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人を傷つけないように気遣った表現より、正直な表現の方が案外人を癒すものなのかもしれない【ミッキーかしまし(西加奈子 著)】

私は正直であることの凄まじさを知ったぞ。
(突然)
いや〜〜〜
おもれ〜〜〜〜
人っておもれ〜〜〜
これだからエッセイを読むのはやめられませんね。

西加奈子さんの「ミッキーかしまし」を読みました。

いや、何が良いって、正直なんです。
まじで正直です。(に、私は感じます)
私も正直に言うと、(正直正直言うから頭おかしくなってきた)西さんの全てに対して「いいな」と思うわけではありません。
「あ〜この人のここ苦手だな」とか
「これは無いっしょ」とか、全然思います。
(そりゃ人間だから当たり前だと思うのですが)
でも、西さんが正直だから、こっちも正直に心が動く。
正直でいられてる人に触れると、こっちも正直になれるんだと思います。
この本を読んで本当にそれを思いました。
逆に正直じゃない、というとわかりにくいですが、本当は腹の底からはそんなこと思えてないのに、きれいにまとめようとして「こんなこと言っときゃいいだろ」みたいな言葉の前では、心は動かないし、教科書を読んでるみたいな、雑誌の向こうで芸能人が当たり障りのないこと言ってるのを見る、みたいな感覚で止まってしまうんだなあ、と。
正直でいられる人の凄まじさを知りました。

正直という言葉もしっくりこないのですが、これ以上いい言葉がなく悔しいです。
正直というよりか、飾り気がない、ということでしょうか。
おしゃれな言い回しとか、わかったようなことを言う、とかじゃないんです。
誰にどう思ってほしい、とかそういう思惑が(あるのかもしれないけど)あまり伝わってこない、だからこっちも丸裸な状態で(実際には全然パジャマ着てます)受け取れる、というか…。

例えば、西さんが綺麗だなと思ってみていたお花を、見知らぬおばあちゃんが万引きした瞬間を見た時。
その日は夕焼けがとても見事だったそうです。

おばあさんが、バケツから青いアネモネを一本、ひょいと抜き取り、そして、そのまま、歩き始めたのです。
それは、一瞬の出来事でした。
そのように、思いました。
おばあさんはアネモネを隠すことなく、堂々と、店の前を歩いていきました。
えっちらおっちら、あんまり遅いから、さっきのあの素早い行動が、嘘みたいでした。
お店の人は、見えていなかったのか、でてきませんでした。
私は、一本なくなったアネモネの、銀色のバケツを見て、それから、ゆっくりゆっくり遠ざかっていく、おばあさんの背中を見ました。
なんだ分からないけど、胸が「じいん」としました。
空は柔らかいピンクと淡い橙、真ん中に紫の帯が出来ていて、銀のバケツの中のアネモネは、赤で、紫で、青で、うっすら濡れている。
おばあさんの髪は真っ白、小さな手で青いアネモネを一本だけつまんで、そのまま、持って行ってしまった。
私の大好きなアネモネ。
考えたら、ただ、「ババァの万引き」です。
でも、その美しい光景に、私はすっかり魅せられてしまいました。
冗談ではなく、何故だか、泣きそうになりました。
あんな気持ちになるのは、久しぶりでした。
「だって、あんまり、綺麗だったんだもの」というおばあさんの声が、聞こえてきそうでした。
「一本だけ。」

ミッキーかしまし(西加奈子 著)

あの、文章の中で、西さんババアとかクソとか見たいなことめっちゃ言ってくれるんです。
そこからして好感なのですが、この文章は素敵でした。
見知らぬおばあちゃんをババァと呼ぶところも、西さんの目を通してしか見えないババァの万引きという物語も、素敵です。

自分の中の美学や理想って、たまに邪魔です。
自分が感じたことが、自分の理想と合っていなかった時、なんか未熟で価値の無いものに思える時があります。
私の理想や美学が私の目でしか見えない、いわゆる自分ならではの物語を「つまらないものだね」と卑下する。
「そっかあ私もまだ未熟だなあこんなことを思ってしまうなんて。事実をそのままの形で捉えられないなあ」と自分の世界観を否定しまいがちなのですが、
そんな風に美学や理想が私の目を通して見えたせっかくの儚い世界を否定するなら、そんな時は耳閉じてしまえばいいのか、と本書を読んでいて思いました。
自分の世界観にどっぷり浸かりすぎて視野が狭くなっていたことを悩んだ時もあったけど(いや現在進行形で悩んだりするけど)、
全部とっぱらうことなんてできないし、むしろしなくていいじゃん!と思えました。
私は私の世界観や、美学、理想と程よい距離を保って付き合っていけばいいだけなんだと。
むしろその世界観は私だけのもの。
せっかく築き上げたその世界観を、手放すなんて、勿体無い、死ぬまで楽しみたい。
そして、その世界観を、なるべく正直な気持ちで吐き出したい、って思うんです。
あくまで私が感じたことだけど、
受け手のことを気遣って、思いやって書かれた文章よりも、
誰かを傷つけるかもしれないし不快にさせるかもしれないけれど、正直に書かれた文章の方が、
案外人を癒すもんなのかもしれないと思うんです。

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