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プロダクトチームの技術リテラシーを高め、生成系 AI のインパクトを最大化するためのワークショップ

生成系 AI を筆頭に技術革新著しい昨今ですが、日本においてそのインパクトは限定的になるだろうと言ったら驚くでしょうか。本記事で IPA や経済産業省のレポートからその予測根拠を示すとともに、インパクトを最大化する方策として AWS がアップデートしてきたワークショップをご紹介します。AWS がサービスだけではなく活用をガイドするプログラムも提供していることを知っていただけたらうれしいです。


※トップ画像は IBA Boxing の AIBA World Boxing Championships Doha 2015 を使わせていただきました。

生成系 AI のインパクトが限定的になる理由

生成系 AI に対するリーダー層の反応をデータから推察することで、インパクトが限定的になる理由が見えてきます。まず IPA ( 情報処理推進機構 ) の
「 DX 白書 2021 」では「企業変革を推進するためのリーダーのマインドおよびスキル」を日米でヒアリングした結果を掲載しています。 ( 活用が進む ) 米国と日本とでは上位 3 つが見事にバラバラです。

IPA 「 DX 白書 2021 」の図表 13-1 より作成 (2022, 2023 では調査なし ) 

テクノロジーリテラシーは日米で最も開きが大きい項目の一つで、日本で 9.7% の一方米国では 31.7% が重視しています ( 22 ポイント差 ) 。「 DX 白書 2023 」では外部環境の変化を機会と捉える認識についてアンケートを取っており、日本は技術の発展、ディスラプター ( 破壊的イノベーター ) について米国に比べ機会認識が低くなっています ( それぞれ 33.9% vs 51% 、 11% vs 39.8% ) 。このことから、まず生成系 AI のようなテクノロジーの進化を機会ととらえ活用する回数が少ないと考えられます。

大きなインパクトを創出するには、ビジネスモデルの変革が必要になることもあるでしょう。事業構造の変革をピボットと捉えると、同じく IPA が興味深いデータを公表しています。「成長しない日本のソフトウェアスタートアップ 国内競争を促進してエコシステムを創出する」を参照すると、日本のスタートアップはピボット回数が約 10 倍少ないことがわかります。ピボットの理由の中でも、テクノロジーリテラシーに関係する「他の有望なテクノロジーの出現」は日本が 13% 、米国が 51% と最も開きが大きい回答の一つになっています。

IPA: 「成長しない日本のソフトウェアスタートアップ 国内競争を促進してエコシステムを創出する」より引用

ピボットにはいくつか種類がありますが、例えばビジネスモデルのチャネルを変革する例としては、チャネルを生成系 AI プラットフォーム ( ChatGPT のプラグインなど ) にフォーカスすることが考えられます。日本だとカカクコムが食べログを ChatGPT の Plugin として公開したのが有名ですが、 ChatGPT のプラグインが月間 200% 近い速度で増える中、私の観測範囲では将来のピボットのためにこのチャネルの可能性を検証している企業はまだ少ない印象です。

調査結果からは、新しい技術が出現してもプロダクトのビジネスモデルは大きく変えない、現状のプロダクト機能ベースの活用が多いと推察されます。これは、経済産業省の「 DX レポート 2 中間とりまとめ」でデジタル化に際し現状のビジネスモデルの継続を前提にしている企業が 75.3% に登ることとも符合し、スタートアップにかかわらず日本企業として共通する傾向であると考えられます ( スタートアップについては、出資元が保守的でやりたくてもできない可能性はあるかもしれません ) 。

では、このような現状を企業はどうとらえているのでしょうか ? 「日本で働くプロダクトマネージャー大規模調査レポート 2022 by pmconf 」を参照すると、プロダクトが成功に向かっている感覚が「ある」「とてもある」が合わせて 60.8% に登ります。

pmconf : 「日本で働くプロダクトマネージャー大規模調査レポート 2022」より引用

先に紹介した「成長しない日本のソフトウェアスタートアップ 国内競争を促進してエコシステムを創出する」からは日本のスタートアップ企業の成長速度が米国に比べ 30 分の 1 以下 であることが読み取れます。つまり、外から見ると低成長率でピボットすべきなのに中では順調と判断している可能性があるということです。pmconf の回答者は 23.5% が従業員 50 名未満、会社が「新興」企業と感じる回答者が 51.4% あることから、スタートアップの現状と回答者の現状は少なくない範囲で重複すると考えています ( もちろん、 pmconf 参加者が有能なプロダクトマネージャーである可能性はあります)。また、 AI 白書編集委員会 の「 AI 白書 2022 」を参照すると日本の AI 導入効果が米国の 7 分の 1 程度しかないことがわかります。「 DX レポート 2 中間とりまとめ」では部分的なデータ分析しかしていないにもかかわらず自社のデジタル化に関する取組状況を「トップランナー」と評価する企業が約 4 割に上ることから、日本企業全体として低い成長率に対する現状の認識が緩いことがわかります。

以上の分析から、日本で生成系 AI はビジネスモデルの変革を伴わない表層的な利用にとどまり、またそれで十分と判断する土壌があることからハイインパクトな事例が生まれる確率が低いと考えられます。

AWS の ML Enablement Workshop とは

そのままでいいはずないので、どうすればよいのか。AWS が示す一つの解決策が ML Enablement Workshop です。2023/10/10 に最新版の 1.1.0 を公開しました。 資料はすべて GitHub で公開しています。

本ワークショップは 3 部構成となっており、プロダクトマネージャー、開発者、データサイエンティストに組織横断的に参加いただきます。

最初の理解編で、事例を参考に次図のようなデータを通じ顧客体験 ( ① ) とビジネス指標 ( ② ) 、次のモデル ( ③ ) が継続的に成長するサイクルを設計頂きます。

AWS : ML Enablement Workshop 理解編 資料より引用

事例はデータサイエンティストの方にプロダクトで役立つものを持ってきていただくことで、チームのテクノロジーリテラシーを底上げします。最初にビジネス成長の仕方を固めておくことで、ビジネスモデルの変化を伴うハイインパクトな導入につなげます。ただ、ビジネスモデルは自社としてやりたいことであって、顧客が乗ってくれるかはわかりません。

次の応用編で、顧客への価値提案のシミュレーションを通じ解決すべき課題を洗い出します。このパートは v1.1.0 で大きく変わった点で、どういう実戦形式が良いか複数パターンを試しました。最終的に、下図のロールプレイに落ち着き、「ワークショップ全体を通じ最も刺激的で学びがあったパート」と評価いただけるまでになりました。

AWS : ML Enablement Workshop 応用編 資料より引用

最後の開始編で、成長サイクル実現に向け段階的に成果と学びを得るための計画を策定します。「ワークショップの時はいいと思ったけど実際やってみたらイマイチだったのでやめた」はよくある事態ですが、それを防ぐためのマイルストンの立て方を解説し、実践いただきます。計画は 1~3 カ月の範囲にフォーカスし、ワークショップ翌日から動けるようにします。

AWS : ML Enablement Workshop 開始編 資料より引用

ML Enablement Workshop の特徴は 3 点です。

  1. 実践的
    AWS のノウハウが詰め込まれています。 「機械学習プロジェクトの約80%が失敗するのは伊達ではないと実感したが、現実に負けないワークショップに挑戦する」で紹介した通り、初版ではアンケートの評価が 5 段階中 3 になったり (AWS では悪い意味で珍しい) 、厳しいフィードバックももいただいています。提供を通じた顧客体験改善に取り組み続け、今回公開した 1.1.0 ではアンケート評価は 5 段階中 3.83 から 4.7 、ワークショップ終了後検討を続ける意欲は 3.67 から 4.8 と大幅に改善しています。お客様からのフィードバックもよく、手ごたえを感じています。

  2. 協調的
    AWS のサービスとプログラムでロードマップの実現を支援します。 特に生成系 AI はプロトタイピングを迅速かつ簡単に行える強力なツールと認識しており API 経由で基盤モデルが使える Amazon Bedrock (2023/10/3 に東京リージョンでも使えるようになりました) 、また PoC 構築のプログラムである生成系 AI イノベーションセンター でユースケースの実現まで伴走します。

  3. 公共的
    GitHub で オープンソースとして資料を公開しており、ライセンスの範囲で無料で利用頂けます。ワークショップを開催するためのガイドは v1.1.0 で特に強化されており、各パートを実施する際のポイント、実施後のフォロー方法などを確認できます。

10/10 に実施された SaaS on AWS 2023 でも本ワークショップを紹介させていただきました。参加表明をプレスリリースで出して頂いたココペリ様よりメッセージもいただきました。ワークショップの後も、プロダクトへの成長サイクル導入を支援させていただいています。

日本のお客様の ML Enablement を進めていくため、海外の最新事例についても情報の収集を進めています。リポジトリの中で「データサイエンスを活用するプロダクトマネージャーを訪ねて」と題しまとめていますが、学びが多いものについては note の記事としてマガジンにまとめています。

ハイインパクトな生成系 AI の活用に向けて

本記事では日本で生成系 AI のインパクトが限定的になる見通しを示し、その解決策の一つとして AWS の ML Enablement Workshop を紹介しました。AWS からのワークショップ提供は無料なものの条件があるため、提供を希望される企業の方はぜひ AWS の御社担当までご連絡ください。資料を使い勉強会や自社開催をしていただくこともできますので、ワークショップ資料の内容等にご質問があれば個別またはディスカッションまでご連絡ください。3 部構成はハードルが高いと感じられている方は、 10/18 に本ワークショップの資料をベースに 2 時間で生成系 AI のアイデア出しと検証を行うイベントを開催予定ですのでご参加検討いただければ幸いです ( 資料は後日公開します ) 。

経済産業省の示した 2025 年の崖まであと 1 年と少し、ペースを上げないと最大年間 12 兆円が失われると試算されています。カギとなる DX 成功パターンの類型を作るにはハイインパクトな事例がどんどん出てくる必要があります。 AWS は生成系 AI や機械学習でインパクトを出したいプロダクトマネージャーの方や、 ML を プロダクトに活かしたいデータサイエンティストの方と積極的に交流しノウハウを交換したいと考えています。先日にのぴらさんとたかくさんのポッドキャストで ML Enablement Workshop を取り上げていただきましたが、お呼び頂ければどんどん出向いていく所存です。

数字を信じるなら、日本はまだ 7 倍の導入効果、 30 倍の成長速度が実現できるはずです。やっていきましょう!

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