わたしがうつになるまで
わたしは2023年、高校を卒業して九州の田舎から大阪へとうつり住んだ。
小さな頃からの夢であったパティシエを目指して、2年制の製菓学校へと進学するために。
いろんなところから集まってきた友だちと、たくさん学んで決して安くない学費を絶対に無駄にしないようにしよう、絶対に諦めずに頑張ろう!と思っていた。
内気な性格なうえ普通科高校に通っていたこともありなかなかクラスや業界の雰囲気に馴染めず本当に苦労した。ともだちと話が合わなかったり、周りの空気を読んで今必要なことをすることがなかなかうまくできなかったりした。
でも、でも、ずっと夢だったパティシエに近づいていることが嬉しくて、必死に必死に食らいついて頑張った。
慣れない一人暮らしも、名店といわれるケーキ屋での初めてのアルバイトも、先生とマンツーマンの学校の役員も、家での練習も両親を田舎に残してきたことへの罪悪感への対処も。まだまだ頑張り足りない、わたしはすごく恵まれているんだからと思ってもっと、もっと、と。実家に帰省するたびに心配をかけないように、楽しんでいるようにとしんどいことを見ないように見ないようにしていた。
うまくできている、そう思っていたけれど、そんな生活続くはずもなかった。
ひとは、ガス抜きをしないとパンクするんだという当たり前のことを、思い知った。
長い春休みの間帰省していたわたしは帰る前日に号泣してしまい、学校をやめることになった。大学生になってまた色々考えてみたら良いんじゃないかと両親と話した。
そうしてことしがスタートした。
だいじょうぶ、勉強は嫌いじゃないしきっとうまくいく、そんなことを考えてた。
勉強を続けつつ、向いていないと分かっていながらなぜまたこの職種を選んだのかはわからないが、わたしは地元のパン屋さんへアルバイトとして働くことになった。前の店ほど忙しくなさそうだから大丈夫だろうと踏んでいたが何もかもが違い、わたしはまあ呆れるくらい見事なポンコツであった。
「このプリンのレシピはこうやって考えるんだよ」
「楽しいでしょう?」
「この楽しさがあなたが挫折した道の先にあるものだよ」
「いきちゃんが大阪から帰ってきた理由が一緒に働いていてわかるよ〜!笑」
「新人さん今日はありがとう!全然役に立てなくてごめん?いやいや全然!!いきちゃんに比べたら何倍も何倍も素晴らしいよ!!ありがとうね!」
「うちにはいきちゃんという伝説があるからね、これからどんな人が来ても驚かないよ」
「次のバイト先でうちで働いてたこと言われるのすごい恥ずかしいんだけど笑」
「なんか、あなた本当に変だねぇ笑」
「私もいきちゃんみたいにあわあわしてみようかな、そしたらなんかなんでも許してもらえそうじゃない?」
かろうじて残っていた自尊心が、日に日に削れていくような感覚があった。
誤解がないよう伝えておくがバイト先の人達は本当に優しくて良い人達ばっかりだ。
ただただ本当に、ほんとうに私が出来損ないのグズであるだけなのだ。いじることで笑い話にして、楽しく働こう、そんな思いでかけてくれた言葉なのだ。
ただ、ただ、そのころの私には、勉強と、学校を辞めてしまった罪悪感と、夢をあきらめてしまった喪失感とを抱えていた私には、笑い話にしてくれているな、ありがたいな、ときちんと消化することができなかった。
夜になると言葉を反芻して反芻して泣くことしかできなかった。
失敗が怖くなり、人の声、目線が気になって気になって仕方がなかった。
そんな状態で接客なんてできるはずもないが、狭い田舎のパン屋である、従業員はどこかしらでつながりがあり急にバイトを飛ぶなんてそんなことしたらわたしだけでなく家族にまで迷惑がかかる、そんなこと出来ないと思い、慌て、震えてミスを連発しながら隣の先輩のため息をBGMに接客をした。
泣きながらバイトに行き、あわあわしながら働き、失敗し怒られ笑われ、へらへらし、また泣きながら帰った。
帰ってから勉強する気力なんてなかった。
そんな日はベッドの上で英語を聞き流し、その日の失態を思い返して泣いていた。
次のバイトの日が怖くて怖くて仕方がなかった。
自分は社会にとっていないほうがいい人間なのだと思い、また泣いた。
勉強も死ぬ気でやったがなかなか頭の中が整理されなかった。
そうして、眠れない日が続き、文字が読めなくなり、どうしようもない状況からとにかく逃げたくて、いなくなることで自分の辛さを誰かにわかって欲しくて、取り立ての免許をもち親の車で隣町までひたすら走った。
日暮れに両親から連絡が来て、泣きながら電話をした。
家族で話し合って、心療内科を受診したいことを両親に伝えた。きっと抵抗があっただろうに、いいよと了承してくれた。
そうして心療内科を受診して、わたしのポンコツはどうやら不注意型ADHDの特性であることと、うつ状態にあることがわかった。
怠けじゃない、努力不足じゃない、そうわかった気がして安心した。
ほんとうに?
わかったとして、どうだっていうんだ、今私は一日中ベッドの上にいる、抗うつ薬を飲んではいるが状況なんて少しも良くなりゃしない、眠くてふらふらする、気持ち悪い。入試の日程は変わらないし、勉強だってどんどんできなくなっている。
わからない、わからないけどわたしは今日も昨日も一昨日も、きっと明日だって死んでしまいたくて死んでしまいたくてたまらない。
わたしじゃないなにかになりたい。
ここじゃない何処かに行きたい。
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