのプログラムで、開発者が意図しない挙動や不具合が生じたときに発生する「バグ」。

ゲームで意図的にバグを利用して楽しんでいた方も多いのではないでしょうか?


私は初代ポケモン世代ですが、バグを利用して普通では出現しないポケモンを出現させて捕まえたり、普通は1個しか手に入らないマスターボールを大量発生させたりして楽しんでいたことを思い出します。





現実の都市空間に潜むバグ


普段私たちが過ごしているまちは、国や市町村が中心となり、合理的に、安全に、快適に生活できるよう設計されています。

私は建築に関わる仕事をしていますが、建築基準法という法律の中で建物を設計・施工しなければならず、その枠組みの中から逸脱することは絶対に許されません。最悪の場合、法律違反で捕まってしまいます。
さらに、各自治体で定められた様々な条例(景観や緑化計画等)もクリアしなければなりません。

もちろん建築だけではなく、ともに都市空間を形成している土木やインフラなども同様です。

このように、日本の都市空間は完璧にプログラミングされているように見えますが、コンピュータやゲームと同じように、実は様々なところで「バグ」を見つけることができます。

都市空間に潜む「バグ」とは一体どういうものなのでしょうか?ここでは、都市を形成する計画者が意図していない事象のことを「バグ」と定義します。
それでは具体的に紹介していきます。

Ex01. トマソン

私が一番最初に投稿した記事でも紹介している「トマソン」です。
これが最もわかりやすい「バグ」ではないかと思います。

↑の記事でも書いていますが、トマソンとは、
「不動産に付着して、美しく保存されている無用の長物となった部分」
を指す言葉です。

1972年に、芸術家の赤瀬川原平ら3人が東京の四谷を歩いているときに、昇降する以外に機能を持たない「四谷の純粋階段」を発見したことがトマソンの始まりです。
普通はある目的の場所に繋ぐために階段は設けられるはずですが、その役目は果たしておらず、ただ昇って降りるだけの純粋な階段だけがそこには存在しているのです。

赤瀬川氏は、このように本来の目的を失って無用の長物となり、芸術作品のように佇む遺構を「超芸術トマソン」と名付けました。

このように、もともと目的があって設置されたであろうものが機能を果たさなくなり、「バグ」が起きている場所は結構色んなところで見つけることができます。


確信犯のトマソン

この写真はとあるマンションの階段です。

左上の階段は下の階段と接続され、目的の場所へと導く役目を果たしているのが分かります。

一方、右上の階段を見てください。左の階段と擬態してあたかも階段感を出していますが、どこにも繋がっておらず、何の役目を果たしていません。

それでいてこの堂々とした佇まい。

私はこれを「確信犯のトマソン」と呼んでいます。
構成も美しく、私のお気に入りトマソンのひとつです。



反カステラ型のトマソン

この凹んだ壁の右上にコンセントが残っていることから、以前自動販売機が置かれていたのだろうと推測できます。

普通に自動販売機を置こうとすると敷地からはみ出してしまうため、建物の壁を犠牲にして生まれた空間だと考えられます。自動販売機が撤去された今、ただ凹んでいるだけの謎空間として堂々と佇んでいます。

この凹み壁のことをトマソン界隈では「反カステラ型」と呼ばれています。
これも構成が美しく、お気に入りトマソンです。


繁華街の中心で堂々と佇む無用ドア

こちらは浅草の繁華街で見つけた無用ドアです。

この堂々とした佇まいと存在感には思わず笑ってしまいました。めちゃくちゃシュールじゃないですか?

外側からはもちろん入ることは出来ないし、内側からドアを開けたら大衆の注目の的です。一歩踏み出したら落っこちて死んじゃいます。

調べてみると、もともとはこの壁面に広告用の大きな看板があったらしく、おそらくその看板裏のメンテナンスをするための点検扉として使われていたのではないかと推測できます。

この「無用ドア」タイプは出現率が高めなので、色んなところで見つけることができます。



トマソンには他にも多種多様なタイプがあって紹介しきれないのですが、書籍も出ていますし、インターネットやSNSでも多くのトマソンマニアの人たちが紹介しているので興味のある方は調べてみてください。



Ex02. 段差解消スロープ

「段差解消スロープ」と聞いて、何のことか思い浮かぶ方はいますか?
外を歩けば、道端の至るところで散見されるアレです。日常に溶け込みすぎて、意識して見たことがある人は少ないかもしれません。


路上のちょっとした段差を埋め、なだらかなスロープ状にすることを目的に設置されるコレです。

路上では道路脇の側溝や歩道で見かけることが多いですが、そこは公道であり、本来私物を置いてはいけない場所なのです。
道路法に抵触してしまう可能性もあります。

道路管理者からしてみれば「バグ」ですが、この段差解消スロープがないと自動車や自転車、車椅子などが通行しづらくなり、生活に支障をきたしてしまいます。

そういった意味でもグレーなところがあり、暗黙の了解で許されているのかもしれません。


多種多様な段差解消スロープ

各駐車スペースの持ち主によって設置されたであろう段差解消スロープ群。こうしてみると結構バラエティに富んでいて、その人の個性も現れるので面白いです。

「切り下げ工事」という路肩を低くする工事を、道路管理者に申請することで行うこともできるのですが、基本的に1つの敷地に対して1つの切り下げしかできず、切り下げることができる長さにも制限があります。

なので、切り下げ工事を行ってもそれ以外の部分は段差を受け入れるしかなく、こうやって段差解消スロープを設置することで工夫して乗り降りしているのです。


一点モノの縞鋼板スロープ

縞鋼板(しまこうはん)と呼ばれる鉄板で段差を解消しているタイプも多いです。

この場合、上記でも述べた切り下げの端部に設置され、傾斜部分を器用に細工して接続しています。それによって、奥に見える駐車スペースに駐車しやすくしています。

このように、現地の状況に応じて一点モノの段差解消スロープを創作して設置している事例も見かけることができます。


ミニマムサイズの段差解消スロープ

このようにほんのわずかな段差部分にも段差解消スロープを設置している例も多く見られます。

段差がいかにわずらわしい存在で、段差解消スロープが必要とされているかがよく分かります。



Ex01でご紹介したトマソンと同じで、段差解消スロープにも多種多様なタイプがあり、色んな使われ方がされていることにも気がつきます。

外を歩くとそこかしこで見つけることができるはずなので、皆さんも意識して観察してみてはいかがでしょうか?


Ex03. 路上園芸

もう大体想像はつくかもしれませんが、そうです。
そこかしこの道端で堂々と植木鉢が並べられていたりしますが、もはや見慣れたものだと思います。

そうした道端にはみ出している園芸のことを「路上園芸」とかって呼んだりするらしいです。

しかし、これも公共空間を計画している者からすれば「バグ」なのです。

段差解消スロープと同じで、公共の場に私物を置くことは本来禁止されているからです。

自分の家の敷地内であったら何を植えて育てようが問題ないですが、自宅前の路地や歩道の隅っこなどの公共空間に堂々とはみ出し、園芸大会が開催されている場面によく出くわします。


道端に整然と並べられた植木鉢
歩道に固まって置かれている多種多様な植木鉢
路地にはみ出して置かれた植木鉢

どれも周りの風景と馴染んでおり、美しく、もはや「バグ」という一言でまとめるのはタブーな気がしてきました。

路上園芸は、手入れされているものから、放置されて公共の植え込みに一体化してしまっているものまで色々ありますが、目の前を歩く人を楽しませようという気概が伝わってきます。

いくら公共空間を整備したとしても、人間の大いなる園芸欲と植物の強靭な生命力が持続する限り、「バグ」を取り除くことは難しいでしょう。


路上園芸観察、結構楽しいのでおすすめです!


街中のバグを見つけて楽しむ


ちょっと意識をして外を歩いてみると、そこに見える景色は、自治体によって計算されたものだけではないことに気がつくと思います。

綺麗に整備された状態から逸脱した光景は、これまで紹介した例以外にも色んなところで見つけることができます。

都市空間のはみ出しものたちを「バグ」という言葉を使って表現してきましたが、実際それらが排除される(=デバッグされる)ことは少なく、結局のところ、国民ほとんどの人がそもそも気にも留めていないことが分かります。


だからこそ、この目立たないアナーキストたちを見つけ、小さな「バグ」を楽しむのも一つの豊かさなんじゃないかと思います。

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