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文明の衝突

"民族の衝突や文明の衝突が起こりはじめている世界にあって、西欧文化の普遍性を信ずる西欧の信念には三つの問題がある。すなわち、それは誤りであり、不道徳であり、危険である"1996年発刊の本書は、冷戦後の地域主義と宗教の再生、世界秩序における異なった文明グループの衝突を予見していて刺激的。

個人的には『世界を単純化している』『民族紛争を煽る』『そもそも米の自作自演』など、様々な内容批判が出版当時からあったとしても、本書出版後に【実際に起きた紛争を予見した】とされ、さらには2019年現在における米中間競争での相互の『異なる文明、異なるイデオロギーとの戦い』または『異なる文明の交流と対話』といった政治家たちの発言にも強い影響を与えているとされる本書は20年以上経過しても、やはり読むべき意味を保っていると思い手にとりました。

さて本書は、冷戦時代の戦略理論家であった著者が【政治的ではなく文化的なまとまり】と文明を位置づけ、西洋、儒教(中華)、日本、イスラム、ヒンドゥ、スラブ、ラテンアメリカ、アフリカと分類すると共に、今後、西洋(ヨーロッパ、アメリカ)の影響力が、中華、イスラムなどの非西洋圏パワーの台頭により次第に相対的に低下していく中で、【特にアメリカがすべきこと】(例えば多文明に介入してはいけないなど)文明間の衝突を避けるべきである事を提案しているわけですが。ソ連崩壊後に起きたバルト三国や中東での地域紛争をあらためて理解したり、また現在の第二次世界対戦後の西洋諸国に依然として偏った国連などの国際協調体制の枠組みの限界について再認識する機会となりました。

また、やはり日本人としては冷戦終了、あるい本書発刊後の失われた20年間ですっかり政治的、経済的な世界的影響力(あるいはアメリカからの利用価値)を失う一方で、さりとて【言語や文明、宗教の違い】からアジアにも溶け込む事も出来ず【更に文明として孤立化を深めるであろう日本】が未来予測の一つとして、中国とヴェトナムの争いにアメリカが干渉する事で発生する世界戦争において【日本が中国にすり寄って参戦、荒廃する】と著者により描かれる悲観的なシナリオは、進行形の不吉な予測として考えさせられるものでした。

ニュースで流れる国家間の単純比較ではなく【言語圏や文明】といった俯瞰的視点で世界情勢を理解したい誰かへ。また西洋文明、アメリカからの世界視線を知りたい誰かにもオススメ。

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