折り紙と祈り

久々の快晴。強い風が吹いていた。医務室のカーテンが大きく揺れる。

しかし、高齢者の皆さんが注目するものと言うのは、必ずしも窓の外とは限らないようだ。

車椅子で自走できるけれど、いつも部屋に閉じこもっているお婆ちゃんがエレベーターの横の壁の真ん前で留まっている。トイレとは逆の方向には滅多に居ないので「あれ?大丈夫?どうかした?」と声をかけようと思ったが。

彼女は壁一面に私が貼った折り紙のアジサイやデンデンムシ、長靴、パラソルを眺めていた。
何てことはない折り紙細工だ。でも、それを無心に見つめてくれていた。
そして廊下沿いに移動して飾りをゆっくり追いかけるように壁を見詰めて散歩していた。

アジサイを折ったら、葉っぱがあるといいなと思って折り、それを貼ると「デンデンムシがあるといいな・・・」と次々に浮かんで、パラソルを貼り付けてから数日後に、介護のHおばちゃんが『長靴!長靴が欲しい!』と、人の肩をバンバン叩くので「はいはい。」と折った。
一番最初に喜んだのは、このHさんだった。最年長だと思われるのだけど、中身が少女のようで。
そして、ここの利用者さんたちが喜んでくれることを想像して、それがますます彼女をキャーキャー言わせるのだ。『ありがとう!ありがとう!』と。

数日後、そこに女の子の絵を貼り付ける人が居たり、また別の人がテルテル坊主を作って貼り付けた。

そうして施設の壁が賑やかになったのだが、こんな折り紙ごときに思いのほか、皆さんが喜んで下さるのは何故だろう?と思いきや、ふと見ると泣いている人もあり。

多分、偽の花々や偽の風景の中に、昔の風景や想い出を重ねてみているのだろうと思う。
語らない人のそれは知るよしもないが、多分それこそがその人の本当の季節なのだろう。

やってみて良かった。

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