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話題沸騰の「silent」会話紡いだテクノロジーの誕生秘話|PLAYER’s File #001

こんにちは!「一緒になってワクワクし、世の中の問題に立ち向かう」プロトタイピングチーム・PLAYERSです。

この連載では、世の中の問題に対して傍観せず、解決に向けて自ら取り組む「PLAYER」が集まった「PLAYERだらけの世界」を目指す私たちが、いま活躍中のPLAYERをご紹介していきます。

第1回のPLAYERは、SNSを中心に話題沸騰となった、フジテレビ系TVドラマ『silent』で登場し話題になったコミュニケーション支援アプリ「UDトーク」開発者の青木秀仁さんです。

写真:青木秀仁さん

青木 秀仁(あおき ひでひと)
Shamrock Records株式会社代表取締役。
音声認識と自動翻訳技術の活用を得意とし、多数のスマートフォンアプリをリリース。コミュニケーション支援・会話の見える化アプリ「UDトーク」などの開発や、レンタル&イベントスペース「Nerima Base」を運営。
一般社団法人Code for Nerimaの代表理事も務め、ITを活用した東京都練馬区の地域課題に取り組む。


自己紹介をお願いします!

青木秀仁と申します。Shamrock Records株式会社の代表取締役で「UDトーク」の開発をしています。

写真:UDトークが起動しているスマートフォンの画面

「UDトーク」とは?
コミュニケーションの「UD=ユニバーサルデザイン」を支援するためのアプリです。
・「音声認識+音声合成」機能を使って視聴覚障害間コミュニケーション
・「多言語音声認識&翻訳」機能を使って多言語コミュニケーション
・「漢字かな変換や手書き」機能を使って世代間コミュニケーション
という3つのコミュニケーションを支援しています。1対1の会話から多人数の会話や会議まで、オンラインでもオフラインでも使い方次第で幅広く活用することができます。
https://udtalk.jp

他にも、自宅と会社がある東京都練馬区で「一般社団法人Code for Nerima」を運営し、練馬区や地域団体の方達と一緒に様々な活動をしています。その活動の延長で「地域コミュニティを作りたいな」と思い、自分の会社の空いているスペースを使って「Nerima Base」というレンタル・イベントスペースを運営しています。そこで趣味のガンプラのイベントを企画したり、手話や中国語・英会話などのイベントも開催しています。地域の方にもそのスペースを借りていただいて、いろんな方と交流が持てる接点を作るようなことをやっています。


「UDトーク」がドラマ『silent』に登場し、周りの反響はいかがでしたか?

ドラマ放送日の1日だけで約3万のアプリダウンロード数があった回もありました。無料ユーザーのサーバー負荷がぐっと上がったので、今まで使ったことがない人がドラマの影響で増えたのかな、と思っています。

「UDトーク」がドラマの中で使われたことによって、聴覚障害がある友人が「日常生活の中でUDトークの説明をしなくてもよくなった」と言っています。「UDトーク」を起動したスマホを見せたら「あ!ドラマに出てきたやつよね。これに向かって話せばいいんでしょ」みたいな感じで。いろんな人が「UDトーク」を知ってくれてるので、TVドラマの効果はやっぱりすごいなと実感しました。

TVドラマ『silent』あらすじ
“主人公の青羽紬(川口春奈)が、かつて本気で愛した恋人である佐倉想(目黒蓮)と、音のない世界で“出会い直す”という、切なくも温かいラブストーリー。高校時代に恋人として幸せな日々を過ごしていた紬と想。しかし、想が地元・群馬を離れ東京の大学へ進学したタイミングで、突然紬に別れを告げ、姿を消してしまいます。それから8年の月日が流れ、紬は幼なじみで想の友人でもあった湊斗(鈴鹿央士)とともに過ごし、将来を考えるように。そんなとき、紬は駅で偶然、想を見かけ…。大切な人との別れを乗り越え、今を生きようとしている女性と、障がいを患ってしまったことで自分と向き合えず別れを選んでしまった青年。音のない世界で、もう一度“出会い直す”ことになった2人と、それを取り巻く人々が織り成す、せつなくも温かい物語が紡がれます。”

引用:フジテレビュー!!(https://www.fujitv-view.jp/article/post-687001/)


ドラマの中での「UDトーク」の使われ方について、開発者の感想を聞いてみたいです!

ドラマ全体を通して良かったのは、「UDトーク」を「話し手が使う」というのを徹底してる点だと感じました。ドラマの中で「UDトーク」が初登場したシーンは、耳が聴こえない想がスマホを出して使っていたけど、それ以降は紬が自分のスマホにインストールして使っているので、必ず話し手がアプリを使うっていうふうな見せ方になっています。

例えば、この初登場のシーン。拾ったままの紬のイヤホンを返したい想は、カフェで待ち合わせをします。テーブルに向かい合って座り、手話ができない紬が話したいことをスマホに文字を打ち込み始めると、想が「UDトーク」のアプリを開いた自分のスマホを差し出していました。相手が手話を使えなかったり、会話の手段に困っていたりする場合に、聴こえない側から音声認識アプリがあるよ、スマホに向かって話すと文字が出るんだよ、っていうことを相手に伝えるのは、最初のステップとしては適切ですね。筆談を始める際に「ここに書いてください」ってメモを差し出すのと同じ感覚だと思います。

ドラマの中で、話した声の誤認識や誤変換が全くなかった点に突っ込まれたりもしましたが、これはドラマですから(笑)。でも登場人物の名前はちゃんと単語登録をしていましたね。もちろん周りの騒音や話し方によって誤認識をすることはあります。しかし、正しく認識するかどうかというより、そこで話が伝わったかどうかの方が大事だし、たとえ誤認識で同音異義語などが出てきても読み仮名が振ってあれば分かってもらえる時もあるし、分からなかったらもう一回自分が話せばいいのですから。その部分が全部ドラマでカットされてると思えば、これでいいんじゃないかなって気がします。

想が話すときは、スマホのメモアプリに文字を打って、画面を相手に見せていましたね。実は「UDトーク」のアプリ内にもキーボードで打てる機能があるんです。さらに「トーク公開する」というQRコードでお互いの端末同士をつなげると、LINEのように自分のスマホでやり取りすることができます。この機能は使われなかったのでちょっと残念でしたが、ドラマ的には自分のスマホで文字を打って見せる感じでいいのかなって思います。

写真:手話を話す聴覚障害者の女性と、もう一人の女性がUDトークを使って話している

「UDトーク」の使い方はかなり研究して今回のドラマに出しているのではと思っています。僕はドラマの制作現場に関わっていませんが、手話や実生活の監修という形で実際のろう者や中途失聴者が携わっていますし、「UDトーク」だけではなくコミュニケーションの方法などドラマのシナリオに関わる部分は丁寧にストーリーを作ってるみたいです。

今までだと、同じ聴覚障害がテーマのドラマで「愛していると言ってくれ」や「オレンジデイズ」など、いろいろあったと思います。これまでのドラマと今回で大きな違いっていうのが、コミュニケーションの取り方が音声認識アプリが入ったことで、すごく劇的に変わっているなってふうに思っていて。ラブストーリーという観点から見ると、スマホが登場する前のラブストーリーって基本「すれ違い」。昔は待ち合わせをするときには電話をしたりとか、駅の掲示板とかを使っていたんですよね。待ち合わせに来るか来ないかなんて分からない時代で、だから待ち伏せをしたりとか、その人がいるであろうとこに行ったり、そういうふうなのが恋愛ドラマだったんです。

でも、スマホやLINEなどが登場してから、自分たち昭和世代が恋愛ドラマの醍醐味として観ていた「すれ違い」がなくなりました。聴覚障害者をテーマにしたドラマでも、コミュニケーションができなくて、恋愛に発展して……というストーリーが王道だけど、今回の『silent』でそのストーリーにしてしまうと、現代の話じゃなくなってしまうと思います。なぜならすでにスマホや音声認識があるから、基本、コミュニケーションの「すれ違い」がドラマにならなくなりますよね。「すれ違い」を恋愛ドラマに取り入れることが難しくなった時代に、スマホなど現代的なコミュニケーション手段を活かしたストーリーを作るのって難しいよな、と思いながら観ていました。


「UDトーク」を開発した経緯は?

元々は株式会社アドバンスト・メディアという音声認識技術を開発する会社でプログラマーとして働いていました。2007年にiPhoneが誕生してから、音声認識技術を活用したiPhoneアプリをリリースする仕事を担当し、その後2011年からは自分で会社を設立してアプリをリリースするようになりました。
ある日、ユニバーサルデザインの分野で活動されている松森果林さんという方から問い合わせがありお会いすることになりました。
実は、松森さんは僕にとって人生で初めて出会った聴覚障害者でした。僕のような聴者と話すときは手話通訳や要約筆記(話の内容をその場で文字にして伝える)の人をあいだに挟んで会話をしていました。当時の僕は、間に人が入るというのが、会話の在り方としてすごく不自然だなと感じて、できれば直接話したいなと思いました。

それをきっかけに、音声認識で話した言葉が書き起こされる「UDトーク」のプロトタイプ版みたいなものを作って、松森さんに次に会うときに持って行ったんですね。「こんなアプリがあると僕の話がわかりますよね」っていうふうに見せたのです。そこから本格的に開発に取り組み、アプリとしてリリースをしました。
そういった経緯もあり、「UDトーク」自体は聴覚障害者のためのアプリだと思っていません。まさしく当時の僕のような「聴覚障害者と話したい聴者のためのアプリ」だと位置付けています。


SNSで発信すること伝えたいことは?

これまでYouTubeチャンネルで情報発信を行っていて、「UDトーク」の使い方動画を105本(2022年12月時点)公開しています。また、ドラマをきっかけにTwitterアカウントのフォロワーが約1,000人も増えました。
SNSでは、徹底して「話し手が使うアプリ」だということ、そして「障害の社会モデルの考え方」を伝えています。

社会モデルの考え方とは、「障害は個人の心身機能が原因である(医学モデル)のではなく、社会の仕組みにある」ということ。聴くことができない側ではなく、周りの伝える側の人が「UDトーク」を使えば、聴覚障害の「障害」はある程度解決しますよ、ということをひたすら言い続けています。

聴こえない人だけではなく、文字として視覚的な情報が必要な人は他にもいると思います。僕も音で聴くより文字やビジュアルで見た方が話が理解しやすいタイプなので、「UDトーク」の字幕があるとすごく人の話を聞くのが楽になります。もちろん海外の方も日本語を文字で見た方が分かりやすいときも多いと聞きます。そして「UDトーク」には翻訳機能もあるので、多言語対応もある程度可能です。
「UDトーク」がこの社会で話を伝えるためのツールとして、一つの選択肢としてあればいいですよね。

僕は「自立支援」という言葉が嫌いなので、障害者自身が自立するために頑張れって言うのは、おかしな話だと思います。
聴覚障害がある松森さんと初めて出会ったときに、彼女に対して決して頑張れとは思いませんでした。自分が伝えたいことを伝えるスキルがないことが課題と自覚し、例えば音声認識で文字になれば伝えることができるし、パソコンで打つにしても自分の方がやれば伝えることはできる。手話を覚えるのも一つの方法。伝える側が相手に伝えるための方法を考えていくことが、コミュニケーションにおける課題を解決していくものなんじゃないかなと思います。


青木さんが「UDトーク」を通じて思い描く未来像は?

聴こえる人みんなが当たり前のように「UDトーク」を持ち、使い方を知っていて使うことができる未来を思い描いています。
僕は、相手に話が伝わらないのは100%話し手の責任だと思っています。話を伝えるっていうことに関しては、もう少し「伝わっているか」に気を遣ってもいいんじゃないかなと思うことが日常の中で多々あります。

アメリカなど大陸の国の場合はいろいろな人が行き交うので、そもそもお互いの言語が通じることが当たり前じゃない。通じないのが当たり前だからこそ、通じるように工夫をするようになります。
けど日本の場合、多分同じ日本人だからなのか、日本語が分かっていれば、意識して伝えようとしなくても分かるとつい思いがちですよね。もっと伝え方を工夫する意識がついてくるといいかなとは思います。その工夫するのに「UDトーク」が使われれば嬉しいですね。

もし社会モデルによってコミュニケーションの課題が解決した先には、「UDトーク」はプロダクトとして役目を終えるときが来ると思うんです。このアプリが用済みになったら、コミュニケーションの社会課題がすでに解決されている状態になっているといえますよね。
「UDトーク」に頼らなければコミュニケーションができない社会はまだ未熟かなと。最終的に目指す未来は、「UDトーク」がなくなることですね。


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以上、青木秀仁さんのインタビューをお届けしました。
もし、「PLAYERだらけの世界」を目指す私たちの活動に共感した方がいらっしゃればこちらのフォームから気軽にご連絡もいただけると嬉しく思います!それでは、次回のPLAYER’s Fileでお会いしましょう!

また、PLAYERSではこのような紹介記事ならびに、最新の活動内容や進行中のプロジェクトを中心に、ぜひ注目して欲しい世の中のニュースやトレンドなど、皆さまが「PLAYER」としてワクワクしながら生きていくために役立つ情報をお届けるメールマガジン『PLAYERS Journal』を定期配信しています。よろしければ以下より購読のご登録をお願いします!



※今回の記事は​​「UDトーク」を使った、障害者による文字起こしサービス「文字起こしと字幕データ作成」を利用した文字起こしを元に記事を作成しました。
サービスの詳細はこちらをご覧ください。

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