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人新世の『資本論』

"本書は(中略)『人新世』における資本と社会と自然の絡み合いを分析していく(中略)150年ほど眠っていたマルクスの思想のまったく新しい面を『発掘』し、展開するつもりだ。"2020年発刊の本書は気鋭の経済思想家が、資本主義の限界を指摘し、脱成長社会『3.5%』への参加を促す刺激的な一冊。

個人的には、とかく【年配の方ほど過敏、過剰に否定しがちな】マルクス【しかもそれで『脱成長』を語る】という切り口に惹かれて手にとりました。

さて、そんな本書は国連が"人類共通の目標"と掲げ、どの国の政府も大企業も(本気度はともかく)推進する【SDGsは大衆のアヘンである!】から始まり、資本主義下におけるSDGsやグリーン・ニューディール、ジオエンジニアリングといった政策(あるいは個人レベルでのエコバッグやマイボトルといった消費における善意)では、結局は資本主義の根本問題を温存したままであり【人間たちの活動の痕跡が地球の表面を覆いつくした年代】『人新世(ひとしんせい)』における環境汚染、気候変動は止められないことを丁寧に説明した上で。

後半ではあまり語られてこなかった、生産力至上主義からエコロジカルな理論展開を果たした【晩期マルクスの大転換】に研究者として着目【脱成長社会を目指すコミュニズム】について、バルセロナの『気候非常自体宣言』などの事例を紹介しながらグローバル・サウスから学ぶ必要性、その上でボトムアップでの『資本主義の超克』『民主主義の刷新』『社会の脱炭素化』の三位一体のプロジェクトでの社会システムの大転換を提案しているわけですが。

まず、はじめのSDGs批判もそうですが。本書ではおそらく【意図的に過激に煽る語り方をしている】ところは確かに感じられましたし、マルクスしかりピケティしかり、我田引水している部分もあるかもしれませんが。しかし、よほど【資本主義は万能である】と考えている人はさておき『右肩上がりの成長しかない』『中心の為に周辺を犠牲にする』といった資本主義の【在り方や抱えている問題点】に気づいている人や、相次ぐ自然災害やコロナ禍で【危機感を真剣に感じている】人にとっては、本書はやはり強く共感を覚える方が多いのではないか。と思いました。

また、こうしたチャレンジングな【同時代的な提案をしている】本に対しては、細かい揚げ足をとったり、逆に全てを鵜呑みにするのではなく【自分ならどう考えるか】とする『著者との対話的な読み方』をするのが(あくまで個人的には)適切ではないか。と考えるわけですが。良くも悪くもSDGsしかりファッション的な消費『川下』に違和感を覚えている私にとっては、生産『川上』に着目する部分にはやはり共感したし、また政策によるトップダウンに期待などせずに、地道なアクションを促がしているのも好感を覚える読後感でした。

気候変動に危機感、そして資本主義に限界や矛盾を感じている誰かへ。あるいは研究者による新たなマルクス解釈に興味を覚える人にもオススメ。

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