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カケルプレイノット|株式会社STYLY 井倉北斗氏インタビュー

XR/メタバースの業界人へのインタビューを通して、業界のリアルな声と熱量をお届けする「カケルプレイノット」

今回は、株式会社STYLYの井倉北斗氏に、株式会社playknot代表の山口恭兵がインタビューを行いました。

ー この記事は約10分で読めます ー


メタバースプラットフォーム「STYLY」とは

山口:
本日インタビュアーを務めさせていただく、株式会社playknotの山口です。ゲストは、株式会社STYLYの井倉さんです。

最近Psychic VR LabからSTYLYに会社名を変更されたんですよね。STYLYさんとはお仕事で具体的な案件もご一緒させていただいたりはしますが、今日はざっくばらんに、STYLYのことも伺いつつ井倉さんご自身のこともお話を伺えたらと思っております。

井倉:
よろしくお願いします。

山口:
まず初めに、STYLYについてお伺いできればと思います。XR業界では結構ご存知の方も多い会社だと思いますが、改めてサービスの特徴やどういう世界観を目指しているのかなどを井倉さんからお伺いできればなと思っております。

井倉:
はい、ありがとうございます。まず「STYLY」についてですが、STYLYはデジタルとフィジカルを繋ぐ「Spatial Computing = 空間を身にまとう」時代における空間レイヤープラットフォームです。現実の都市空間や施設と連動したパブリックレイヤーと、体験者の周辺に重なるパーソナルレイヤーを対象に、デジタルコンテンツの制作・配信が可能です。 

STYLYは世界中に10万人を越えるクリエイターコミュニティを保持しており、20万を超えるデジタルコンテンツが配信されています。世界中のクリエイターが投稿したアート、音楽、ファッション、映像など様々なデジタルコンテンツを、1人でも、友人に共有して複数人でも楽しむ事ができます。

僕のチームでは、STYLYを活用して、toB向けにソリューションの提案や企画・コンテンツを実際に作ったりっていうのをやっています。

山口:
ということは、元々の目指している方向性としてはクリエイターエコノミーの文脈でXRのプラットフォームになる、というような感じでしょうか?

井倉:
そうですね。今もXRのクリエイターを育成する事業もやっているんですけど、実は一番最初のSTYLYは「VR×ファッション」っていうところから始まっているんです。

会社設立が2016年で、STYLYモバイルができたのが2019年なので、その3年間はHMDだけのサービス展開でした。STYLYモバイルをリリースしてからも新しい技術を取り入れて、今では「空間レイヤープラットフォーム」という形に再解釈して、さまざまな空間をメディアとして活用するような事業を行っています。なので、必然的に自治体や不動産ディベロッパーなどのランドオーナーの方々とお仕事することが多いですね。

ARだからこそ生み出せる価値

山口:
井倉さんが関わった案件や会社でされた案件で、すごく印象的だったり、思い出深かったりする案件はありますか?

井倉:
「AIR RACE X」の案件がものすごく印象に残っています。

山口:
「AIR RACE X」についてもう少し具体的にお聞きできればと思いますが、空中にコースがあってスピードを競うエアレースをARでされたっていうものでしたよね。

井倉:
そうです。AIR RACE X は、実際のフライトと最新のデジタル技術を融合させた新たなレースフォーマットにより、これまでにない革新的な競技形式と観戦スタイルを確立させた次世代モータースポーツです。もともと「AIR RACE」自体がコロナの影響で実施が難しいのではないかとされていた時に、AR上でなら実現できるんじゃないかという話があがり、それがきっかけでスタートしたプロジェクトです。

ユーザーは、エアレースそのものを渋谷の上空で観戦するという体験になってます。リアルタイムでデータが反映されている訳ではないんですけど、日本や、ヨーロッパ、アメリカなど海外の各地で飛んだデータをAR上で観戦できる形に再現して、見ることができるようになってます。

井倉:
実際に話が上がってきたときは、そもそもそれって実現できるのかどうかという懸念もありましたが、実際にやってみると技術的なものすごく高いハードルを越えて実施しているところと、思った以上にYouTube配信の視聴者数・同時視聴者数も結構多かったり、実際の渋谷パルコの現場にも多くの人が集り、かなり反響があったことで、大きな可能性を感じました。

ただ、一方で技術的な課題というか、ユーザー体験というものがAR/VRの中でまだ正解と言われるものがなく、それをまだ探っている状態ではあるんですけど、ある意味全く新しいモータースポーツの形の一発目という意味では、かなり大成功だったんじゃないかなっていうことで印象に残ってますね。

実際のエアレースは一機ずつタイムを計測します。もちろんですが、2機同時に飛ぶのは危険なので、リアルタイムで2機同時に飛ぶのはできなくて。でもAR上でそれを実現して、目の当たりにしたときは結構テンション上がりました。しかも日本の選手が優勝までしちゃうという。

山口:
ARならではの価値というか、リアルの「AIR RACE」をARだからこそ超えられた体験ということですね。非常に面白いですね。

井倉:
はい。リアルタイムでYouTube配信見てたんですけど、そういうふうになるっていうのをあえて知らずに見ていて、2機重なって飛んだときにやっぱりテンション上がったというか、これはARでしか実現できないものなので見てる側としては結構面白かったし、X上でもそういったコメントがあったので、やっぱりARでしかできない表現、体験に価値があるんだなっていうのをすごく感じましたね。

山口:
他方で、現実問題として、XRってデバイスや通信環境の発展途上の部分で、フォトリアルなところを目指そうとすると限界が現状ありますよね。ただ「AIR RACE」っていうコンテンツに関しては、フォトリアルの方がユーザーとしてはポジティブになりそうだなって勝手に想像しちゃうんですが、ユーザーの反応はどうでしたか。

井倉:
そこで言うと、厳しい意見も当然ありました。実機が飛ぶ音や観客が一気に沸いたりなどのような一体感は、どうしてもリアルにはまだまだ勝てないところではあるので、リアルの方に寄せるというよりかは、ARの方向でさらに面白い体験って何だっけ?を探す方が正解に近づけるような気はしてますね。

山口:
それで言うと、飛行機もフォトリアルな飛行機を目指すんじゃなくて、マリオカートじゃないですけど、デフォルメされたアニメ調やゲーム調の飛行機が飛んでたりする方が、もしかしたら良いんでしょうか?

井倉:
そこは分からないですけど、やっぱり「AIR RACE」は実機を見に来ている側面は非常に強いと思うので、またAR上で行うとしたら、実機はリアルに表現しつつ、その他の演出や会場デザインをARならではの表現にするなどが、合っているんじゃないかなっていう気はしますね。

逆に言うと「AIR RACE」にはもう1個側面があって、リアルの「AIR RACE」をAR化したっていうのもありますが、XR上でスポーツを観戦するっていう新しいスポーツ観戦の形としても結構日本のメディアに取り上げて頂いていて、全く新しいスポーツそのものができるっていうのもあり得るんじゃないかなと思います。例えばサッカーの派生などではなくて、XR上だけで実現できるようなスポーツの形ってのも、もしかしたらあるな、と感じました。

山口:
なるほど。現状はスマホを使ったARが一般ユーザーからすると一番体験しやすいのかなと思うんですけれども、弊社のメンバーで話してたときに、スマホって加速度センサーっていう傾きを検知するセンサーが入ってるじゃないですか。それを生かして面白い体験を作るってなって、最終的に行き着いた結論が、スマホを持ってお互い叩きあって揺れたら負けというすごくアナログな意見が出たんですよ。確かにそれめっちゃ面白そうみたいな。

そこで、デジタルな世界観で全てを追求するっていうよりも、それがあるからリアルの部分がちょっとプラスされるぐらいの方が、現実的に体験として面白いものを作れる可能性は高いのかなと思ったんですよ。

井倉:
そうですね。色々な案件やってて思うのが、最初にメタバースがバズワードになって広がった時は、リアルのものをXR化するというか、リアルが一番体験的に面白いからそれに寄せるような形のお話がすごく多かったんですけど、実際やってみると、拡張現実って言われるぐらいなのでリアルの体験をどう拡張するかっていう方向で考えるっていうのがかなり大事だと個人的には考えています。

山口:
そうですよね。リアルとは切り分けた路線で魅力を探すというか。

井倉:
あともう一つ、さっき言ってたスマホを持ってリアルで叩いて動いたら負けのような、XRの中だけの体験じゃなくて、ユーザーのスマートフォンを手に持ってるという状態を考えたときの、リアルの方の体験設計もしっかり考えないと面白いものにはならないな、と最近すごく感じます。

いつも新しい技術が世の中を大きく変える

山口:
ちなみに、井倉さんがこの業界に入ったきっかけは何ですか?

井倉:
最初は、全然違う普通のサラリーマンから動画のインフルエンサーのようなことをやって、バイラルメディアの動画事業部やったりしたんですけど、直属の上司から一緒にARの会社を作らないかって誘われてジョインしたのがきっかけです。

そのときに、バイラルメディアやSNSなどテクノロジーに触れたときに、世の中を大きく変えるものって基本的にやっぱり新しい技術だなっていうのは何となく感じていて、そっちに行きたいなっていうのはずっとありました。それで、転職するとなると当時新しいって言われてたのがAR、VR、AI、ブロックチェーンの4つだったんですね。そのうちのどれかがいいなと思いつつ、本読んだり勉強したりしていて、たまたまARの会社をやらないかという話が来たので、それが最初に入ったきっかけです。なので、そのときにブロックチェーンの人たちに誘われたらそっちに行ってたかもしれないし、何か新しいテクノロジーに触れておきたいなっていうのでARに足を踏み入れた感じですね。

山口:
いわゆるディープテックのその当時流行ってたやつのどれかに行きたいっていう意識があったってことなんですね。

STYLYが描くビジョン

山口:
この業界に入って7、8年くらい経って、今はどちらかというと営業や企画などビジネスサイドで関わっていらっしゃると思うんですけど、この業界って7、8年前と今で変わりましたか?

井倉:
結構変わったと思います。昔は飛び道具的な企画としてARのプロモーションの話が来たりしていたのが、今では社会実装というか、生活の中でどのようにユーザーにとってメリットを与えられるんだっけ、とかなり話が具体的になってきていると思います。表に出てるものは割とプロモーションぽく見えてるんですけど、それも社会実装の目的があって、その手前の実験の段階的な立ち位置でプロモーションを行うという話なので、最終的にはどう社会実装していくかのような話がやっぱりメインになっているのではないかなと。

山口:
一般ユーザーの方が体験するのを目指す本気度が年月とともに上がってきているし、目指せる段階に徐々に近づいてるような感じですね。

井倉:
そうですね。前は自分から情報を積極的に取りに行く人しか得られなかった情報が、今では普通に目にします。開発する側だけじゃなくてXRを採用する側のリテラシーもかなり上がってきてて、的を得た、というか本当に実現したら良さそうだなと思うアイディアがいろんなところから出てきているので、早い段階で実装に向かうっていうのはあるんだろうなという感覚はあります。

山口:
その過去からの変遷を踏まえて、5年後にあったらいいなと思うものはありますか?今年で言うとAppleのVision Proが出て、NBA選手などがファッションであんなでかいゴーグルをつけてるって、Appleっていうブランド力とファンがいる会社が初めてXRデバイス出したっていうインパクトもあると思うんですけど、そういう変遷を経て5年後、業界や社会の浸透度だったりのビジョンはありますか。

井倉:
Vision Proが出たときに、彼らってヘッドセットやHMDって呼ぶなってずっと言ってて。彼らは「空間コンピュータ」だと言っているんですよね。レギュレーションにもそれが入ってるぐらい言葉の規定があるんですけど、その考え方が面白いなと思っていて。今のHMDってゲーム機と近いような扱いになっていますよね。でも、僕もVision Proを体験しましたが、日常的に使うのにもっと軽くしたり、現実問題解決すればものすごく使いやすいものなんですよね。なので、特定の分野においては絶対あれ使った方がいいよねっていうのが今後すごい速いスピードで出てくると思っています。それが特定の自分の周辺のパーソナルスペースなのか分からないですけど、例えば自宅で仕事するときはVision Proでやる方がいいよね、のような世界観になるとちょっと面白いなと思います。今でもXrealをサブモニター代わりにすでに使っていますし、ないよりあった方が仕事がはかどります。

それで、STYLYにおいての僕のチームが推進しているのは、業務改善よりエンターテイメント寄りなので、体験するためのデバイスが普及してないといけないという話が常にあって。そういったデバイスの導入を含めた提案もやっていきたいと思っています。今は不動産デベロッパーや商業施設で体験できるエンタメを提案していますが、施設側が持ってるデバイスじゃないと駄目、ではなくて、一般ユーザーもそういったデバイスを持っているという状態になると、もっと提供できる体験が増えるしクオリティも上がるので、そういった世界観になると嬉しいなと思いますね。

印象に残ったplaynotとの案件

山口:
最後に、井倉さんがplayknotと一緒にしていた案件で、印象に残ってることはありますか?

井倉:
いくつかあるんですけど、印象深いのは2つあります。よく一緒にしてる案件っていうのは、大まかには企画の部分、その企画のクリエイティブデザインの部分、実装の部分という3つで、その3つ中でplayknotさんにお願いすることは案件によってまちまちなんですが、企画の部分を考えるリソースが足りない時や、実制作の部分でリソースが足りない時によくご一緒してもらってます。その際はいつもすごく助かっています。

もう1つは、STYLYとしてはかなり珍しいタイプの案件があって大手メーカーさんのUX研究の部分で、なかなかそういう案件って社内でやってきていないし、デザイナーがいないとできないタイプの案件で。UX研究するためのプラットフォームとしてSTYLYを使って、ただその研究の目的だったり課題だったり検証方法だったりという設計の部分はplayknotさんにやってもらって、というところは、個人的にも面白い案件だったし、すごく助かりました。

おわり

今回は、今回は、株式会社STYLYの井倉北斗氏にインタビューを行いました。

「カケルプレイノット」では、様々なXR/メタバースの業界人へのインタビューを通して、業界のリアルな声と熱量をお届けしています。

ぜひ他の記事もご覧いただけますと幸いです。