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青春という戦場を乗り切った

父とお風呂に入れなくなったのは、小学校高学年の時。理由は父が嫌だったからではない。

膨らんできた胸が惨めでどうしようもなかったからだ。

子供のわたしから見た時、大人の体はとってもグロテスクだった。
だから大人は自分とは別の生き物に見えたし、自分が将来あの体になるなんて信じられなかった。

だけど、体の成長は容赦なくわたしを襲ってきた。そう、襲ってくるという感覚に近かった。わたしは自身の体の変化が怖かった。

幼心ながら、父の前ではずっと子供っぽくいたかった。それは、逆にませていたからでも、精神年齢が大人びていたからでもなく、単純に父が喜ぶ顔を見るのが好きだったからだと思う。
父がおどけたら、笑う。プレゼントをくれたら喜ぶ。そうすると、父は心底幸せそうな表情をした。その顔を見ると、わたしもハッピーになった。ハッピーがどんどん連鎖して、私は始終笑っていた。

だけど、誕生日を幾度も迎えるうちに、次第に社会についての難しいことを考え始めたり、家族の理不尽な部分に気づいたり、好きな人ができて悩んだりするようになった。でも、そういうことを父に話すのは抵抗があった。もし話してしまったら、わたしから子供の部分が無くなりつつあることを父が知って、悲しむかもしれない。
そう思ったわたしは、わざと、何も知らない風に演じたり、本心を隠したりし始めた。

でも、体の変化はそうはいかない。
こればかりはいくら抗っても太刀打ちできなかった。

胸が膨らんでいることを知った時、まず最初に、あの、体になるのか、という恐怖がわたしを包んだ。
うっすらと毛が生え始めた時、気持ち悪くてこっそり剃ったりした。
生理が来た日、これから一生監獄に入るかのような絶望を味わった。

みんながみんな、体の成長に対してここまで怖い思いをするのかは分からないけど、わたしは本当に怖くて、気持ち悪くて、嫌で嫌で、とにかく逃げ出したかった。

「お風呂は、ちょっと…」

始めて父とのお風呂を断った時、父は悲しそうな顔をした。「そんな目で見ないのに」とかなんとか言っていたけど、そうじゃなくて、変化しつつある不細工な体を見られたくないというのが言えなくてもどかしかった。言ったらうじうじ悩んでる可愛くない自分がバレるから。
でも、今なら分かる。父はわたしの体を見て嫌悪したりなど絶対にしなかったということを。

成長には痛みが伴う。大人の階段は綺麗なガラスで出来ているのではなく、戦場のように槍や鉄砲の玉が飛んでくる荒くれた岩地なのだと思う。
でも、だからこそ、人は変われるのかもしれない。体も、心も。

今日、弟が大学に合格し、家族4人で天ぷらを食べに行った。
父も母も弟も笑っていて、わたしも結構笑っていた。そこには昔と変わらない、ハッピーがあふれていた。

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