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平野啓一郎『ある男』を読んで 2021年11月6日(土)

久しぶりに文庫本を買って読んだ。
平野啓一郎の『ある男』。
すでに妻夫木聡主演で映画化が決まっており、監督は『蜜蜂と遠雷』の石川慶。
来年公開のようだ。

宮崎県の田舎町に流れてきた男が土地の女性と結婚する。
土地の女性は横浜に住んでいたが、幼い次男を病気で失う。そのことがきっかけで夫と別れ、長男と共に実家のある田舎町に戻っていた。
結婚したあと長女を設けるが、男は仕事である林業で命を落とす。
疎遠だった男の家族に連絡を取ると男の兄が田舎町にやってくる。
兄は弟の写真を見て、この男は誰だ?と言う。
その時に初めて田舎町に流れてきた男は他人の名前や戸籍を使って生きてきたことがわかる。
土地の女性は混乱し、離婚した時に世話になった弁護士に相談する。
その弁護士がこの小説の主人公である。

物語は一種の探偵ものの定型をなぞるように、田舎町に流れてきた男が何者だったかを弁護士が探していくのだが、主題は違う。

生い立ちや過去の行いがその人のどこまでを規定するのかを問いかける小説であり、この男が何者かを探し続ける過程で探偵役の弁護士も家庭の悩みや自らの出生などを問い続ける。

この手の小説はあまり読んでこなかったので、解説は別の方に譲るが、映画化となるとかなりこの主題を描くのは難題だろうと想像する。
表面をなぞると単純な探偵ものになってしまう。
果たしてこの小説を石川慶監督はどのように脚色するのか。
映画の公式サイトの謎の男を演じる窪田正孝の表情を見る限り、期待しても良さそうである。

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