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セキセイインコと和解した話

私が人生で最初に"魂"の存在を感じたのは、小学1年生の時。
私が生まれる前から両親が飼っていた、一羽のセキセイインコが亡くなったときだ。

私はインコのぴーちゃんに嫉妬されていた。
私が生まれる前、家族の主役はぴーちゃんだった。首元まで鮮やかな青色をしたオパーリンの女の子。鳥好きの父と笑い上戸の母の間で愛されて、きっと幸福だっただろう。
でも、私が誕生した途端、2人の関心はぴーちゃんではなく私に向けられるようになった。
もちろんぴーちゃんへの愛情が薄れたわけではないと思うが、そうでなくても赤ん坊の世話は焼けるものだろう。しかも私は完全夜型、母は何日も眠れぬ夜を過ごしたという。

今では断片的にしかぴーちゃんを思い出せないけれど、鳥かごに指を入れて「ぴーちゃん」と呼びかけても、私は指を噛まれてばかりだった気がする。見た目はかわいいのにちょっと意地悪な鳥だなあと思っていたが、後からぴーちゃんの嫉妬の話を聞いて、悪かったなと思ったのを覚えている。

そんなぴーちゃんは、晩年に差し掛かると体調を崩し、病気になった。
私にはなんの病気なのか分からなかったけれど、とにかく温かくしていなきゃならなかった。元気だったぴーちゃんはみるみる衰弱していき、ご飯も少ししか食べなくなり、あまり鳴かなくなった。私が鳥かごに指を入れても、力の無いくちばしでくすぐるだけだった。

そしてついにその時が来た。
ぴーちゃんは父の大きな手にくるまれていた。母と私がぴーちゃんを囲むように見守っていた。
ずっと鳴かなかったぴーちゃんが、久々に小さく鳴きはじめた。10秒くらい、まるで喋るように鳴いた。私にはお別れの挨拶をしているように聴こえた。意地悪だったぴーちゃんが、私のことを許してくれたように見えた。
そして、父の手はぴーちゃんの鼓動が止まるのを確認した。

私は初めて目にする生き物の死が悲しくて悲しくて大泣きした。まだほんのり温かいぴーちゃんを初めて両手に抱いて、その消えゆく小さな命がこんなに儚いものだということがただただ悲しかった。そして、私はぴーちゃんが大好きだったのだということに気づいた。
ぴーちゃんは家の庭の土に埋めた。父も母も泣いていた。最後にぴーちゃんのお墓に向かって3人で手を合わせた。

その夜、私は夢を見た。
私の周りは、辺り一面鮮やかなピンクのお花で埋め尽くされていた。その真ん中をつっきる一本道を、私はものすごく愉快な気分で走り回っていた。そして私のすぐ上空には、確かに青い色をした影が私に付き添うように飛び回っていた。
でも、次第に私と青い影の距離はどんどん伸びていった。待って、待って。私はいくら走っても、追いつけなかった。青い影は、私よりもっと愉快そうに飛んで、どんどん遠くへ行ってしまった。
そこで目が覚めた。

「夢の中でぴーちゃんに会った!」
私は、その夢のことを両親に話した。両親は良かったねと言ってくれた。私は飛び上がるほど嬉しかった。幸せで胸がいっぱいでたまらなかった。ぴーちゃんは最後に私に会いに来てくれたのだ。私は夢の中で初めて、ぴーちゃんと和解した。
夢の中で見たあの道は、きっと天国に続いていたのだろう。

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